子どもたちに思い出を。住人がイチからつくった地域の夏祭り

子どもたちに思い出を。住人がイチからつくった地域の夏祭り

子どものころの「お祭りの風景」というのは、多くの人の脳裏に刻まれているものだと思う。全国から観光客が集まるような大げさなものじゃなく、町内会が主催する地域の小さなお祭りだ。神社の参道に露店が並び、公園にやぐらを組んで盆踊りを踊る。細かいディティールは覚えていなくても、楽しかった思い出はしかと心が記憶している。

そんな一生の記憶を子どもたちに残そうと、お祭りがなかった地域にお祭りをつくってしまった人たちがいる。千葉県野田市の新興タウン「ソライエ清水公園 アーバンパークタウン」の住人たちだ。

3カ月がかりで準備、住人手づくりのお祭り

筆者が子どものころ、夏のお祭りは一年で最も心躍るイベントだった。ふだんのおこづかいとは別に支給されたボーナスの500円玉をやりくりし、お祭りの屋台を最高に満喫する戦略を立てるのが楽しかった。いつもは内気なのに、催事のテンションにまかせて盆踊りを踊ったりもした。

しかし、最近は高齢化や人口減少でお祭りを中止する地域も増えているようだ。寂しいことである。

そんななか、千葉県野田市の新興タウンに住む住人が、自らの手でお祭りを立ち上げてしまったという。「お祭りをつくる」って、どういうことなんだろう? 夏の終わりに開催された「清水公園東自治会 夏祭り」に足を運んでみることにした。【画像1】お祭りは夕方から。早く着き過ぎたので準備の真っ最中だった(写真撮影/片山貴博)

【画像1】お祭りは夕方から。早く着き過ぎたので準備の真っ最中だった(写真撮影/片山貴博)

会場は東武アーバンパークライン・清水公園駅すぐ近くの「ソライエひろば」。

この日は小雨のぱらつくあいにくの天気。にもかかわらず、雨粒に打たれながら着々と準備が進んでいた。中止など微塵も考えていないようである。なお、この日の天気予報は終日雨だったため、訪れる前に念のため主催者に開催の有無を問い合わせたところ、「何がなんでもやります!」との力強い返事。半端じゃない意気込みがうかがえる。【画像2】お手伝いもそこそこに追いかけっこ。よいよい、子どもは遊ぶのが仕事よ(写真撮影/片山貴博)

【画像2】お手伝いもそこそこに追いかけっこ。よいよい、子どもは遊ぶのが仕事よ(写真撮影/片山貴博)

広場の周りを七夕飾りが取り囲み、「やぐら」に見立てた巨大な竹を中心に無数の提灯がツリー状に広がっている。夜は提灯にLEDの光が灯り、竹を囲んで盆踊りが行われるらしい。失礼ながら手づくりというからもっとしょぼい感じのものを想像していたし、ご近所さんのお祭りなのだからむしろそのしょぼさが愛おしかったりすると思うのだが、かなり大がかりで華やかだ。住人たちの並々ならぬ気合が感じられる。

聞けば、これらの装飾も、全て住人たちの手づくりなのだとか。準備は6月から3カ月がかり。実行委員を中心に提灯づくりのワークショップを開催するなどして、150個の提灯と七夕飾りをこしらえた。平日昼間は仕事でなかなか集まれない住人も、会社帰りや週末などに作業を進めていったらしい。最終的には実行委員会を中心に、30人弱のメンバーが関わっているそうだ。【画像3】七夕飾りなどの準備は「ソライエひろば」内にある公共の作業場「ものづくりの工房」で行われた(写真撮影/片山貴博)

【画像3】七夕飾りなどの準備は「ソライエひろば」内にある公共の作業場「ものづくりの工房」で行われた(写真撮影/片山貴博)

引越してきた街にお祭りがない…じゃあ、つくっちゃおう!

ここで、お祭りの立ち上がりの経緯を簡単に説明しよう。

2015年から始まり今年で2回目。今年は「清水公園東自治会 夏祭り」と自治会主催になっているが、もともとは2014年6月に街びらきした一戸建て住宅中心の大規模分譲開発地「ソライエ清水公園 アーバンパークタウン」(以下、ソライエ清水公園)の住人たちが発起人となってスタートしたものだ。

しかし、そもそもなぜお祭りをつくろうと思ったのか? どうしてこんなに気合が入っているのか? 夏祭り実行委員のひとりである堀川さんに聞いてみよう。ちなみに、堀川さんはソライエ清水公園では最高齢の55歳(2016年9月現在)。世間的にはまだまだ若いが、周囲に若いファミリーが多いため「長老」と呼ばれている。【画像4】子どもたちとたわむれる長老(写真撮影/片山貴博)

【画像4】子どもたちとたわむれる長老(写真撮影/片山貴博)

―― お祭りを立ち上げたきっかけは?

長老「ソライエ清水公園は2014年にオープンして今は50世帯くらいが住んでいるんですけど、みんないろんな場所から来た人たちなんで、仲良くなるために何かやりましょうっていうのがスタートですね。だったら子どもたちの思い出にもなるし、夏祭りなんていいんじゃないかと。私たちが来る前も地域では自治会主催のバーベキューが行われていましたがお祭りはなかったんで、じゃあつくっちゃえって」

―― つくっちゃえ!って、サークルつくるみたいな気軽さがいいですね。1回目のお祭りにはどれくらいの住人が参加されたんですか?

長老「去年はお祭りに来てくれたのが60人くらいでした。盛り上がったし感動したんですけど、想定より人数が集まらなかったんですよね。せっかくこれほど頑張ってつくったお祭りなんだから、もっと多くの人に来てほしいし、できれば準備から参加してほしい。こうやってみんなで何かをつくり上げると、コミュニケーションも強くなりますしね。

それで今年はソライエ清水公園だけじゃなく、周辺住人のみなさんも含めた自治会を巻き込んでやろうよって。去年はソライエ清水公園を中心とした有志主催でしたが、自治会主催にしちゃおうと。今年は6~7割くらいの住人の方が準備から参加してくれていますし、去年にもましてみんなで盛り上げようという思いが感じられますね」【画像5】そうこうしているうちにお祭りが開幕。子どもたち一番人気の出店は意外にも「スーパーボールすくい」(写真撮影/片山貴博) 【画像5】そうこうしているうちにお祭りが開幕。子どもたち一番人気の出店は意外にも「スーパーボールすくい」(写真撮影/片山貴博)【画像6】焼きそばの屋台も。ちなみに焼いている方は「焼きそばの達人」とのことで、食べてみたら本当にうまかった(写真撮影/片山貴博)

【画像6】焼きそばの屋台も。ちなみに焼いている方は「焼きそばの達人」とのことで、食べてみたら本当にうまかった(写真撮影/片山貴博)

―― ただ、そうはいっても忙しくて準備までは手伝えない人もいますよね。自分は手伝っていないのにお祭りだけ参加するのもアリなんですか? なかなか足を運びづらい気もしますが…?

長老「それはもうみんないろいろな事情があるし、仕方ない。小さい子どもがいたり、そもそも別宅として持っていて週末だけしかここに来ない方もいらっしゃいますしね。でも、お祭り当日は気軽に顔を出してねって声をかけています。というか、そんなに深く考えていなくて、準備もただ好きな人が集まってやっているって感じなんですよね。苦労したぶん達成感も大きいですし。去年はお祭りの準備も含めたムービーをつくったんですけど感動しますよ。思わず泣いちゃいましたもん」

何とも器が大きい長老だが、本当だろうか? お祭り当日だけに参加していた一家に、こっそり話を聞いてみた。

「他の住人のみなさんは何カ月も前から準備してくれているのに、自分たちは当日だけ来てビール飲んで焼きそば食べるだけ。最初は申し訳ないって気持ちもあったし、みんながやっているからプレッシャーを感じることも正直ありました。でも、堀川さんはじめ『好きでやってるだけだからいいんだよ、気にするなよ』っていつも言ってくださるので、もういいや、堂々と参加しちゃえって感じですね。義務感とか、本当にないんですよ」

……本当だった、素晴らしい。【画像7】陽が落ちLEDが灯る。なお、LEDはクリスマスパーティーと兼用とのこと(写真撮影/片山貴博) 【画像7】陽が落ちLEDが灯る。なお、LEDはクリスマスパーティーと兼用とのこと(写真撮影/片山貴博)【画像8】盆踊りスタートで盛り上がりは最高潮に。炭坑節を知らずとも、自然と体が動き出す(写真撮影/片山貴博)

【画像8】盆踊りスタートで盛り上がりは最高潮に。炭坑節を知らずとも、自然と体が動き出す(写真撮影/片山貴博)

住人がつながりやすい雰囲気と大きな広場が祭りを生んだ!?

―― それにしても、こうも住人が一丸となって協力的にコトが進むってなかなかないと思うんですけど、なぜこんなにうまくいっているんでしょうね?

長老「もともとソライエ清水公園自体に『家と家の間に壁をつくらない』『住人同士のコミュニティを大事にする』というコンセプトがあって、みんなそれを理解したうえで集まっている人たちなんですよね。最初から住人同士がつながりやすい雰囲気はあったと思います。あと、一番大きいのはこの広場の存在でしょうね」

―― 確かにとても広いし、道路にも面していないから子ども連れでも安心だし、お祭りをやるには最高の場所ですよね。

長老「ここはソライエ清水公園の事業主である東武鉄道が所有している土地なんですけど、3年間の期間限定で住人たちに開放してくれているんです。公共の公園とかを使おうと思ったら役場への申請など手続きも大変そうですし、お祭りなんて許可してくれるかどうか……。

敷地内のものづくりの工房を準備で使わせてもらえるのも大きいですね。この広場がなかったらとてもお祭りなんてできなかった。3年を過ぎたらどうしようって問題はあるけど、住人みんなにとってとても大事な場所になっていますので、できれば引き続き使わせてもらえるよう東武さんにお願いしようと思っています」

―― 子どもたちもめちゃくちゃはしゃいでいるし、ぜひ続けるべきだと思います。

長老「そうですね、あと子どもたちのためといいつつ、大人は大人で自分らが楽しいからっていうのも結局大きいんですよ。みんなと飲みながら作業するのが楽しいし、定年退職後の自分の“居場所づくり”という意味合いもありますよね。老後は会社での立場とか肩書なんてまるで関係なくて、こういう場所で焼きそばをうまく焼ける人が尊敬されたりするもんなんです。だから、僕も役に立てるように、今から地域にかかわっていきたいと思っています」【画像9】郷愁を誘う盆踊り。田舎(埼玉)のおふくろは元気かな(写真撮影/片山貴博)

【画像9】郷愁を誘う盆踊り。田舎(埼玉)のおふくろは元気かな(写真撮影/片山貴博)

お祭りに限らず、地域全体を巻き込む規模のイベントはふつう自治体や商店会などが主催することが多い。その目的は街に活気をもたらすためであったり、日ごろ商店街を利用しているお客様への感謝・還元だったりするが、住まい手というのはどうしてもサービスを受ける側、受け身になりがちだ。ソライエ清水公園のように住人自らが発起人となり「お祭りをつくっちゃう」ケースは極めてまれであろう。でも、本気でやろうと思えばできちゃうもんなんだな。

これを何年も継続していくのはかなり大変だと思うが、お祭りはいつまでも続いてほしいし、こうした事例に学び、素晴らしいコミュニティがほかの地域にも広がっていくことを期待したい。●取材協力

ソライエ清水公園アーバンパークタウン
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