スチャダラパーBoseが“究極のハチロク”を仕上げた社長のものづくりの信念に迫る
▲このお店のすごさはカローラレビン(AE86)だけじゃない! なんと社長がラジコン使いだった!?
奇跡の1台に出会ったら、それにふさわしい仕上げをする
日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパーのMC、Boseが中古車情報誌『カーセンサー』にてお届けする人気連載「Bosensor」。カーセンサー本誌で収録しきれなかったDEEPでUNDERGROUNDな話をお届けっ!!
今回はWORKSにお邪魔した記事(関連リンク参照)の後編です。
Bose:前回に引き続き、WORKSの藤ヶ崎社長が出会った奇跡のハチロクの話を聞いていこうよ。
編集部ゆきだるま(以下ゆきだるま):30年も前の車なのにキズや汚れはおろか、くすんだ感じもないってすごいことですよね。Boseさんと一緒にいろいろなお店を回っていますが、こういう車、初めてみました。
Bose:普通じゃありえないよ。どんなものでも経年劣化するのは当たり前だし、まして車は外を走るわけだからキズが付く可能性もあるし、雨や日光に当たるから傷みやすいもの。
藤ヶ崎社長:Boseさんが“奇跡”とおっしゃいましたが、まさにその言葉がピッタリです。例えば前オーナーさんが喫煙者なら天井のクロスがサンバイザーがある部分とない部分で色が変わってしまいます。
Bose:今と違って車内でタバコを吸うのが当たり前の時代の車だもんね。
藤ヶ崎社長:前オーナーさんは屋根付きガレージを持っていて、ほとんど乗らずに新車からずっと保管してくださっていたのがよかったですね。
Bose:そのオーナーさんは車好きでもなんでもないですよね。
藤ヶ崎社長:違うでしょうね。
Bose:変な言い方だけど、車が少しでも好きな人なら30年の間に買い替えようと思うことが一度や二度はあったはず。しかも80年代のレースシーン、そして90年代からの空前のハチロクブームは社会現象だったから。それを知っていれば途中で「この車、高く売れるだろう」という色気が出てもおかしくないもんね。
ゆきだるま:私ですら車に詳しくなかった頃からハチロクのことは知っていましたから。
藤ヶ崎社長:30年間で走行距離は4.5万km。単純計算で年間1500km、月100kmちょっとしか走っていないことになります。それなのにディーラーでの定期点検を欠かさず行っていたのですからすごい個体です。
▲このマフラー、新車時から同じものが付いているんです。下まわりは錆やすい箇所。それなのにこれだけピカピカなのはまさに奇跡!
Bose:ディーラーも商売だから、絶対に点検のたびに「今なら人気ですし高く売れますよ」と乗り替えを勧めていたはず。きっと前オーナーは「別に調子が悪いわけじゃないし、俺はこれでいいいんだよ」と言いながらマイペースで乗り続けていたんだろうな。日本以外にまで広がったハチロクブームとは完全に隔離されたところで生きてきたからこそ、この状態で目の前にあるんだろうな。あっ、もちろんそれをよみがえらせた社長の努力と執念があってこそですね。
藤ヶ崎社長:いやいや、この個体があってこそです。もしこれが世に出回っている普通のハチロクと同じような状態だったら、私はチューニングしていましたから。実はこのようなハチロクに出会ったのは人生で2度目なんです。
Bose:そうなんだ! 前のハチロクはどうしたんですか?
藤ヶ崎社長:それも極力オリジナルの状態で仕上げました。完成後は非常に多くのお客様が見に来てくれたのですが、やっぱり「これをいじりたい」「ホイールを替えたい」という方ばかりで……。申し訳ないですがすべてお断りしました。
Bose:社長の面談だ(笑)。でもこういう状態のものを後世に残すのも大事だもんね。
藤ヶ崎社長:でも最終的に私の考えに賛同してくださる方と出会えまして。その方は「保管はこういう場所にする」と写真まで見せてくれました。「この車を大切にする。でも僕はこれで峠を走る」と。
Bose:それはいいの? 走ったら傷んじゃいますよ。
藤ヶ崎社長:車ですから走ってあげないと。本当はメンテナンスを私ができれば一番だったのですが遠方の方で難しかった。なので私から近所のディーラーに頼んで面倒を見てもらっています。
Bose:変な言い方だけどディーラーに整備をお願いできるんだ。Bosensorの取材をしているとパーツ供給などの問題もあって旧車をディーラーで見てもらうのは難しいという話を聞くんですよ。
藤ヶ崎社長:普通は難しいですね。私がお願いしたディーラーにはたまたまベテランのメカニックがいて、その方が面倒を見てくれることになったんです。
Bose:車を見て「若いもんには任せておけないぜ」と火が付いたのかも。
藤ヶ崎社長:今度その“初号機”オーナーのところにこの“弐号機”で行って、2人で走るつもりです。
Bose:え?? これで走るの? しかも自走?
藤ヶ崎社長:さっきも言ったように車なんですから走ってあげないと。もちろん往復の高速道路は車間距離を数百m開けて飛び石は回避しますが(笑)。
▲シートにも破れやほつれがない状態。社長は一度シートを外して徹底的なクリーニングを施したそう
もう一つの事業、ラジコンにも本気!
藤ヶ崎社長:Boseさん、うちにはもう一つおもしろい車があるんですよ。ぜひ見てください。
Bose:あっ、これってチョロQのやつじゃないですか!
藤ヶ崎社長:よくご存じですね。チョロQが作った1人乗りの電気自動車です。ただ……この車にはWORKSオリジナルのカスタムを施してあるんですよ。わかりますか?
Bose:なんだろう? カラーリングですか?
藤ヶ崎社長:実はうちは8年前にガレージの横でラジコンサーキットを始めたんですよ。ラジコン屋さんがこういう車を手に入れると何をするか? これをラジコンにしちゃおうと考えるんです。
Bose:え!!!!!!! これってラジコンなの????
藤ヶ崎社長:はい(笑)。コントローラーで操作することができます。しかもコントローラーにモニターを付けてあるので遠隔操作も可能です。あとプロジェクターを搭載しているので、夜に映画の上映会もできるんです。
Bose:いじり方の発想がチューニングショップじゃないよ(笑)。
▲人が乗れるチョロQ電気自動車。これをラジコンにしちゃう発想がすごい!
▲ガレージの横にあるラジコンコース。ラジコン好きで専門誌で連載を持っていたこともあるBoseさんは夢中!
藤ヶ崎社長:完全にラジコン頭で作っていますね。最近作ったこのラジコンもいいですよ。
Bose:これもモニター付きだ。
藤ヶ崎社長:僕は常々、マシンがこちらに向かってくるときはステアリング操作と車の動きが逆になるギャラリー目線でラジコンを操作しないといけないことが不満でした。そこでドライバー目線で操作できるようにカメラを取り付けたんです。ただ運転席の位置にカメラを付けるとドリフト時に視線がずれるのでリアスポイラーの上に付けました。ラジコンはコンマ1秒の操作が命なので、リアルタイムに動画を送れるようにしています。
Bose:ハチロクといい、ラジコンといい、こだわり方が半端じゃないよ。ちなみにチューニングの方は峠、ゼロヨンとかだとどこが専門なんですか?
藤ヶ崎社長:僕は……全部好き。だからいろいろなことをやっているんです。おもしろいと思ったものは全部やりたい性分なんですね。だからこそ常に頭は柔らかくしておきたい。さっき紹介したチョロQのラジコンも、単に遊ぶのではなく、例えばあれを福祉車両として応用したらどうなるか。そういうことを常に考えているんです。
Bose:そのアイデア、おもしろいじゃん!
藤ヶ崎社長:僕らのような小規模店舗は資金が潤沢にあるわけじゃありません。でも常にアイデアを提示することで、例えばそれを見たメーカーさんが採用してくれたらうれしいですね。そういう連鎖が起こると世の中も楽しくなるはずですよ。
▲ドライバー目線で操作できるよう、カメラを設置。車やホビー関連以外にもアンテナを張りめぐらせて、想像力を高めているそう
いつかは究極のハチロクをいじりたい。だってチューニングショップですから
Bose:ハチロクをオリジナルで復活させて、ラジコンにこだわる。そんな藤ヶ崎社長の夢は何ですか?
藤ヶ崎社長:これは今の時代に叶わない夢だと思いますが……。今回オリジナルで仕上げたものと同じコンディションのハチロクを複数台手に入れて、そのうちの1台を思い切りチューニングしたいです。
Bose:おお! やっぱりそっちも捨てられないんだ。
藤ヶ崎社長:だってうちはチューニングショップですよ(笑)。コンディションのいい素材を使うのはチュー二ング屋の夢ですから。でもこれだけの車はまず現れない。だからチューニングとは真逆の、状態のいいものをオリジナルで残すのは義務だと思います。オリジナルを磨いたのとレストアで塗装し直したのでは、肌つやが違うんですよね。
Bose:年は重ねているけれど、肌はつやつや。この車がどんな人の元に行くのか。そのとき社長はどんなリアクションをするのか。楽しみだよ(笑)。
【関連リンク】
取材に協力いただいたWORKS(ワークス)の詳細情報を見る スチャダラパーBoseがチューニングショップで奇跡のオリジナルカーに出会った!(前回記事) スチャダラパー公式HP トヨタ カローラレビン(AE86)の中古車を探すtext/高橋 満(BRIDGEMAN)
photo/篠原晃一
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