フランス大統領マクロン氏でポピュリズムの台頭に歯止めがかかるか?

フランス大統領マクロン氏でポピュリズムの台頭に歯止めがかかるか?

極右政党ルペン氏を破りマクロン氏が当選

フランスで極右政党のルペン氏を破って当選したマクロン氏が大統領に就任しました。
これでEU解体が阻止され、「ポピュリズム」の台頭にも歯止めが掛かるなどと、歓迎のムードもあります。
そもそも「ポピュリズム」とは「大衆迎合主義」とも呼ばれ、政治について理性的な判断が出来る「知的な国民」ではなく、情緒的・感情的にものごとを判断する「一般大衆」に基盤を置き、そういった一般大衆の理解・支持を求める「政治手法」のことを指しています。

民主主義とポピュリズムにはどのような違いがあるのか?

しかし、民主主義とポピュリズムは「異次元」のものではありません。
そもそも民主主義においては、一般大衆こそが「主人公」です。
主権者は国民、すなわち一般大衆であり、その「民意」に添うかたちで国家権力を動かす政治の仕組みこそが民主主義なのです。
その意味では、アメリカにおけるトランプ大統領の誕生も、イギリスでのEU離脱を是とする国民投票結果も、すべては民主主義がもたらしたものです。
つまり、ポピュリズムは民主主義という「枠の中」には納まってはいるものの、いわば「ダークサイド」とでも言うべき範疇なのです。

ポピュリズムが危険視されているワケ

ポピュリズムが「危険視」されているのは、問題を単純化して思考を停止させ、必要な議論を回避させることで、結果として社会に害悪をもたらすことがあるためです。
ポピュリストは、しばしば一般大衆の「欲求不満」や「不安」を煽ることで、政治的支持基盤を盤石にしようとします。
このような手法が「濫用」されてしまうと、「民主政治」は「衆愚政治」へと変貌し、一般大衆の持つ強大なエネルギーが集団的熱狂をもって「自由社会の崩壊」へと向かわせる結果を生みます。
例えば、1950年代前半のアメリカでは、共産主義に対する恐怖と反発を背景に「マッカーシズム(赤狩り)」の嵐が吹き荒れました。
これは、自由主義国のリーダーであったアメリカで、思想信条の自由や言論の自由が弾圧されたという、まさにパラドキシカル(逆説的)な出来事です。

ポピュリズムの特徴は、ともかく一般大衆の「敵」を作り上げることです。
例えば、「まじめで純粋な一般大衆」の敵として「特権を持ち腐敗したエリート」を対置させ、この「エリート」を攻撃することで、一般大衆の溜飲を下げさせ、その支持を得ようとするのです。
もちろん、ポピュリズムのすべてが悪いわけではありません。
一般大衆の素朴かつ常識的な感覚が、「エリート」の腐敗を指摘し、特権を剥奪する方向に動くこともあるからです。
この場合は、ポピュリズムが「改革ための大きなエネルギー」となり得ます。

行き過ぎたポピュリズムは悲劇を生むという歴史的教訓

要するに、ポピュリズムは「ほどほど」が良いというのが結論です。
ポピュリズムが大きな広がりをみせ、国家主義(ナショナリズム)や民族主義(エスニシズム)と結びついたときには、絶対ロクなことになりません。
これには数々の「歴史的教訓」があります。
例えば、反ユダヤ主義を掲げてドイツ国民の熱狂的支持を受けて独裁政を敷くに至ったナチスも、またポピュリズムが生んだ弊害と言うことが出来るでしょう。

さて、「ポピュリズム的な政治手法」は、我が国でも多用されています。
ただ、私たちが気づかないだけです。
注意すべきは、むしろ「わかりやすい物言いをする政治家」なのかも知れません。
問題を単純化したうえで「レッテル貼り」をされてしまうと、私たちはしばしば思考停止に陥ってしまいます。
そこでは必要な議論が回避されていることに気づかない現象が起きるのです。

例えば、小泉純一郎元首相が、「抵抗勢力」との闘いを宣言したとき、多くの国民は何の根拠もなく拍手喝采したものですし、「郵政民営化」を掲げて衆議院を解散したときには、他の政策論争が全部ふっ飛んでしまいました。
このような巧みな政治手法は、今後も多用されることでしょう。
私たち有権者一人一人が注意・警戒していく必要があるところです。

(藤本 尚道/弁護士)

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