『3月のライオン』大友監督インタビュー「“仕事”とは必ずしも自分だけで選ぶものではない」

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現在、【前編】【後編】が大ヒット中の映画『3月のライオン』。【後編】が公開されるやいなや「棋士達の戦いに感動した」「前半は青春、後半は大人へのさらなる一歩という感じで素晴らしい」「“完結”と言っているけど3作目が観たい」など、映画ファン、原作ファンからの熱い感想を多く見ることが出来ます。

本作でメガホンをとったのは、映画『るろうに剣心』シリーズ、『ミュージアム』等でヒット作を次々に生み出す大友啓史監督。インタビューでは原作への想いから「仕事とは必ずしも自分だけで選ぶものではない」という、仕事論まで様々なお話を聞かせてくれました。

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―映画本当に素晴らしかったです。私は試写会で前編と後編を続けて観たのもあって、余韻がすごくて。

大友:続けてみたの? それはお疲れさまでした(笑)。

―いえ! 疲れなかったんですよ、夢中になって観れたので。

大友:それは良かった。現状であれだけボリュームがあって、内容もすばらしい原作コミックを映画化する時に、“尺”の問題はどうしてもつきまとってくるというか、前編後編共に約2時間20分、というのが最終的なラインだったので。これを1本にまとめると3時間半くらいにしたとしたら、観る側は疲れるし、入れたい要素も全然入れられないと思ったので。

―大友監督が初めて『3月のライオン』を読んだ時の感想を教えてください。

大友:仕事ということを抜きにして、シンプルにすごく感動しました。最初にお話をいただいたのは4巻くらいが出たころで、そのころから既にいい物語だなと思っていました。羽海野チカさんの作品は、「ハチクロ」(ハチミツとクローバー)もそうだったけど、やっぱり練りに練られていて、時間をかけて繊細に丁寧に描かれているんですよね。

―ふんわりとした優しい絵柄でありながら、描かれている内容はすごく骨太ですよね。

大友:そう、キャラクターもどれも素晴らしいしね。漫画にありがちな個性が強いキャラクターものではなく、僕らの日常の延長線上を描いている。地に足が着いている物語なので、これは実写にするのは難しいぞと思いました。

―実写化するにあたり、一番リサーチした部分はどこになりますでしょうか?

大友:対局をたくさん見ましたね。名人戦も、実際その場所に伺って。対局の空気を感じとったりして、最終的に思ったのは、将棋盤で繰り広げられている戦い自体を描くのは映画としては難しいということでした。スポーツや格闘技の様子にいわゆる“勝ち負け”をめぐる話にしていくと、すごく狭い映画になるのではないかと思って。むしろ面白いのは、勝ちだと思っていた人間が実は負けていたとか、負けだと思っていた人間が実は勝てたかもしれないという、まるで人生を反映するような面白さがあるんですよね。それが将棋そのものの魅力でもあると思うので。

―静かに盤の前で向かい合っているので、パチンパチンとコマを打つ音が響く、とても美しい戦いでした。

大友:あのコマの置き方も、役者がそれぞれ先生に指導してもらっていて、零はパチンッとまっすぐ響くように、とか、宗谷は雪が降るよういんに「しん」とコマを置く、とかね。

―劇中の島田さんが宗谷さんを「雪」に例えるセリフそのものですね。

大友:そうそう、音も無く、でも確実に迫っていて、気付いたらあたり一面雪におおわれている。恐いけど美しいっていうね。俺、雪国出身だからすごくよく分かるんです。

―事前にいただいた資料で監督が神木さんのことを「小さい頃からプロとして活躍しているという点が零と同じだ」と表現されていますね。

大友:零くんは中学生でプロの棋士になって、神木くんも小さいころからプロの俳優だったわけです。僕なんて何していいか分からなくて部活やってたくらいの歳に、彼らは既にプロとしてやっていたんですね。そういう人間の意識っていうのは、同じ体験をしていなきゃ分からない。だから俳優・神木隆之介が上手いっていうのももちろんあるけど、そういう生き方をしてきた神木くんが桐山零を演じる上で、僕らが分からない部分を神木隆之介が埋めていくということもあるかもしれない、と思いました。漫画を実写にする上での“似てる似てない“
っていうだけの基準ではないキャスティングをしているつもりなので、自分も満足しているし、観客の反応も良かったので嬉しいですね。

―この春の時期のこの映画を観れることも幸運だと思いました。背中を押されるというか。

大友:「仕事」って主体的に選ぶのではなく、いろいろな偶然が重なって導かれることってありますよね。人との出会いとか僕自身もテレビ出身で、映画監督になるなんて思っていなかった。零にとっても、自分で選んだわけではないけれど、彼には将棋しかなくて、ある意味しょうがなく打ち込んでいきます。でもそれをひたすら継続し、相対する棋士たちと戦うことによって、彼の才能が鍛えられ、遂に開花していく。後編のラストで零の将棋に対する想いも分かるわけです。僕は、人が天から与えられた才能がしっかりと発揮される物語って好きなんですが、映画をご覧になる方に、そこに至る努力や苦労も含めて「観ていて気持ちがいい」と思っていただきたいなと思っています。

―今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

『3月のライオン』公式サイト
http://www.3lion-movie.com

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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