絶賛される漫画『左ききのエレン』大人の心に響く伝え方は、ビジネス書で学んだ——アノヒトの読書遍歴:かっぴーさん(前編)
WEBメディアで多数の作品を連載し、多くの大人から支持される漫画家かっぴーさん。2008年、武蔵野美術大学を卒業後、広告業界に就職し、アートディレクター、コピーライター、CMプランナーなどクリエイティブ職を長く経験し、2014年に独立。その際、自己紹介のつもりで日頃思っていることを漫画にし、社内向けに公開すると絶賛され、翌年にはデビュー作となる「フェイスブックポリス」をWEBサイトで掲載し、大きな反響を呼びました。以降は「SNSポリス」を続編とし「おしゃ家ソムリエおしゃ子」「おしゃれキングビート!」「裸の王様VSアパレル店員」など多数の連載を手掛けます。さらに、2016年には「忙しく、遊ぶ」を社訓とした株式会社なつやすみを設立し、代表取締役社長としても活動しつつ、現在はWEBサイト「cakes」にて「左ききのエレン」を好評連載しています。今回は、そんなかっぴーさんの本との出会いや日頃の読書生活についてお話を伺いました。
——まず最初に、本との出会いについて教えてください。
「最初は漫画です。小さいとき、おじいちゃんとおばあちゃんがたまに家に遊びに来ていたんですけど、おばあちゃんに本買ってもらえるので『よっしゃー!』なんて思っていました。『風の谷のナウシカ』『AKIRA』『ロトの紋章』の3冊で迷ってロトの紋章を選んだ、なんて思い出もあります。実は、ほかの2冊を選んでたらどういう人生だったのかなと思うくらい、この漫画には強く影響を受けたんです。でもそれ以降はほとんど本は読まなくて、今までの人生でもたぶん20冊くらいしか読んでないと思います。その中でも一番読んだのはビジネス書。ビジネス書で有名なダイヤモンド社とか、高校生で知ってました」
——ビジネス書からどんなことを学びましたか?
「ぶっちゃけ仕事ではあまり生きなかったんですよ。思考の整理術とか良いプレゼンとは、とかそういう本ばっかり読んでいたんですけど、本10冊読むより1回のプレゼンをする方が学ぶものの方が大きいなっていうのに気付いて、そこからはほとんど読んでいないんです。でも、人がまとめてくれたビジネス書って言い切りが強いじゃないですか。そういう、さも真実であると言い切る感じは連載中の『左ききのエレン』の漫画の口調に似ているんじゃないかなって気がしてます。この漫画は、サラリーマンでも経営陣の方やたくさんの社会人の方が読んでくれていて『この言葉は社訓にしたい』と言ってもらったり、糸井重里さんなどの著名な方にもめちゃくちゃ絶賛して頂いています。広告業界が舞台の作品なので、その業界の人たちはもちろん、そうじゃないビジネスパーソンも読んでくれているんです。それがなぜかなって考えたときに、意外とビジネスパーソンに響く言い方や内容というのは、当時読んだビジネス書で学んだんじゃないかなと思います」
——ビジネス書以外に、仕事の参考にした本はありますか?
「僕が広告代理店でデザイナーとかプランナーとか、アイディアを出す仕事をしていたときに良いなって思った本で『こどもの発想』という本があります。この本は、小学生くらいの子たちが投稿したおもしろ作品を集めた一冊で、もちろん直接的に企画の参考になるわけではないんですけど、自分にもこんな自由な発想をしていた頃があったなとか、真面目に考えて積み重ねたもの以上に、パッと出た子どもの一言が一番おもしろかったりするっていうことが再確認できる本です。広告の仕事をしていて、世に出た良い広告を見たときに、先輩とよく『思考が読める・読めない』っていう話をしてたんです。すごく良い広告だけど思考が読めるとか、企画書が見えるとか。一応アイディアのプロで仕事をしている身としては、そういう分析をしながらおもしろいものを見たりもするんですけど、子どもが考えるものは知恵熱が出てもわかんない。もう勝てないなっていうのがおもしろいところですね」
——特にお気に入りの投稿があれば教えてもらえますか?
「たとえば『孫悟空の武器は何ですか? 間違えて答えなさい』というお題があるんですが、普通、答えは『如意棒』じゃないですか。たぶん広告代理店のプランナーなんかがこのお題を出されたら、如意棒をちょっと捻って発想するようなテクニックを使うと思うんです。でも子どもはもう訳わからないんで『輪ゴム』とか言うんですよね。輪ゴムってどう戦うのか全然想像つかないですけど、子どもにとって輪ゴムは身近な強い武器ですからね。輪ゴムってすごい素敵だなって思います。ほかには『ロケットランチャー』とか。めっちゃ強いよね(笑)。あとは『うんちがついた棒』! この本の1ページに1回はちょっと言い過ぎな投稿、2ページに1回はうんちが出てくるんですよ。ほんと思考が読めないですよね(笑)」
——ありがとうございました! 後編では、かっぴーさんがサラリーマンから漫画家に転身を遂げたきっかけとも言える一冊と、彼が尊敬する謎のアーティストの作品をご紹介します!
<プロフィール>
かっぴー/神奈川県出身。漫画家であり株式会社なつやすみ代表取締役社長。高校生でデザイナーを志し武蔵野美術大学でデザインを学ぶ。卒業後はアートディレクター、コピーライター、CMプランナーなどの職につくが、2014年に転職。その際、自己紹介のつもりで日頃思っていることを漫画で描いて社内向けに公開すると、大ウケし話題となった。翌年2015年には、漫画を見た同僚に背中を押されて描いた漫画「フェイスブックポリス」をWEBサイトで公開し、大きな反響を呼んだ。以降「SNSポリス」を続編とし「おしゃ家ソムリエおしゃ子」「おしゃれキングビート!」「裸の王様VSアパレル店員」などWEBメディアでの多数の連載を手掛ける。2016年には、子どもの頃に憧れた映画の脚本家やテレビ番組の構成作家など、自分が考えた世界を世に広めることを夢見て、株式会社なつやすみを設立。現在は、漫画をはじめ多くのアーティスト、写真家、ビジネスマンなどの執筆するコンテンツを掲載するサイト「cakes」にて、「左ききのエレン」を好評連載中。
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