【寄稿連載】第六話 ホームレスに見えない
今回は松田良一さんのブログ『ホームレスのおっちゃんの溜め息』からご寄稿いただきました。
第六話 ホームレスに見えない
神さんは声をかけた俺を、最初お客さんと思ったらしく、にっこりと微笑んでいた。が、すぐに俺だと分かったらしく、笑顔は消えていた。俺は、黒さんからもらったメモを渡して、携帯電話のことを聞いてみた。神さんはメモを見て、状況が分かったらしく、俺のほうを見た。でも今ここにはないという。テントに置いてあるらしい。
神さんは、しばらく自分の腕時計を見ていたが、あと一時間くらい待ってくれと言った。俺は一瞬考えたが、別に急ぐこともなかったので、近くの喫茶店に入って待つことにした。
その喫茶店からは神さんの売り場がよく見える。何となく神さんを一時間近く見ていたが、その間にも次々と来るお客さんに丁寧に頭を下げて、笑顔で対応する神さん。
普通にしていたら、とてもホームレスには見えない。俺の頭の中にあったホームレスの実態とは、だいぶ違っていたのだ。
そのうちに神さんは一時間経ったのか、雑誌を片付け始めた。俺は喫茶店のお金を払って、神さんの元へ向かった。
俺たちは電車に乗って、神さんたちのテントへと向かった。電車の中では、俺たちはお互いにひとこともしゃべらなかった。
俺たちがテントへ着くと、テントの前で黒さんともう一人のテントの住人である男性が酒を飲んでいる。そのもう一人の男性は前さんという。前さんは前田と言う名前らしいがみんなにはせんさんと呼ばれている。
前さんは日雇いの仕事をして暮らしている。でも昔から比べると、日雇いの仕事も求人が半分以下にまで落ち込んでいる。日々の日当も七千円から六千円とだいぶ下がっているらしい。中には六千円以下というところも多くある。寮とかが付いているところもあるが、寮費とか食費を引かれると、一か月で十五日以上は働かないと、黒字にならない。そう、給料がもらえないのである。
もし十五日以上働けない時は、赤字を背負うことになる。その赤字分は次の月の給料から引かれる。だから二、三か月給料が赤字だと、何か月もまともに給料がもらえない状況になったりもする。
そのため、寮に入らずに路上生活をしながら、もしくは安いところに泊まって、日雇いの仕事をしている人も多くいるのである。
二人は俺のことをジロリと見ていたが、またすぐに酒を飲みだした。神さんはテントへ入っていったが、すぐに携帯電話を手に出てきた。
続く
執筆: この記事は松田良一さんのブログ『ホームレスのおっちゃんの溜め息』からご寄稿いただきました。
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