予防医療の実践で健康寿命を延ばせるか?

予防医療の実践で健康寿命を延ばせるか?

健康長寿社会の実現に向けて

わが国は世界有数の長寿国ですが、ご高齢の方の多くは何らかの病気を抱えています。
せっかく長生きをしても、脳卒中や骨折で、自分で歩けなくなったり、がんや心臓病で入退院を繰り返したりしていては、決して幸福な人生とはいえません。
今や超高齢社会に突入したわが国の保健医療の目標は、単に長生きすることではなく、いかに健康で長生きするか、すなわち健康長寿の実現であるといえるでしょう。

血管病を予防することが健康寿命を延ばすためには重要

現在わが国の死亡原因のトップはがんですが、第2位の心臓病と第4位の脳卒中はいずれも血管の病気ですので、それらを合わせた心脳血管病の死亡者数は将来がんを凌ぐとさえ言われています。
したがって、これらの動脈硬化を主体とする血管病を予防することが、現時点での健康長寿社会実現への最適の方法です。

そのためにはまず生活習慣を見直して、喫煙、暴飲暴食、塩分・糖分・脂肪の取りすぎ、運動不足等を避けることが重要です。
特に禁煙は多くのがんの発症予防にもつながります。
そして健診や人間ドックを毎年受診して、もし高血圧症、糖尿病、高脂血症、腎臓病等の生活習慣病が見つかれば、将来心臓病や脳卒中を発症する危険があるので早期に治療しておきましょう。

感染症が原因で起こるがんの予防は可能

次に現在約2人に1人が罹ると言われているがんですが、感染症が原因で起こる一部のがんでは予防可能です。
例えばピロリ菌(胃がん)、B型やC型肝炎ウイルス(肝がん)、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)などです。
これらに感染しているかどうかを医療機関や健診施設で調べてもらい、未感染の方はこれらのがんに罹る可能性が低いと言えます(絶対に罹らないというわけではありませんが)。

また、B型肝炎ウイルスとヒトパピローマウイルスには感染予防のためのワクチンがあります。
ピロリ菌は飲み薬で除菌すれば、胃がんの発生率を減らすと言われています。
さらに最近C型肝炎ウイルス(HCV)治療薬の進歩は著しく、適切に治療すれば大半の感染者でHCVの完全排除が可能になり、将来肝がん予防につながるかどうかが注目されています。

がん検診で健康寿命を伸ばすには早期に発見し完治することが必要

一方胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、そして子宮頸がんについては市町村によるがん検診が行われており、定期的に受診していればそれぞれのがんによる死亡率が減るとされています。
しかし検診によって健康寿命を延ばすためには、早期にがんが発見されて完治する必要があります。

特に最近わが国で増えている肺がんや大腸がんの5年生存率は治療法の進歩などで劇的に良くなっていますが、必ずしも健康寿命の延伸につながってはいないのが実情です。
多くのがんは細胞の老化が大きく関わっていますので、超高齢社会にとっては予防が難しいのです。
しかし先ほど述べた生活習慣の改善は、いくつかのがんの予防になる可能性は大きいと思っています。

(古家 敬三/医学博士)

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