認知症が影響で運転の88歳不起訴 横浜の小学生死傷
認知症が影響で運転の88歳ドライバーが不起訴に
88歳の男性が運転する軽トラックが通学中の小学生の列に突っ込み、当時1年生の男児が死亡した自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の事件で、横浜地検は、この男性運転手を不起訴処分としました。
男性運転手は、事故の前日に家をでたあと、事故まで24時間運転を続けており、その後の鑑定で認知症と診断されていました。
今回の処分で検察は、運転手は認知症の影響で長時間の運転を続け、疲労が重なって適切なブレーキ操作をするなどの運転能力が失われていた。
過失を問うことは困難と判断したと説明をしています。
また同時に、事故を起こしても認知症なら罪に問われないというものではないとも話したとのことですが、検察によるここでの説明は非常にわかりにくく、ご遺族はもちろん、報道に接した市民も納得しがたいものではないかと思います。
認知症運転者の事故は過失に問われないことがある
認知症の運転者が事故を起こした場合、刑事的には、まず過失の認定に問題が生じてきます。
法律上、過失責任を問うためには、事故の結果を予見できたことや、結果の回避が可能だったことが必要です。
重度の認知症の場合、結果の予見や回避が難しいとして過失を問えないとされることがあるわけです。
また、同様に、認知症が重い場合には、刑事責任能力がない、つまり、ものごとの是非を弁識した上で、これに従って行動できる能力がないとして刑罰を課せない場合もあります。
この点、飲酒による酩酊状態での事故や薬物で正常な運転ができない状態での事故の場合には、特別に危険運転致死傷罪という罪が設けられており、たとえ事故時に正常な判断ができない場合でも、飲酒や薬物使用の段階で責任能力があれば処罰し得る法律があります。
また、病気のケースでも、統合失調症やてんかん、低血糖症、躁うつ病、重度の睡眠障害などは病気運転致死傷という罪がありますが、ここに認知症が含まれていないのがポイントです。
認知症の場合には、飲酒や前述のような病気とは異なり、事故前の段階も事故時の段階も常に認知能力を欠く状態が続いていることが一般であるため、刑事責任を問いにくいのです。
しかし、認知症といっても症状には軽重があります。
軽度な認知症であれば、事故を起こした場合に過失や責任能力を問える事案も当然あります。
結局は、認知症の程度により結論が左右されることになります。
認知症リスクの高い高齢ドライバー対策は急務
翻って今回の検察の説明をみてみると、認知症だから不起訴なのではなく、長時間運転して疲労困憊していたという特殊な事案だということを強調しているようですが、非常にわかりにくい説明です。
通常は、認知症が重すぎるため刑事責任をどうしても問えないか、あるいはこれまで認知症を自覚する機会が全くなかったために運転を控える判断をしなかったこともやむを得ないような事情があるかなどが考慮されるべきだと思います。
本件のような場合、民事上は、同居者の監督責任に基づく損害賠償責任の議論にはなり得ますが、そもそも多発する高齢ドライバーの事故を防止する抜本的な対策が求められます。
認知症は短期間に急激に進行することがある以上、高齢ドライバーの免許更新間隔を思い切って短くするとか、更新時に認知症の傾向を厳しくチェックする仕組みが必要でしょう。
国は今年から、75歳以上のドライバーが一定の違反行為をした場合に臨時の認知機能検査を受ける制度を新設しましたが、違反行為を起こしてからの検査ではいかにも遅いと言わざるを得ません。
(永野 海/弁護士)
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