【テレビ全録派鼎談】その2:“テレビ離れ”は進んだ? 番組の質を上げるには

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【テレビ全録派鼎談】その2:“テレビ離れ”は進んだ? 番組の質を上げるには

『SPIDER』を開発するPTPの創業メンバーの1人である竹中氏、ワンセグ放送を24時間全局録画するシステム『24時間ワンセグ野郎』の開発者で、ガジェット通信でもおなじみ『MobileHackerz』のMIRO氏、PTPの代表取締役社長の有吉昌康氏の3名による、全局を同時録画する“テレビ全録派”の鼎談(ていだん)企画。全録の概念は浸透しているのかどうか、主にハード面から現状を分析した第1回に続き、第2回はテレビで再生するソフトの話題に。全録時代のテレビはどうあるべきなのでしょうか。

聞き手:ガジェット通信 宮原俊介(shnsk)

第1回はこちら
https://getnews.jp/archives/164182[リンク]

テレビは情報弱者のメディア?

宮原:2008年の竹中さんとMIROさんの対談では、テレビを積極的に楽しもうという人が全録環境に流れていって、情報弱者と呼ばれる人たちは従来どおりのテレビの視聴のやり方にしがみついている。結果として2011年もテレビ離れは進まない、という予測がありました。2011年夏のアナログ停波では、翌日から電器店にチューナーを買い求めにいく人が出たりとか、コールセンターに凄い電話がかかってきたりとか、やっぱり大混乱が起こったわけですよね。こういう現象があるからテレビは情報弱者と言われる人たちのメディアということになるんでしょうか。今の時点で。

竹中:全員だったわけですよ、昔は。どんどんアンテナの高い人は他の選択肢ができたので、そっちも見るようになって、そうなった結果、相対的にテレビというのは視聴者にある基準をおいて、その基準で番組が作られていることに気がつくわけですよね。そうじゃない番組ももちろんありますよ。民放でもNHKでもどっちでも、そういうクオリティが高いものもあるんですけど。そういうことに気がついたので、クオリティ高いものを選んで見るようになったわけですね。

そういうことに気づけない人たちは当然、何万人ものコールセンターに電話をかけるような人の中に入ってしまいますよね。当然の帰結だと思いますよ。だから、『SPIDER』があってもね、『SPIDER』が突然規格が変わって、ある日ハードウェアを変えなきゃいけません、みたいなことが仮にあったとしたら、『SPIDER』を持っているようなユーザーでもコールセンターにギリギリになって電話かけてくる人はいますよね。

有吉:それは、人間の性(さが)だと思いますよ。人間は何事もギリギリまでやらないんだというのはよく分かると思います。だから、ちょっとそこと情報弱者みたいな話とは少し切り離さなきゃいけないんじゃないですかね。

リテラシーが高い人も「テレビが好き」

有吉:選択肢がある人とない人と竹中さんはおっしゃった。選択肢がある人で凄くITリテラシーの高い人、メディアリテラシーが高い人が、他のメディアも見ながら「テレビも好きだ」という人もいるんです。そこは二者択一ではないんですね。ラジオボタンではなくて、どっちかにつければどっちかがなくなるんではなくて、そういう人たちは凄くテレビを選りすぐってみている、ということだと思うんですよね。そこはちょっと慎重に議論しなきゃいけない。

竹中:慎重に議論しなきゃいけないのは当然なんですけど、僕ら世代だとテレビに重力を感じませんか? 引力。テレビがついてると、こうやって見ちゃうじゃないですか。子供たちはどうかわからないんですけど、僕らはまだテレビに引力を感じて、テレビというものであるがゆえに注目してしまう。という性質を教育、刷り込みをされてるような気がするんですね。

今はせっかくその力がまだ働いてるときなので、そこは放送局にせよインターネット側にせよ、うまく使わないとせっかくのチャンスが水の泡になるような気がしますね。そこは『SPIDER』ではうまく利用してほしいなあと思います。

有吉:『SPIDER』のメーリングリストというものがあって。『SPIDER』がこれから一般に発売するのに色々決まったらお知らせしますよ、という登録いただくアドレスがあるんですけど、そこに最近登録する人のコメントを見てると、「テレビはもういいやと思ってたけど『SPIDER』のあるテレビが理想です」みたいなコメントが凄く増えてるんですよ、ここ1年ぐらい。

なので、ちょっとそういう意味ではさっきおっしゃってたリテラシーの高い人とか上がってる人が全録環境を選ぶんじゃなくて、今テレビを諦めかけた人、諦めた人が全録という環境で、しかももっと便利なツールを用意されてると、「じゃあまたテレビを見てもいいかな」という人も増えてきている気がします。

竹中:それは全録環境が整ったあとに、やっぱりダメだったみたいなことも含めてリスクありということですね。今はまだそこがあまり分からないわけですよ。持ってる人は全国で1000人ぐらいしかいないわけで、色んなものをいれても。今後どうなるかですよね。それこそコンシューマ向けの『SPIDER』が出た後に、それが仮に5万台とか10万台とか普通にパっと出て、それでどうなんでしょう。「番組が面白くない」みたいなクレームが来ないとも限らないでしょう。

金ではなく工夫が足りない?

宮原:番組の質の話につながるんですが、予測ではテレビからお金がなくなってくるという話があって、実際テレビ番組の制作費が凄い下がってるという話がありますよね。そういう意味で、テレビからお金がなくなっていくという2008年の対談の予測は当たってたのかなと。

竹中:お金がないならないで工夫ができると思うんですけど、それが足りないと思うんですよ。前の対談の話をね、あまり深くしてもしょうがないと思うんですけど。バラエティ番組だったらひな壇に芸人並べてみたいなのって、お金がなくなるとギャラの安い人が並ぶようになるわけでしょ。でも別にそれだったらフォーマット変えて、対談番組にするとかゲスト呼ばないとか、そういう風にできればいいんですよ。

宮原:『お願いランキング』(テレビ朝日)が制作費を凄い絞って成功した例って言われてますよね。

竹中:後は『デザインあ』とかは、Eテレのね、一切出てこないわけですよ。アニメ番組みたいな感じなんだけど、今までの制作だったら芸人とかタレントを使って色々やるところを、完全に音楽を部品化してアニメーションを部品化して。『ピタゴラスイッチ』(Eテレ)みたいなものですよね。ああいうものだけで勝負している。ような作り方っておそらく民放だってできるわけですよ。『世界の車窓から』(テレビ朝日)みたいなものばっかりなんですかね。『世界遺産』(TBS)とかでもナレーションいらないんですよね。

実際に多かった韓流番組

竹中:高岡蒼甫が大騒ぎしていたじゃないですか、韓流韓流ってうぜえんだよみたいな。それで事務所クビになって、知ってますよね。それで実際見てみると、韓国の番組って本当に多いんですよ。一日に5時間とかあるわけですよ。1局に、MXとかテレ東見ると本当に明らかなんですけど、そういうことにも気がつきますよね。『SPIDER』持ってる人って。

前に比べると明らかに増えてきて、有吉さんがよく、見るべき番組が1週間で放送されている約 2000番組中にあるといいますけど、そのうちの4分の1ぐらいが消えるわけじゃないですか。1500番組ぐらいになるわけじゃないですか。見ない人にとっては。他にも別に韓国ドラマだけじゃなくても、自分の興味のないものがたくさんあるということも分かりますよね。

そこで、やっぱりテレビを諦める人が出てくるかもしれない。テレビの制作とか内容が、いい回転をし始めるというものをどうやればできるのか。僕が有吉さんと『SPIDER』を一緒にやりましょう、と言った時期には、いいものを作ればちゃんと回り始めると思ってたんですよ。でもそうじゃなくなってきるかもしれないなと思ってきていて、そこの答えが分からないんですよ。

MIRO:そうじゃなくなってきたというのは、テレビ局が黙っててもいいものを作るような環境じゃなくなってきたということですか。

竹中:劣化のスピードが速すぎて。パチンコとか、昔だったら消費者金融のものとか創価学会とか、そういうイージーマネーに行きすぎなんですよね。そのスピードが速すぎて制作が考え直して、何かを作り直すみたいなことが、許されない環境になってきてるんじゃないかなと思って、それがちょっと怖いんですよね。

超マスメディアでのみ有効だった視聴率

有吉:それはあくまで現状のそういう視点で見たらということだと思うので、変わりますよ。絶対。それはどういうものが見えてくるかですよね。つまり今は視聴率というものしかなくて、制作費というもので出て行くお金が見えてという状況じゃないですか。みんな見えるものをコントロールしたがりますから、 色んな状況が見えてくるともっと違ってくるんじゃないですかね。

竹中:それは何視点の話ですかね。

有吉:制作者サイドの視点ですね。

MIRO:今はテレビの番組を作っていると、恐らく本当に視聴率という数字しか見えてないのではないかという気がします。ターゲットをきちんと1人の人格として想定して、この人が使う・買うプランを考える、という手法がマーケティングの基本としてありますけど。そういった具体的な人物像がもう見えなくなっちゃってるのかな。という感じがするんですよね。

竹中:F1(※Female-1 20歳~34歳の女性)とかそういうのは通用しないということですかね。

MIRO:F1というのはまだ今の時代のマーケティングでは粗すぎる分類でしかないかなと。テレビは超マスな媒体なのである程度はしょうがないのですけど、「層」とか「数字」とかっていうような漠然としたもの相手に戦っていて、それが行き過ぎちゃって何も実態のない相手に対してコンテンツを作ってるような、そんな印象がありますけど。

竹中:不思議なものと戦ってるということですか。

MIRO:具体的に誰が見るのかというのを、イメージできないまま漠然としたものを相手に番組を作っていて、結局誰の心もつかめないまま時間が過ぎ去っていくみたいな。昔のように人々の価値観がそれほど離れていなかったときはそれでもスポっとはまっていたのが、人々の価値観が広がり過ぎちゃってて、漠然としたイメージだけでは凄いボヤっとしたものになっちゃうのか。という気がしますけどね。

竹中:要は市場がそういう風に細分化していくし、まだその途中だしこれからどんどん進んでいくというのは、多分マーケティングをちょっとでもやってる人だったら間違いなく分かってることなのに、なぜその超マスであるていうことを前提に、テレビの制作は超マスなものを作り続けようとするんですかね。

MIRO:超マスな媒体だからじゃないですかね。

竹中:それが共通認識として例えばお笑いだったら、うまく多くの人に多くのシチュエーションにはまるだろうということで、お笑いが流行ったりするわけですよね。他にも何かあるんじゃないかな。

視聴率に代わる指標を持て

有吉:制約事項が多いからでしょう。見えるものは視聴率のみですし。でもそこが、じゃあ「ここからダウンロードをどれぐらいされました」とか。「この番組を見るために検索したのはこういうキーワードを検索してたどり着いたんです」とか。「そこから関連グッズとしてこれが売れました」とか。「これ局のオンデマンドにつながってこれが売れました」。色んなものが見えてきたら色んなアイデア出ますよね。

竹中:やる気がでますよね。

MIRO:効果測定の指標が視聴率という単一な数字しかないから、その視聴率を広げるためにはベースを広げる必要があって、全体的にターゲットが絞れない。ターゲットを絞るというのはやっぱり対象を絞ることなので、数字は下がっちゃうわけですよね。今のテレビではそういう考え方が許されませんが、『SPIDER』みたいなデバイスが入ることで、効果測定の指標がたくさんあるメディアとして変質すれば考え方が変わるんじゃないのかな。ということを有吉さんおっしゃてるのかなと思うんですけど。

有吉:そうですね。

竹中:超マスの番組作りというものが、多変量の変数をたくさん提供されるなかでどう作っていくかということを、今後の制作の人たちは考えなくちゃいけないということですよね。

宮原:いろんな変数が『SPIDER』から上がってきて、それを活用してくみたいなことってネットのメディアだったら割とやってることですよね。だからそういうノウハウとかアイデアみたいなものがテレビ局にも定着する。

有吉:ネットだったら当たり前じゃないですか。ということは世の中にあるということでしょ。そういうノウハウとともにテレビ局が進化できるわけですよね。

(第3回へ続く)

MIRO プロフィール:
MobileHackerzの中の人。デジタルガジェットをこよなく愛するモバイル男。でも最近「自転車」にハマり、引越して電車移動の時間が短くなりでガジェットをいじる時間が少なくなってます……。

竹中直純プロフィール:
有限会社未来検索ブラジル取締役、武蔵野美術大学講師。インターネット草創期より、数多くのWeb サイトやシステムの設計・運営に携わるプログラマー。技術家を自称している。現在は、システム開発のみならず、Web関連のディレクションやプロデュースを多数手がける。

有吉昌康プロフィール:
株式会社PTP 代表取締役社長。野村総合研究所で企業戦略やマーケティング戦略を専門に消費財メーカー、コンビニ等に対してコンサルティングを行う。同社を2000年に退職し、株)パワー・トゥ・ザ・ピープル(現 株式会社PTP)を創業。

参考記事:
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(1)】持ち歩いて楽しむテレビ動画 – MobileHackerzの飽くなき追求
https://getnews.jp/archives/1446[リンク]
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(2)】SPIDERが変えるテレビ視聴 – PTPの野心
https://getnews.jp/archives/1708[リンク]
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(3)】“全録”環境がテレビを面白くする
https://getnews.jp/archives/1959[リンク]
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(4)】私的利用のガイドラインが争点に–“全録”環境の課題
https://getnews.jp/archives/2380[リンク]
【MobileHackerz X 竹中直純 スペシャル対談(5):最終回】2011年のテレビを大予測–テレビ離れは“進まない”
https://getnews.jp/archives/2900[リンク]
地デジハイビジョンを1週間分 全チャンネルまるごと録画! 『地デジ版 SPIDER PRO』発表
https://getnews.jp/archives/89229[リンク]

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shnsk

宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

ウェブサイト: http://mogera.jp/

TwitterID: shnskm

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