ドイツの空き家活用[後編]起業の拠点は空き家から。大学卒業後、女性4人でホステルを即オープン
ドイツの空き家活用[前編]ドイツ版・家守から学ぶ日本の空き家解決へのヒントの続編である。
ライプツィヒを案内して頂いたミンクス典子さんによると「ハウスハルテンによる『家守の家』は5年の契約であり、その期間が終了するとライプツィヒの不動産価格が上昇していることもあり契約が解除されることが多い」という。建物再生に費やした「努力」や、その場で培われた人的ネットワークや活動などが無くなってしまうのはもったいないことだ。そこを拠点としていた人々は、値上がりした不動産市場のなかで、新たな場所を探さなければならないという困難も伴う。
起業の拠点、地域の魅力創出の拠点づくり
そんななか、ライプツィヒ西部地区に「家守の家」5年の契約後、発展的に若者たちの起業の場として引き続き活用されている建物があるという。
ホステル「エデン」が入居する建物だ。この建物は、1950年代にもともと寮として建てられたものであった。空き家仲介団体「ハウスハルテン」が仲介する物件として利用者を募集したところ、大学を卒業したばかりの女性4人でホステルに改修して運営することを決意し、応募したのだという。
そのうちの1人、ガブリエラさんは「開業資金の約10万ユーロを借りることにしたけれど、それはホステルの最低限の設備を整えるのに充てました。部屋は自分たちでセルフリノベーションして、ベッドなどの什器(じゅうき)も手づくりで開業にこぎ着けました」と話す。4人のうち1人がプロダクトデザイン専攻であったものの、リノベの経験はほとんどなかった。友人等の手助けも得ながら部屋を仕上げていったのだという。
「最初の部屋は、電気の配線なんかも自分たちでやりました。後で職人さんにこうしたほうがいいよ、なんてアドバイスを受けて、段々と腕を上げていったわ」と笑う。
実は、筆者はライプツィヒ滞在中このホステルに泊まったのだが、私が泊まった部屋は、彼女たちの最初の「作品」だったようだ。内装についてはクラウドファンディングでお金を集め、アーティストの友人等による個性的な部屋ばかりだ。開業しながら現在も、宿泊部屋をセルフリノベーションで増やしているところだという。「リノベーション作業の途中にフロント業務が入ったりして、なかなかやりくりが難しいわ」と話す。
開業から1年半ほど経過したというが、経営的にはうまくいっていると話す。「ライプツィヒ中央駅や観光の中心となる旧市街地から少し離れているから心配したけど、広い庭がくつろげてゆっくりした気分になれるからと、ビジネスパーソンを含めてリピーター客がついて軌道に乗っている」と話す。 【画像1】ホステルのフロントとロビー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) 【画像2】裏庭は広々として街なかにあってくつろげる空間だ(写真撮影/村島正彦) 【画像3】初めて改修を手掛けたドミトリーの部屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部) 【画像4】友人のアーティストが手掛けたというクルマをベッドにした部屋。ほかにも個性的な部屋がある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)【画像5】ホステルを運営する女性4人のうちの1人、ガブリエラさん。改修中の部屋も案内してくれた(写真撮影/村島正彦)
この建物には、ホステル以外にも若い起業家たちの拠点となる企業・施設がある。1階には、ベジタリアン向けのケータリングオフィスとキッチンが入居している。ライプツィヒでも人気のベジレストランの新事業としてケータリングを新しくはじめた。備えてある業務用キッチン設備のほとんどは中古品だという。
経営する女性は「ほぼ毎日、バンドのライブやパーティー向けのケータリングの仕事なんかが入っているわ。バイトを担ってくれるのは、パンクな身なりの若者が多いわね」と話す。失業率の高いライプツィヒの若者たちの雇用も生み出している。
そして、建物の3〜4階はシェアオフィスとして利用されている。若い駆け出しのクリエーターが借りやすい、賃料が手ごろな小さなユニットの部屋が並んでいる。 【画像6】同じ建物に入居するケータリング会社の調理室(写真撮影/村島正彦)【画像7】建物の3〜4階はシェアオフィスだ(写真撮影/村島正彦)
もともと地域全体には空き家が多くて沈滞していたが、ハウスハルテンをきっかけに、一つの建物の保全と再生にはじまり、若者たちの創業の地として、地域の新たな魅力をつくりだしている。
ドイツ・ライプツィヒは、いっときは著しい人口減によって街が衰退し空き家問題に悩まされたが、近年はサービス業の伸びとともに若い世代の流入増加が見られ、人口も右肩上がりだ。
現在では人口増に伴い、海外からの不動産投資が加熱し地域の不動産価格・賃料が上昇して、もとからいる住民が高い賃料に改定されて出ていかざるをえない状況が発生してきている。また、空き家があってもそれは海外の不動産投資家が保有して、様子見をしているケースも多いのだという。
ハウスハルテンの活動も、これまでのような空き家の保全・再生に留まらず、こうしたもとからいる住民が住むことができなくなるなど地域コミュニティが崩れる懸念などに対して新たな手立てを講じる時期にあるという。●参考文献等
・「縮小都市ライプツィヒの地域再生 前編 ハウスハルテンと『家守の家』」大谷悠(「季刊まちづくり38」学芸出版社)
・ハウスハルテン
・ホステル エデン
在ライプツィヒ,ミンクス典子氏,大谷悠氏には視察現地コーディネート・情報提供等たいへんお世話になった。感謝申し上げたい。
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