カードゲーマーが海外に目を向けるべき理由:TCGの可能性を検証する旅行記 in 東南アジア!
僕は、小学生から現在に至るまで、離れる期間を挟みながらも、通算7年くらい、約15タイトルほどのカードゲームに触れてきました。
離れていた期間が長かったのは、大学1年生から大学3年生までの3年間。理由は単純で、「あ、これやってたら彼女とかできねーな」と思ったから(今、振り返るとそんなことはないのですが……)。
とはいえ、ネガティブな印象が先行してしまいがち問題
さて、批判を覚悟であえて冒頭で断言させていただきますと、日本のカードゲームカルチャーは、コミュニティーの多くが非常に閉鎖的で、新規ユーザーが参加するにはかなりハードルの高いカルチャーになってしまっている、と僕は思っています。
専門用語を用いた身内ノリが激しく、一見様お断りのような雰囲気がどこか漂っている。ゲームが始まるやいなや、自分の手札にやたらと文句をつけたり、負ければ運ゲーを豪語したりするプレイヤー、そして新規ユーザーを煽るような言動をとる人も多く、気持ちよく遊べる環境も少ない。
さらには、衛生的に難があるプレイヤーまで散見されます。ボサボサな髪の毛に、肩にはフケが乗り……外見だけならまだしも、悪臭を放つプレイヤーまで時折現れます。
とにかく異質な空間で、新たに始める、または続ける気になかなかならない。
ここまで極端な事ばかりを言ってしまいましたが、趣味でカードゲームをしていて、ショップ大会などにも参加経験のある方なら、一度は上述したようなことを感じたことがあるのではないでしょうか。
もちろん、気持ちよく楽しめる環境や、負けてもゲーム終了後には握手まで求めてしまうような熱い対戦に巡り会うこともあります。
しかしながら、どうしても上述したネガティブな印象が先行してしまうようになり、僕はいつしかカードゲームから離れるようになりました。
閉鎖的な日本とは対象的に、海外のカードゲームは多様性の塊だった
時は流れて2015年、僕が大学4年生に進級する年のことです。
僕は海外における日本のアニメカルチャーを見るべく、世界を8ヶ月かけてめぐるバックパック旅行をしていました。
アニメイベントやアニメグッズを扱っている海外のお店を訪れるなかで、出会う機会が多くあったのが、カードゲーマー。
日本のカードゲームは、アニメとのメディアミックス体制でリリースされることが多いことから、アニメファンであれば、カードゲームカルチャーにも知見があるという人が多かったのです。
そんな海外のカードゲーマーは、もちろん現地の言語にローカライズされたカードを使って遊んでもいますが、翻訳アプリやWikiのような攻略サイトを駆使しながら、日本語のカードゲームでも平気で遊んでいます。言語の異なるカードを混ぜて遊んでいるプレイヤーも多いです。
言語・文化の違う海外で、これだけのハイコンテクストを共有できるアナログカルチャーは他にはないと思ったのと同時に、言葉の壁を超えるコミュニケーションツールとしての可能性を強く感じました。
僕が閉鎖的だと思っていたカードゲームカルチャーは、海外では多様性の塊でしかなかったのです。
そうして2015年末、帰国と同時に、僕はまたカードゲームを始めるのでした。
カードゲームの可能性を検証する道場破り in 東南アジア
さて、再びカードゲームを始めた僕は、『遊戯王』『カードファイト!! ヴァンガード』『フューチャーカード バディファイト』『ヴァイスシュヴァルツ』『ラクエンロジック』『Magic: The Gathering(以下『Magic』)』を持って、2017年3月4日〜22日の間、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポールと東南アジアを周遊してきました。
現地のカードゲームショップに突撃してフリー対戦を申し込んだり、Facebookコミュニティを通して海外のカードゲーマーたちにメッセージを送ってみたり、ツイッターで呼びかけてみたりと、自らの足とSNSを駆使しながら、計50名近くの人たちと遊んできました。
『ヴァンガード』約40戦、『遊戯王』『バディファイト』それぞれ約20戦、『ヴァイスシュヴァルツ』『ラクエンロジック』『Magic』をそれぞれ数戦。
果たしてカードゲームは、言語の壁を超えるコミュニケーションツールとして機能したのか。本記事では、合計80戦近くの対戦を繰り広げてきた僕が、現地レポート形式で東南アジアにおけるカードゲーム事情について、執筆していきます。
カードゲーム逆輸入の洗礼。ベトナム・ホーチミン
今回の旅で最初に訪れたベトナムは、東南アジアのなかでも、まだまだカードゲームカルチャーの根付いていない国です。前回訪れた際に、アニメカルチャーはそれなりに根付いている国だと感じたので、まずは根気よく「アニメ」という文脈から、カードゲーム好きが集まるコミュニティを探すことに。
Facebookをグループを中心に探していると、唯一機能していそうな、『ヴァンガード』ベトナム・コミュニティページを発見。
https://www.facebook.com/VNCFV/?fref=ts&locale=ja_JP
メッセージを送ってみると、すぐに返事がきました。
日曜日に『ヴァンガード』『Force of Will』、他には『遊戯王』『ヴァイスシュヴァルツ』『ラクエンロジック』を遊んでいる人たちが集まるんで、是非やりましょうとのこと。
ホーチミン市内には、シングルカード(カードをバラ売りで販売すること)を扱うカードゲームショップは1店舗もありません。つまり、遊ぶ場所を提供する店と、そこに集まる相手がいなければ成立しないカードゲームは、身内レベルでしか遊ぶことができないのです。
そういった背景からか、コミュニティを非常に大切にしている雰囲気を感じたのと、僕のようなニューカマーも手厚く歓迎してくれました。
彼らが毎週集まる場所は、街のコーヒーショップ。
『ヴァンガード』『遊戯王』『ヴァイスシュヴァルツ』『Force of Will』と、休日に思い思いのカードゲームをするベトナム人カードゲーマーたち。
『Force of Will』は、日本の「FORCE OF WILL株式会社」が手がけるカードゲームなのですが、過去に一度日本では完全撤退(全サポートの終了)をしています。
その後、欧州を中心に海外での人気が高まり、逆輸入的な形で再び日本で復活する、というなかなか特殊な歴史を持ったカードゲームです。
『Force of Will』に触れたことのなかった僕は、奇しくもその歴史を倣う形でベトナム人カードゲーマーから遊び方を教わりました。
ちなみに、『Force of Will』は今ベトナムで一番熱いカードゲームなんだとか。
その理由は、今現在のベトナムにおいて、『Force of Will』だけが正規代理店を通して現地に商品が卸されている、唯一のカードゲームだから。
ゆえに公式大会などのバックアップがしっかりしており、ユーザーがちゃんと遊べる環境が定期的に用意されるのです。
さて、そういった環境が整っている『Force of Will』では、皆さん正規のカードを使用して遊んでいましたが、実はそれ以外のカードゲームに関しては、自分でプリントアウトしたカードのイラストを、代用カードとして使用して遊んでいるユーザーが少なくありません(当然公式大会等では使用できない)。
もちろん日本から正規のカードを取り寄せている方もいましたが、一般的なアルバイトの時給平均が日本円にして「およそ100円くらいだ」というベトナムでは、なかなかそう簡単にはいきません。
また、ベトナムにおいて、一般的にカルチャーとして認知されていないカードゲームを大人が遊ぶ光景は、「公共の場でギャンブルをしている」と捉えられてしまうといった、センシティブな問題もあります。
そういった問題がクリアになり、カルチャーとしてカードゲームが成立している国が、次に訪れたタイ・バンコクでした。
カルチャー化の鍵はキッズ。タイ・バンコク
バンコクは前回訪れた際に、すでにカードショップに足を運んでいたので、着いた初日に早速そのお店へ突撃してみることに。
平日昼過ぎにも関わらず、そこにはたくさんのカードゲーマーたちがいました。
そして何より、キッズのカードゲーマーが多い。
子供の多くは、親にカードを買い与えてもらうことでしかカードゲームに触れる機会がないため、「子供がカードゲームで遊んでいる国」というのは、親世代からも理解のある文化であることがわかるのと同時に、カルチャーとしての土俵がすでにある国だと言えます。
早速『ヴァンガード』と『バディファイト』でファイトしてきました。
異国の地で、それも大人が子供たちと同じ目線で遊ぶ。なかなか体験できることではありません。
そして翌日は、この『ヴァンガード』と『バディファイト』を手がけるTCGカンパニー、ブシロードが催すカードゲームイベント「ブシロード BIG FEST」に参加してきました。
タイの首都バンコクで、『ヴァンガード』『バディファイト』『ヴァイスシュヴァルツ』プレイヤーが一同に集うイベントで、総来場者は約2500人。
物販エリアに、
大会スペース、
初心者ティーチングエリアに、
簡単な屋台エリアまであり、盛りだくさんのイベントとなっていました。
ここでも目を引くのが、キッズカードゲーマーの多さ。
会場には親子で参加している方たちも多く、カードゲームはタイにおいて、ある種の市民権を得るまでに成長したカルチャーだということを、目の当たりにした瞬間でもありました。
ちなみに、タイには『ヴァンガード』『バディファイト』それぞれ日本語版とタイ語版の両方が存在し、大会ではそれらの言語を混ぜて使用することが禁止されており、日本語版大会とタイ語版大会と完全に分けられています。
なぜ混ぜることができないのか。その理由はタイ語版を現地の可処分所得に合わせて非常にリーズナブルに作ってあるからです。日本語版のトライアルデッキが1100円のところ、タイ語版のトライアルデッキは400円弱で売っています。
単純にテキストを翻訳して日本と同じ価格で売ったとしても、カルチャーとしてカードゲームが育ってもいない国において、さらに日本よりも収入が低い人たちに手に取ってもらえるはずがありません。
つまり、現地の人たちが手に取りやすい価格設計のタイ語版は、カードゲームというカルチャーを広く普及させる役割を担っているのです。
そして、タイ語版からカードゲームを始めた人たちが、日本語版へとステップアップできるようにするのも、ローカライズされたカードゲームの役割でもあります。
ざっくりその役割を表すと、使えるカードがの種類がどんどん多くなっていくというイメージです。『Magic』プレイヤーの方ならマジックリーグで遊んで、スタンダードで遊ぶようになり、後にモダンにも手を出した、という経験があるのではないでしょうか。
同じように、カードゲームがカルチャーとして成熟したとき、コアユーザーはタイ語版というレギュレーションから、日本語版というより多くのカードが使用できるレギュレーションへとステップアップして行くのです。
日本語版で遊ぶカードゲーマーのために翻訳アプリなどもあり、日本語版を始めやすい環境が整っています。
マルチカルチャー国家におけるカードゲーム。マレーシア・クアラルンプール
タイを南下し、マレーシアの首都、クアラルンプールへとやってきました。
クアラルンプール市内で最初に訪れた場所は「Vanguardカフェ」。
マレーシアのイオンの中にあるヴァンガードカフェに来ました。 pic.twitter.com/KElRourao3— 木谷高明 (@kidanit) 2016年5月28日
ここはブシロードの公認店にもなっており、公式大会もよく行われているそうです。
内装は『ヴァンガード』一色で、メニューもキャラクターのテーマドリンクやフードが数多く用意されています。
平日の夜はちょっと人が少なめでしたが、店内にいるファイターたちと早速ファイト。店の奥には立ちながらファイトができる、ヴァンガード専用の卓が。
昨年話題になった『ヴァンガードG』のCM、ミラ・ジョヴォヴィッチ&オカダ・カズチカでも使用されていた卓に似た作りになっています。
そしてさらに盤面裏からのライトアップ機能も!この光る卓、めっちゃ欲しい……!
翌日は、クアラルンプール市内にあるカードゲームショップを3店舗ほど訪問してきました。
そのうちの1店舗、「little AKIBA」では週1回の日本語版『ヴァンガード』の公認大会が行われる日だったので、流れるようにそのまま参加。
参加者はなんと28名! 毎週平均、30人前後のヴァンガードファイターたちが集まるんだとか。
日本での公認大会の参加賞と同じく、「光る!スタンド&ドローパック」まで貰えます。ここまでくると、もう完全に日本と変わりありません。
しかし、今回マレーシアでは、タイのように子供がカードで遊んでいる光景をほとんど目にしませんでした。それなのに、なぜ日本と差異がないまでにカードゲームというカルチャーが浸透しているのでしょうか。
その答えを想像すると、「カルチャー」と「インフラ」の両面が関係しているように思えます。
まず、カルチャーは、マレー系、華人系、インド系と多様な人種が居住する多民族国家であること。
例えば、日本で老若男女に親しまれるアナログゲームの代表格でもある将棋は、古代インドの「チャトランガ」というゲームが発祥だという説があります。また、将棋と同じように親しまれてきた囲碁は、中国の「占星術」が変化して生まれたものと言われています。
そう考えると、カードゲームを含むアナログゲームという文化は、この国で暮らす多彩な人々の遺伝子レベルにまで組み込まれた、親しみやすいカルチャーなのかもしれません。
事実、カードゲーム以外のアナログゲーム店も、クアラルンプール市内にはいくつか存在しています。
そして根本的なインフラの問題として、子供がカードゲームで遊ぶには、友達と集まって遊ぶための手段として、交通が整備されることも必要不可欠です。
マレーシアは車社会といわれ、公共の交通機関が弱いのです。日本人学校へ通うのにもバス路線がなかったり、そもそもバスの時間が守られなかったりするのも珍しくなく、鉄道の利用率もなかなか上がっていないようです(参考リンク)。
交通インフラが整ったとき、カードゲームはどのようなさらなる発展を見せてくれるのか。そんなことを考えながらバスに揺られ、この旅最後の国、シンガポールへと向かいました。
東南アジアのTCGカルチャー最前線。シンガポール
さて、この旅の終着点となる国、シンガポールに到着しました。シンガポールにおけるTCGカルチャーはどうなのかと言うと、まさにこの旅で見てきたものの総括。
多民族国家でありマルチカルチャー国家であること。
東京と同じような交通インフラが整っていて、子供から大人までオフラインでのコミュティーを形成しやすいこと。
そしてTCGカンパニー「ブシロード」のシンガポールオフィスがあること。
上述した理由から、シンガポールでのTCGカルチャーは日本とほとんど変わらないと言えるような状況でした。
シンガポール国内に存在するTCGショップは、およそ25店舗。東京23区に近い719.2km2という国土の中に25店舗もあることから、その人気っぷりが伺えます。
『遊戯王』『Magic』『ヴァンガード』『バディファイト』『ヴァイスシュヴァルツ』と、どのタイトルも遊んでいる光景を目にしましたが、強いて言うのであれば、やはり『ヴァンガード』ファイターが多かった印象。
もちろんキッズプレイヤーも多く目にしました。
数多くあるショップの中でも、ズバ抜けて面白かったのがこちらのお店。
シンガポール中心地からの北西部に位置するお店、「Full-Yen Trading」。
あまりカードゲームショップには見えない外観をしているなと思っていたのですが、店内に入ってみると、見事にカオスな商品ラインナップ。食品、雑貨、文房部、と何から何までそろっています。
それでいて、カードの在庫もピカイチ。雑貨の上に大量のコモン・アンコモンカードがあり、
レアカードはレジ横のファイル内で管理されていました。
店内に対戦スペースがなかったため、子供達に「いつもどこで遊んでいるの?」と聞いてみると、同じ敷地内にある団地の踊り場や、
近くのマンションのピロティー内に設置された机の上で遊んでいるんだとか。
なんだか、子供の頃に友達が住んでいるマンションの階段で、よくカードゲームをしていたのを思い出して懐かしくなりました。
そんな郷愁に駆られながら、僕は旅を終え、日本へと戻りました。
TCGは最強の共通言語!カードゲーマーこそグローバル人材を目指せ
この旅の最中、僕は様々な夢やバックグラウンドを持つ人とカードゲームをしてきました。
ベトナムでカードゲームショップを開くという夢を持つベトナム人。
アニメ好きが派生してカードゲームを始めたら、アニメを語れる友達ができたと話すタイ人。
シンガポールに移住してから、カードゲーム繋がりで仲間ができたと話す中国人。
そんな気さくな海外のカードゲーマーたちと友達になってみて、閉鎖的な日本のカードゲームコミュニティに僕が感じたことがあります。
「カードゲーマーこそ、無限の可能性を秘めたグローバル人材になれる! だからこそ、閉鎖的な日本から海外へと目を向けてみてほしい」
カードゲームという発展性に満ちたアナログコミュニケーションツールを、日本国内で完結させてしまうのはあまりに勿体ないです。
なぜなら海外には、
メンバー数:33273人(外部リンク)
メンバー数:55710人(外部リンク)
メンバー数:18391人(外部リンク)
目に見えるだけでも、カードゲームという共通言語で会話できる仲間たちがこれだけいるのですから。
引用元
カードゲーマーが海外に目を向けるべき理由:TCGの可能性を検証する旅行記 in 東南アジア!
関連記事
デザイナーも目を奪われる『Magic: The Gathering』の美しすぎるカード10選
「遊戯王」高橋和希の画力上がりすぎ! 遊戯や海馬の「VRイラスト」が美しい……
今すぐその場で始められる! 初心者にもオススメのデジタルカードゲーム10選
ウェブサイト: http://kai-you.net
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。