藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#38 ホメオパシー

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 ホメオパシーを始めて、かれこれ15年くらいになる。すでに日常に溶け込んで、リビングルームに置かれ、バッグの中に常備してあるのが普通となった。
 旅行や出張の時は、着替えを忘れてもホメオパシーは必ず持参するほどで、それは一般的な薬局では取り扱っていないせいもあるのだが、信頼感あってのことだ。
 たとえば風邪の引き始めに漢方の葛根湯をとる人のように、僕はホメオパシーのアコナイトをとる。冷えからくる風邪ならばヘパソーファ、寝汗をかく風邪ならマーキュリー、疲れを感じたらカーボベジ、といった具合だ。
 使い方は、症状に合うものを専門家に勧めてもらったり、自分で選んだりするだけだが、西洋医学における薬に相当するレメディと呼ばれるシュガーボールは、その名の通りお菓子のようでもあり、カプセルや錠剤に慣れ親しんだ目からすれば、こんなので効くのだろうか、という疑問が湧くような小さな白い粒でしかない。実際無数にあるその種類のすべてが同じ白い粒でしかなく、カルト的に見ようと思えばいくらでもそう見えてしまうので、まずはその偏見の入り口で、しっかりと理解することが大切だと思う。
 自分は直感型なので、面白そうだ、という好奇心から入ったのが正直なところだ。薬というと、悪いところを治してくれるもの、バイ菌をやっつけてくれるもの、癌を退治してくれるもの、というのが一般的な認識だと思うが、ホメオパシーでは、悪いところを治せる自分に調整するという点で大きな違いがある。つまり自身の自然治癒力を高める、という点に僕は惹かれた。
 興味を得ると、ホメオパシーの本をいくつか読んでひとまず納得した。その頃は、関する本も今よりも少なく、疑念を抱くというよりも、そういうことになっているのか、とひとまず懐に入れることにした。
 要点をかいつまんでみると、

1、肉体だけでなく、精神、感情にも影響を与え、人間全体としてバランスのとれた状態へと導く。トラウマや不提訴、深い悲しみなども癒す。心身の根から健康になる。

2、対症療法ではなく、根本治療である。

3、自然治癒力を刺激するだけなので、副作用がない。妊婦や新生児も与えることができる。

4、植物、鉱物、動物などの自然物から作られるので環境への負荷がない。

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 ホメオパシーを体系だてたのは18世紀生まれのドイツ人医師ザミュエル・ハーネマンで、当時のマラリアの特効薬であったキナの樹皮について調べているうちに、その苦味がマラリヤに効くという事実に対し、他の苦味のある樹皮ではなくて、なぜキナのものだけが効くのかと疑問に思った。そして、試しに自分や家族にキナの樹皮を摂取させてみたところ、マラリヤに罹っていないにも関わらず、動悸、交互に現れる熱感と悪寒、疲労感、眠気というマラリヤの症状が出たのだった。ハーネマンは同種の症状を引き起こすものが、その種の症状を改善するということに気づき、これがヒントとなり、「同種の法則」を確立することになった。つまり「毒を持って毒を制す」「健康な人に投与して、ある症状を起こさせる物質は、その症状を治すことができる」という法則を。
 この同種の法則は、実はギリシアのヒポクラテスがやっていたことでもあり、発熱した患者を温めて治すといったことを実践していた。
 ハーネマンは以後、臨床実験を重ね続け、生涯に100種前後のホメオパシー薬を発見した。その後彼を引き継いだ人々によって、現在は3000種類以上のホメオパシー薬が発見されている。
 ホメオパシーへの現代における評価は、イギリスに王立ロンドン・ホメオパシー病院があることが何よりもの説明になるだろう。ちなみにイギリスの王室は1803年からホメオパシーを取り入れている。フランスでは町の薬局で買え、70パーセント以上の医師がホメオパシー薬を処方しているし、国民の3分の1が使っている。ドイツ然り、ベルギー然りな状況である。インドもイギリスの植民地であったことから盛んで、自分もインドへの旅行中に普通の薬局で風邪用のホメオパシー薬を買った経験がある。パキスタン、バングラディッシュ、スリランカでも国が認めている。南米での浸透が始まっていて、ブラジルでは薬学部を卒業するのにホメオパシーの単位をとることが必須とされている。オセアニア諸国でも政府が普及に力を注いでいる。
 ざっと要点と歴史と現在の評価を記したが、カルトでないことだけは、伝わったのではないかと思う。

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 もちろん、その説明の中で、うまく理解できない部分もあり、ただ不思議だなあと感想するしかないことがある。
 たとえば、そのレメディの作り方などについては、その成分をできるだけ薄めていく「最小有効量の法則」の理論から成っているのだが、未だにそういうことになっているのだな、としか言えない。つまり成分を3千倍に薄め、さらに一万倍、2万倍と薄めるほどに効果が強くなるというのだ。これは理論的に見ると、1分子も含まれていないということになるらしい。とても不思議ではないだろうか?
 風邪の初期に摂るアコナイトはトリカブトの毒から作られるので、気持ち的にはより薄めて使うことで効果が増すのは嬉しいのだが、他の鉱物や植物などの毒ではない成分までも薄めれば薄めるほど効くというのは、もはや信じるしかない。つくづく不思議だ。これはつまりエネルギーが効くと考えても、薄めればより効くということの納得いく説明にはならないので、ただ懐にえいやと入れるしかないところなのだ。
 僕などは風邪や虫刺され、怪我、など一般的な身体の不調に対して使っているのだが、ホメオパシーの真骨頂とも言えるのは、むしろ心的、精神的な不調が身体の不調と関係している事柄に対してあると思う。
 精神の不調、自分でも気づかないトラウマ、深い悲しみ、悪い感情などの精神的な崩れと身体的な不調を全体的なバランスの崩れとして、全体的に整えていこうとするのが、そのそもホメオパシーの方向性だと理解している。
 ホメオパシーのガイド本などを開き、一つ一つののレメディの効用などを読んでいくと、まさに心と身体は繋がっていることに気づかされる。
 たとえば、アコナイトはこうだ。

 テーマ 恐怖の体験を乗り越える
 特徴  風邪のひきはじめ 不安症 パニ 
     ック症 死ぬかと思うほどの恐怖
 場所 精神 脳 神経 心臓 右側
 悪化 恐怖 ショック 冷たく乾いた気候
    深夜 締め切った暖かい空気
 好転 外気 発汗 休息
(由井寅子のホメオパシーガイドブック1 ホメオパシー出版より)

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 これはガイドブックなので、それをどう読み解くかは本人の資質によってしまうのだが、本来は、最初に一時間ほどのカウンセリングをホメオパシーの専門家であるホメオパスの方にお願いし、そこで自分の精神状態、身体状態、過去のトラウマ、などを総合的に読み取っていただき、適したレメディを処方してもらうのがスムースなのだろう。
 僕は、これを書いている時点でまだホメオパスによるカウンセリングを体験していなのだが、受けた人の話によると、それこそカウンセリングで、泣いてしまったりしたそうだ。
 これは、身体の不調時での使用でも言えることだが、たくさんあるレメディの中から最適なものが処方できた時は効果はてき面で、手首の痛みがすぐに消えてしまったこともある。その一方で外した時は、何も効いていない感じがする。ホメオパスの方の能力や読み取り方もそれぞれなので、人と人との相性も不確定要素には違いない。
 それでも僕がホメオパシーを支持しているのは、それがやはり自然のものから抽出され、それを取り入れることで、自分の心身のバランスを再調整し、最適化し、自分で自分の面倒を見る力を高めていこうという積極的な姿勢があるからだ。つまり生命力を高めるという方向への支持に尽きる。
 体調を崩した時に、すがるように病院に行って何時間も待つよりも、身体だけでなく、精神状態にも気を配ることを日常化するという、その発想の健康さが素晴らしいと思う。
 生活し、生きていると、自分は常に固定化されることのない、揺れている存在だということを意識する。それは草木が風に揺れるようでもあり、波が寄せて帰るようでもあり、地球が宇宙を走るようでもあり、とにかく固定化されることが、いわゆる病と呼ばれる状態なのではないかと思う。
 僕は、健康であるために揺れたいと思う。新たな自分を得ることに逆らうことなく、緩やかに柔軟に揺れて、変化を受け入れ、古い自分を脱ぐ時に生じる、不調や痛みを、対症療法で抑えてしまうのではなく、むしろ痛みを出し切る方向を選び、僕は新しい僕を選び続けたいと思う。
 つまり、いつだって、さようならはこんにちはと訳されるのだ。

※『藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」』は、新月の日に更新されます。
「#39」は2017年2月26日(日)アップ予定。

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