グーグル社員の「働く満足度」は、なぜこれほど高いのか?――「元気な外資系企業」シリーズ〜第6回 グーグル

大きな変革の時代。企業でも、さまざまな取り組みが進む。では、海外に本社を持つ外資系企業では、どんな取り組みが推し進められているのか、探ってみる外資系特集企画。第6回は、グーグルの「ワークスタイル」だ。f:id:k_kushida:20170524155544j:plain

創業者たちが毎週、ライブで直接、社員にメッセージ

事業としての魅力はもちろん、その働きやすさについても常に注目され、「働きたい会社」としても、世界的な人気企業になっているグーグル。

どうしてグーグルが働く場所として高い評価を得ているのか。ビリヤード台や卓球台、防音の音楽ルームやお洒落なライブラリー、「竹ガーデン」などがある独創的なオフィス環境や、1日3食社員食堂で無料で食べられるなど、福利厚生はよく語られる。

では、持っている力を存分に発揮できる「ワークスタイル」としては、どんな特徴があるのだろうか。人事部長のギャリー・チャンドラー氏は、2つのキーワードを挙げてくれた。一つ目のキーワードが、「エンパワーメント」だ。f:id:k_kushida:20170524161144j:plain

▲人事部長 ギャリ―・チャンドラー氏

「グーグルの大きな特徴として、社員はたくさんの情報リソースにアクセスできるようになっている、という点が挙げられます。グーグルのミッションは『世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること』というもの。これを、グーグル内でも意識しているんです。たくさんの情報を、透明性を持って共有する。会社についての決定事項についても、今後どういったことが起こっていくのか、何か変更点があるのか、さらに製品の状況についても相当な情報に触れることができます」

エンパワーメント、つまり権限委譲。情報を積極的にオープンにし、社員にどんどん権限を委ね、仕事をしていってほしい、というスタンスだ。

その機会のひとつとして世界的にも知られているのが、グーグル社内で「TGIF」と呼ばれている「全社員ミーティング」。日本時間では金曜の朝、アメリカは木曜の夕方だが、社員を映像でつないでライブでミーティングが行われるのだ。驚くべきは、全世界の全社員6万人が対象になっており、社員なら誰でも参加できること。そして、創業者や本社の経営トップ自らが直接、社員に語りかけることだ。

「ラリー、セルゲイ、スンダーといったシニアと呼ばれるトップの経営層が、今週何をしていたのか、どんなことを今考えているのか、新しいサービスについてどんな進展があったか、どんなインパクトを社会に与えているのかなど毎週、直接メッセージしています」

会社の草創期から行われてきた全社員ミーティングが、この企業スケールになっても今なお行われているというのだ。リアルタイムで行われるため、社員が受け取る“今、明かされる”感は強烈だという。しかも、“伝説的な創業者”たちが直接メッセージするのだ。

さらに堅苦しいものではなく、笑いに溢れた雰囲気で、和気藹々として盛り上がる場だという。だから毎週、社員はみんな楽しみにやってくる。時には、新しいプロダクトを開発したエンジニアを、創業者2人が直接“イジったり”することもよくあるらしい。経営層と社員の間が極めて近いのだ。そしてTGIFは、後にビデオでも見られる。

経営層から社員にダイレクトに何かを伝える、という会社はあるが、グーグルの場合は“カスケード”(上から下に流れていく)的な感覚ではなく、“フラットにシェア”されていく感覚なのだという。情報は、上から伝達されるのではなく、みんなで共有されていくのだ。

「TGIFでは毎週20分間、質疑応答の時間も設けられています。経営層に対して、聞きたいことを直接、聞くことができる。どんな質問でもOKです。経営層と違う意見も歓迎されます。実際、ストレートに自分の意見をぶつける社員もいます。意見の違いがあるということは、社内に多様な見解ができるということ。それはみんなの学びになるからです」

全社員のスケジュールが社内で公開されている

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質問は事前に提出することも可能で、いろいろな質問について世界の社員がランキング投票もできる。ランキング上位の質問は優先的に質問されたりする。いずれにしても、経営層に直接、その場で質問ができてしまうのだ。しかも、どんな質問でも構わない。そして、その場で経営層が全世界の社員を前にライブで答えてくれる。考えてみれば、これはなんとも大胆な取り組みなのだ。

「情報を人に提供することで、偉大な何かが生まれる、素晴らしいものが生まれる、というのがグーグルの信念なんです。だから、できるだけ情報をオープンにする。結果的にそれは、社員の仕事のアウトプットを高めてくれるものになると考えています」

入社したばかりの社員の驚きは、「経営層はこんなに社員を信頼してくれているのか」というものだという。ローンチ情報など、“この情報を今、開示するのか”とびっくりする情報もあるというが、社員から外部に漏れたりはしない。経営層は自分たちを信じてくれている、という信頼関係があるからだ。

そして、すばやくオープンにされ、共有された情報は当然、自分の仕事に活きてくる。何かを教えてもらえないストレス、“もっと早く言ってくれよ”といった事態は起きない。会社や事業の方向性をしっかり把握しながら、仕事をしていくことができるのだ。

こうしたオープンマインドは、驚くべきところでも貫かれている。例えば、全社員のスケジュール。これがすべて公開されているのだ。社内のグーグルカレンダーで、プライベートを除く個人の仕事スケジュールが、誰でも見られるようになっているという。

例えば、役員とのアポイントを取りたい。多くの会社はまず秘書にメールを入れて用件を伝え、空いている時間を聞いて確保してもらって……といった手順を踏むだろう。だが、グーグルでは、そんな面倒で時間がかかることは不要だ。

役員のスケジュールを見て、空いているところに仮予約を入れてしまえばいいのである。そしてカレンダー上に用件を書いておく。役員がOKすればアポイント成立である。複数の社員によるミーティングも同様だ。全員にカレンダーを見て、共通して空いているところをブッキングしてしまえばいい。

一般的には、こうしたアポイントや会議のブッキングが、いかに時間をロスしているか、多くの人が認識しているに違いない。グーグルでは、これがあっという間にできてしまうのだ。仕事効率が良いばかりでなく、こういうところでストレスがないのである。

「私たちは、いろいろなものをデジタル化して共有しています。ペーパーレスで、世界のどこにいても必要な情報にアクセスすることができる。しかも、すばやく、です」

さまざまな情報がオープンになり、どんどん仕事が委ねられていく。これが一つ目のキーワード「エンパワーメント」がもたらしているものだ。

そしてもう一つのキーワードが「インディペンデンス」。独立、自立性とでも訳することができるが、もとよりグーグルは社員を縛り付けることを好まないのだ。

「ミッションやポリシーはありますが、それ以外は最低限のルールや制度しかありません。そうしたストラクチャーを事前に決めることをしない。それ以外は、社員個人の自由裁量です。もし、何かわからないことがあれば、一緒に考えればいいんですから」

グーグルでは“セルフ・スターター”という言い方をするそうだが、基本的に自分のことは自分でやっていく。マニュアルのようなものはない。前例も参考にならない。自分で考えていかないといけないのだ。

だが、自分で考えて動きたい人には、これが心地良いものとなる。縛るものもなく、自分でやりたいことをやっていくことができるからだ。そして、だからこそ周囲の人たちが協力してくれる。

転職してきたばかりの社員は、当初、戸惑うことも多いという。仕事の引き継ぎなど基本的にない。上司からの命令もない。やるべきことは自分で考えるのだ。だが、もちろん最初はわからないことだらけ。だから、聞けば周囲の社員が積極的に教えてくれる。なぜなら、かつての自分もそうだったからだ。多くが中途入社の社員。同じ道を通ってきているのである。こうして基本を理解すれば、次第に自立して考えられるようになっていく。

「社員が社員に教える、というカルチャーは強いですね。社員同士で教え合うティーチングプログラムもあります。誰でも教えることができるし、学び合うことができる。それが、グーグルの考え方です」

失敗をどんどんしなさい、というカルチャー

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世界的に有名な「20%ルール」も自立性と関わっている仕組みだ。

「仕事時間の中で、20%を社員が個人的にやりたい仕事やプロジェクトに割り当てることができるプログラムです」

グーグルの独創的なサービスを生み出した働き方として知られているが、実はエンジニアにだけ委ねられているわけではない。営業でも広報でも経理でも、自分が手を挙げればできるのだ。

例えば、営業の仕事をしている社員が、広報の仕事に興味を持っているとする。そうすれば、仕事の20%を広報の仕事に使うことができる。「20%ルール」とは他の職種を経験できる仕組みなのだ。

もっといえば、職種に限らない。やってみたかった、知りたかった、試してみたかった、というものに取り組むのもOK。例えば、グーグル広報部長の河野あや子氏は、「talks@google」という社内イベントを日本で主催している。インパクトのある話をしてくれる講演者を招き、社内に話をしてもらったり、場合によってはYouTubeにアップして外向けにも発信する。

もともとアメリカ本社で行われていたものを、日本でもやってみたいと考えたのだという。そこで、クロスファンクショナルチームを社内で立ち上げ、ミーティングをセットし、プログラムを作り、本社に掛け合って予算をもらって、この社内イベントを実現させた。だが、本業の広報とはまったく関わりがない。

20%の範囲内であれば、本業とは異なっても、興味があるなら何をやってもいい、というのは、こういうことなのだ。ただし、もちろん自発的な意志あってこそ。指示が来ないと仕事ができないような人には、できることではない。だから、自立性が問われるのだ。

そしてもうひとつ、自立性といえば、仕事の目標も自分で設定しなければいけない。そして、グーグルが社員に求めるものが、極めて興味深い。

「野心的な目標を設定することです。インパクトがあるもの、社員本人が成長できるもの、新しいもの。こういうものにトライすることを奨励していますし、期待しています。ただ、野心的な目標が100%うまくいくことはなかなかない。だから、失敗することも見越しています」

自分で目標を立てるだけに、自ら低い目標を作ってしまうこともできる。そうすれば、簡単にクリアすることができるが、グーグルでは誰もそんなことはしない。また、前例を踏襲したような目標も作らない。会社が求めているのは、新しいこと、野心的なことだからだ。

「だから、失敗を許容します。失敗してうまくいかなかったということは、それまでになかったことをやろうとしたからです。失敗していないということは、無難にこれまでを踏襲しただけかもしれない。これでは何も前進しません」

実際、「最近、何を失敗したのか」が社員間ではよく問われるという。もちろんうまくいこうと頑張るが、「やってみたけどダメだった」がネガティブな返答にはならない、というのだ。むしろ、「学びがあって良かったね」と周囲からは言われたりする。上司も、むしろ積極的に「失敗しろ」と声をかける。失敗に寛容どころか、失敗を求めているのである。それはチャレンジした証だからだ。

ちなみに評価は360度。上司、同僚、部下・後輩すべてが評価する。もちろん結果も問われるが、ただ結果だけ出せばいい、というわけではない。その結果にどう到達したか、も問われる。360度評価だから、そこはしっかり見てもらえているという印象が社員にはあるという。上司も自分から評価できるし、同僚から日頃の仕事ぶりも見てもらえる。社員には、評価の納得度は高いそうだ。

長時間労働は、そもそも社内で尊敬されない

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今、日本では「働き方改革」が話題になっており、長時間労働対策が問題になっているが、グーグルではどうしているのか、聞いてみた。

「まず、グーグルがメッセージしているのは、野心的で面白く興味深いゴールや目標に取り組んでほしい、ということです。ただし、それをどこでどのようにやるのか、はまったく問いません。ただし、長時間労働を勧めたりするメッセージはまったくしていません。そういう様子が見られたら、サポートが必要という信号ですから、本人と話をしてリソースが必要か、バランスを変えたほうがいいのではないか、などコミュニケーションします」

実際の現場でも、長時間働くことはまったくリスペクトされないのだという。長く働くことがカッコイイことだと誰も思っていないし、周囲からの評価もされない。営業時間外のメールすら、好まれない。受け取ると返信をしてしまうから、仕事スイッチが連鎖してしまうからだ。営業時間内に仕事ができるよう、タイムマネジメントすることが求められる。

しかし、野心的な目標を掲げているほどだ。無理をしてしまう社員は出てこないのか。

「これも自立性と関わってきますが、自分の人生や生活に対して、仕事をどうコントロールしていくか、という意識は極めて重要です。健康的な形で、どう仕事を推し進めていくか。そこは自分で考える必要がある。実際、どうやろうといいんです。自分の調子のいいときに長く働いて、翌日は早く帰る、というのもいい。自宅で仕事をしたほうが良ければそうすればいい。仕事ツールはたくさんありますので、まったくの自由裁量です」

実際には、グーグルに転職した社員に聞くと、仕事の密度は相当なものだという。もちろんオープンで仕事がしやすく、ツールが充実していることもあるが、1週間分の仕事を1日でやっている感覚すらある、らしい。だが、これもブッキングのしやすさのように、密度高く仕事ができる環境が揃っているから、ともいえる。

一方で、エンパワーメント&インディペンデンスだけに、働き方は極めてフレキシブルだ。例えば、エアコンが壊れて修理業者が来るので明日は自宅で仕事をする、などというのは、普通にできること。仕事がどこでもできるなら、だ。

また、それぞれの仕事はそれぞれが管理しているので、「朝、急に子どもが熱を出したので家で仕事をすることになりました」となったとき、周囲で「えーっ!」などと声が上がることもないという。共同責任ではないので、誰かが困ったり割を食うようなことはないからだ。だから、職場もギスギスした雰囲気はまるでない。

「定期的に在宅で仕事をしている人もいますが、やはりグループで物事を動かしていくほうが仕事はスムーズですから、基本は職場に来て仕事をします。ただし、それは自分で決めること。会社が考えているのは、男女問わず、いい結果を出していくためにコンフリクトを起こしたり、障害になっているさまざまなことや日常的に困っていることを、どんどん取り除いていこう、ということです。もっと仕事がしやすくなるには、どうすればいいか、まだまだいろんなことができると考えています」

それこそ人事も野心的な目標に取り組んでいる、ということ。はっきりとしたミッションがあり、オープンに情報にアクセスでき、自分で組み立てていける仕事環境が作られている。こういうところに魅力を感じる人には、心地いいということになるのだろう。

WRITING:上阪徹 PHOTO:小出和弘

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