古代ローマ最強の弁論家「キケロー」に学ぶ、現代でも通用する「説得術」の極意

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古代ローマ最強の弁論家「キケロー」に学ぶ、現代でも通用する「説得術」の極意

■ビジネスでも人生でも使える「説得」を成功させる3大要素とは?

人生は「説得」の連続だ。

仕事でも、営業なら「買ってもらうための説得」、プレゼンなら「自分のアイデアに同意をとりつけるための説得」、クレーム対応なら「相手を納得させるための説得」と説得の連続である。

プライベートでも同じだ。「何を食べたいか」「どこに行きたいか」だって、自分の主張を通すために「説得」をしている。ネット上の議論も「説得」の応酬だと言える。私たちはあらゆる場面で「説得」をしたりされたりしているのだ。

そんな「説得」の理論や技術は、古代ローマ時代にはすでに研究されており、その完成度の高さは現代社会の中でも十分に役立つ知識となっている。

その「説得」の理論と技術を、わかりやすく学べる一冊が『言葉を「武器」にする技術 ローマの賢者キケローが教える説得術』(高橋健太郎著、文響社刊)だ。

キケローとは、古代ローマ最大の哲学者であると同時に一流の政治家でもあった。

彼の『国家について』『義務について』『善と悪の究極について』などの著作は、その後のヨーロッパ文明に多大な影響を与えたことで知られている。また、キケロ―は弁論が政治を動かしていた古代ローマにおいて、最強の論客としても名を馳せていた。

本書は、そんなキケロ―の『弁論家について』という著書で説かれた「説得の技術」を整理し、わかりやすく解説している。

では、「説得」を成功させるには、何が大切なのか?

ありがちな勘違いは「自分が正しいと思うことを語れば説得できる」というものだ。

「正しさ」は、それを見る角度、見る立場、見る人の気分で変わってしまう。説得の場面で大切なのは、自分の説得が「相手に正しく聞こえること」であり、「自分が正しいこと」ではないのである。

身もフタもない言い方だが、まずはこのことを念頭に入れておかなければならないと著者は述べる。

その上で、相手に「それは正しい!」と思わせるには、さらに次の3つの要素が必要だという。

1、論理的な説得力

2、話し手自身の与える好印象

3、相手の感情への訴えかけ

「○○だから△△だ」「○○。したがって△△」といった形でしっかりした「根拠」が示され、それが無理なく「結論」につながることで、「論理的な説得力」が生まれる。

また、同じことを話しても、好かれている人間と嫌われている人間では、聞き手は真逆の反応をするものだ。そのため、相手に好かれることはとても大切な要素だ。

さらに、人間は感情の生き物であるだけに、「相手への感情の訴えかけ」も説得には必要だ。

感情が議論の場を左右することは往々にしてある。上手に感情を煽れば、相手に「この人の言い分は正しい!」を思わせることもできるのだ。

■「論理的な説得力を強化する「8つの説得パターン」

本書では、3つの要素を軸に「説得術」が学べる。ここでは1つ目の「論理的な説得力」に注目して紹介しよう。

ビジネスでは「説明はロジカルに」と言われることがあるが、そもそも論理的とはどういう状態を指すのか。

それは次の2つの条件を満たした状態だ。

1、根拠があること

2、根拠と結論を結ぶ論理が正しいこと

プレゼンで「この商品は売れます!(もしくは、売れません!)」とだけ言っても説得力はゼロだろう。

相手が納得できるだけの「根拠」を持ち、それを「正しい論理」でつなげることで「説得力」が生まれるのだ。

では「正しい論理」とは何か?

これはさほど難しい話ではない。例を挙げてみよう。

「わが社に必要なのは、指示待ち人間ではなく自発的に動ける人間だ。だからこそ、指示待ち人間を大切にするべきだ」

この言い分が一見しておかしいことはわかるだろう。正しい論理でつなげるならこうだ。

「わが社に必要なのは、指示待ち人間ではなく自発的に動ける人間だ。だからこそ“自発的に動ける人間”を大切にするべきだ」

このように、「根拠」と「結論」がつながっていることで、はじめて「正しい論理」になる。

そして、この説得をより強力にするのが本書で紹介されている8つの説得のパターンだ。

1、同等論法  2、なおさら論法  3、反対論法  4、グループ論法

5、結果論法  6、原因論法    7、分割論法  8、証言・証拠論法

たとえば、「同等論法」は、説得の論理をつくりあげるための基本中の基本で、「同じもの」を引き合いに出して、話に説得力を持たせる論法だ。

上司から納期を「三日」と言い渡された仕事で、どう考えても「四日」は欲しい。そんなときに「三日はちょっと厳しいので、もう四日にして頂けませんか?」と言っても相手は納得してくれないだろう。

しかし、「前回、同じ仕事をやったとき、どう急いでも四日かかりました。なので、四日にして頂けませんか?」と言えば、説得力はぐんと増す。「前回と同じ仕事」という、「同じもの」を引き合いに出しているわけだ。

このように、それぞれの論法には説得力を持たせる効果がある。ひとつひとつは難しくないので、知っておいて損はないだろう。

■「説得術」は実戦でこそ磨かれる!

では、実際にどんな場面でどんな論法を使うのがベストなのか。

その点については、残念ながら「実戦の中での経験によらなければならない」と著者は述べる。また、キケロ―自身もそのような主旨の言葉を残している。

なぜなら、先に挙げたように、「正しさ」というものはさまざまな要因でその姿が変わる。したがって、一概に「このときにはこの論法がベスト」とは言えない。

たとえば、「誰を説得するか」で、効果的な説得方法は変わってしまうだろう。他にも、説得するためのテーマや目的には、ひとつとして同じものがない。それらが掛け合わされていけば、正解のパターンは無限にあると言える。

だからこそ、論法を頭に入れた上で、日々の議論の中で「相手のこの言い分の背後にはこういう論法があるな」「今の自分の言い分は、こういう論法に基づいている」ということを意識していくことが大切なのだと著者は述べる。

ただ、そうは言ってもすぐに実践するのは難しい。そこで、本書では「説得が上手い人を真似てみる」ということを勧めている。

キケロ―の説得術の上達のためには以下の3つのステップがあるという。

1、説得の上手い、見習うべき人を探す

2、その人物の説得のもっともすぐれた部分を探す

3、実際に説得の場でそれを真似してみる

特に重要なのは2つ目の「その人物の説得のもっともすぐれた部分を探す」だ。

「どんな根拠を持ち出しているか」「どんな論理で根拠と結論を結びつけているか」「どんな口調か」「どのように聞き手の感情を煽っているか」など、「説得」のポイントになる部分を意識して聴いてみるのだ。

すると、「あの人は“なおさら論法”をよく使っているぞ」とか「相手があの論法で攻めてきたのを、上手に論理の穴を突いたぞ」といったことに気付けるはずだ。そうやって「説得」が上手い人を分析し、自分なりに真似をするのである。

本書では、ここで紹介した以外にも基本的な論法や先に挙げた3つの要素をより効果的に使うためのテクニックが数多く紹介されている。

そのためには、読んだだけでわかったつもりになるのではなく、どんどん実戦で使って、経験を積むことをお勧めする。

最後に、本書でも引用されているキケロ―の言葉を紹介しておこう。

「自分の望みのものが何であるのか、武器を身に着けようとするのはゲームのためなのか、それとも実戦のためなのか、しっかり弁えておくことだ」

(ライター:大村 佑介)

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