68~83歳が7人で暮らす、グループリビングという暮らし方
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まだ介護が必要ではないシニアにとって、最期まで施設などのお世話にならずに暮らせるかどうかは不安なもの。そんな不安を抱えるシニア自身が立ち上げ運営する[グループリビング]という住まい方が、少しずつ形になってきている。
自立したシニアの共同生活[グループリビング]
今回は昨年、2015年11月にオープンした『おでんせ中の島』(神奈川県川崎市)へ伺い、その運営や暮らしぶりを見学させていただいた。
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【画像1】グループリビング「おでんせ中の島」は、奥の建物。同じ敷地に建てた白い外観は子育てNPO「ままとんきっず」(写真撮影/片山貴博)
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【画像2】“おでんせ”は岩手県盛岡地方の方言で「おいでください」という意味。個別部屋用のインターホン&郵便受けが並ぶ玄関(写真撮影/片山貴博)
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【画像3】L字形の敷地に、廊下でつながる10室の木造2階建て。各部屋の独立性が高く採光も十分、ゆとりある贅沢な配置はオーナーのこだわりが見える(写真撮影/片山貴博)
この「おでんせ中の島」を始めたオーナー兼、運営者・住人である藤井康雄さんに、まずは設立に至った経緯を伺った。
「産院を次世代へ引き継いで、何か社会貢献にでもなることができないかと考えていたところ、知人からグループリビングというものを紹介されて『やってみよう!』となった」と、藤井さん。
行きずり話と笑って話してくれたが、今まで独り暮らしでうつになったり不安になっている高齢者たちを見てきて、「断る理由もなかった」とグループリビングの事業運営に踏み切ったようだ。
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【画像4】脱サラ後、ご夫婦で産院を経営されていたが70歳ごろから「生涯現役でできる事を考え始めた」と。ご自身は劇団員としても活躍中の73歳!(写真撮影/片山貴博)
以前、SUUMOジャーナルでも紹介した「COCO湘南台」や知人が運営する「COCOせせらぎ」を参考にしながら、建築用の土地探しから始められた。
「1年ほど探して、この土地と出会いましたが古アパートがあったので簡単には進みませんでしたよ」
場所はJR南武線中の島駅から徒歩7分という住宅地。畑の向こうが線路なので開放的な場所だ。
「シニア向けの住まいで交通立地は大変重要。気軽に外出できるだけでなく、友人や家族が訪ねて来やすい場所でないとダメですからね」
どんな人がグループリビングに向いている?
現在入居は7室(全10室)73歳の藤井夫妻を中心に68〜83歳の男2女5人、計7人で共同生活を送っている。「入居審査ってものでもないですが。私がお会いして『人と仲良くできる方』かどうか等を見て判断するようにしています。迷っている方には、お誘いしません」
以前に取材したグループリビングでも、『自分で物事が決められる人』というのがポイントだと伺った。そこが“お世話”を期待する老人ホーム等の施設系と、“自立”した共同生活のグループリビングの違いである。
「おでんせ中の島」にお住まいの女性、小森さんにお話を伺うことができた。
マンションの3階で独り暮らしをされていたところ、お姉様が心配して紹介してくれたのがキッカケ。老人ホームやシェアハウスなどさまざまなシニア向け住宅を見た上で選んだと言うこと。
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【画像5】聡明なお話ぶりに、幼稚園の先生を65歳まで勤め上げられたと聞き納得!「藤井さんの人柄に引かれて決めました」と、小森さん(右)(写真撮影/片山貴博SUUMOジャーナル)
81歳とお年を伺って、筆者もビックリ仰天な小森さん。この心身の若さなら独り暮らしも問題なさそうだが……
「3階までの階段は大変でしたし、だんだんと交流も少なくなります。そんななか、ここに出合えて本当に良かった。費用もここは特別だと思いますよ」と。
「おでんせ中の島」の入居費用は100万円、確かに他グループリビングでも300万円以上なので破格の安さと言える。月額費用(家賃・食事・共益費含む)は14万円。
オーナーの藤井さんは「入居金はできるだけ抑えて、多くの方が入れるようにしたかった。月額は自分が払える程度にね」と屈託ないが、社会貢献と考えなければできない価格設定だ。
小森さんが選んだ理由に、もう一つ。「おでんせ中の島」は、ペット可が4室の独立したゾーンになっていて、7歳の愛猫ちゃんとの同居も可能なのだ。
【画像6】猫ちゃんもママとお引越しできて幸せ!。右のキャットタワーは藤井さんがつくってくれたもの(写真撮影/片山貴博)
「年を取ると……“できない”と、自分でも決めつけがち。挑戦してみると発見があるものなんですよ。負の発見も含めて、それが自分の新しい領域なんだと受け入れています」
ポジティブに生きる小森さんのお話を伺って、正しくグループリビング向きの方だと実感した。
建物のクオリティも、日常生活を豊かにする
「おでんせ中の島」で感動したのは、この費用でこのすてきな建物に住める!?
木をふんだんに使った内装に、漆喰塗りの壁、極めつけは断熱性も高い木製窓サッシ(複層ガラス)。施設では使えない木製サッシ、住宅でも高価なのでなかなか難しいもの。
(ちなみに筆者宅は樹脂サッシをメインに、寝室等一部だけ木製にこだわって入れたほど憧れていた)
設計した建築設計事務所の鈴木アトリエでは、オーナーの思いに応え
「小さな家が集まったような形態とし、手に触れるすべては自然の柔らかい素材を選びました」と。
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【画像7】皆が集まるダイニング&キッチンは、優しいコルクの床(写真撮影/片山貴博)
おでんせ中の島では夕食を皆で食べる。朝昼は部屋内のキッチンでつくったり、外食したりと自由。
調理スタッフは運営にもかかわり、都合がつけば食事も一緒にとる仲間。
オーナー藤井さんは、「共同生活で一番良いのは、毎日の食事を皆で食べられることじゃないですか」と。
小森さんも「私は料理をするのは好きなのですが、ひとり分毎日つくるのは大変ですし、こちらではとても考えられたメニューになっていて満足しています」
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【画像8】テーブル&チェアも木製でデザインの良いものが使われていた。さりげない花が日常を飾る(写真撮影/片山貴博)
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【画像9】食堂の縁側に広がる畑にはボランティアも来てくれて「その方が、蛍観賞に皆を誘ってくれた」(藤井さん)、地域との交流も生まれている(写真撮影/片山貴博)
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【画像10】「閉塞感のない建物にしたかった」(藤井さん)光が差し込む廊下、正面ガラスドアより先がペット可住戸ゾーン(写真撮影/片山貴博)
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【画像11】個室にも造り付けのキッチンや収納家具が木製で配置(現在空きのお部屋のため試泊が
可能とのこと)(写真撮影/片山貴博)
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【画像12】「おでんせ中の島」では、お風呂は共同ではなく個室に完備(写真撮影/片山貴博)
入浴時の事故が多い高齢者のために、共同浴場に複数で入るルールにしている所もあるが「やっぱり風呂は一人で入りたいでしょ」と藤井さん。
非常時などは、2住戸ペアで緊急対応する仕組みにして訓練を行っているそうだ。
皆が年を取ってゆく共同生活、今後の不安は?
取材当日は、お誕生日会が予定されていて「今月誕生日を迎える人を少しだけ、ケーキとお花でね」(藤井さん)お祝いするそうだ。
まだ開設1年足らずなので手探りでイベントを実施しながら、入居者同士、そして地域との交流も深めている様子。
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【画像13】句会は地域の人を交えて月一開催されている(写真提供/おでんせ中の島)
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【画像14】麻雀会は毎日のように!入居して麻雀を始めた方も熱心に楽しまれている(写真提供/おでんせ中の島)
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【画像15】入居者で箱根や山梨に旅行したり、アクティブ!(写真提供/おでんせ中の島)
現在運営は藤井さんを中心に行っているが、将来どのように運営を継承してゆくか。今後の課題のようである。
「要介護になった場合は、地域包括支援センターとも相談しながら対応を考えていく予定。全てが初めての経験だから、入居者やサポーターの人たちと相談しながらやっていくんでしょうな」と、気負いのない藤井さん。そんな人柄を慕って、皆さん集まってくるんだなぁと。
そろそろ老後を真剣に考える筆者に、焦らず人生ゆっくり楽しみな!と言われているような気がした。●取材協力
・おでんせ中の島(神奈川県川崎市多摩区)●参考
・シニア版シェアハウス?! グループリビングでの暮らしって?(SUUMOジャーナル)
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