「R65不動産」を運営する若者が見た、高齢者の住まい探しの現実

「R65不動産」を運営する若者が見た、高齢者の住まい探しの現実

高齢者の住まい探しを手伝う不動産会社「R65不動産」は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅ではなく、高齢者の「普通のお部屋探し」を専門に扱う会社だ。運営するのは、平成生まれの若者・山本遼さん。なぜ「高齢者専門」なのか。会社を立ち上げた経緯や背景、現在までの手応え、エピソードなどを聞いてきた。

高齢者が入居できる賃貸住宅はかなり少なく、内見ですらNGに

「会社の立ち上げは2015年5月ですが、今までに仲介したなかで最高齢のお客様は、85歳の方でした」とにこやかに話す山本さん。現在、15〜20社程度の不動産管理会社と提携し、高齢者に物件を紹介する会社を運営しているが、見た目は“イマドキの若者”だ。

高齢者が賃貸物件を借りようとすると、室内を見学する「内見」ですら断られることが多く、感覚的には10件に1件くらいしかOKしてもらえないという。

「表立って断ることはありませんが、審査後に理由をつけてお断りされることが多い。先日、不動産会社が物件情報を確認するデータベース[レインズ]で、東京都内の賃貸物件で『高齢者向け』となっている物件を調べたところ、数%程度しかありませんでした」という。

山本さんは、以前勤務していた不動産仲介会社でこうした「高齢者の部屋が借りにくい問題」に直面、自分で会社を立ち上げようと決意。会社準備時には「シルバーライフ不動産」などと、「高齢者」を前面に押し出した社名を考えていたが、やめたそう。

「高齢者というと、すぐに支援の対象になってしまう。でもひと口に65歳、75歳といっても元気な人もいたり、働いていたりと、本当にさまざま。年齢で区切るのではなく、年を重ねても自分らしく暮らしたい、生活したいという思いを応援したかったのです」という。【画像1】やわらかな物腰で話す山本さん。先日、後輩には「山本さん、おじいちゃんみたいな話し方になっていますよ」といわれたそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】やわらかな物腰で話す山本さん。先日、後輩には「山本さん、おじいちゃんみたいな話し方になっていますよ」といわれたそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

高齢者の家が借りにくい問題、どうすれば解決する?

そもそも、高齢者が家を借りる際にネックとなる事情には、どのようなものがあるのだろうか。

「いくつか要素はあります。まず基本的にはお金の心配です。そしてお金の心配がない場合でもやはり大きいのは、高齢により突然亡くなってしまうケースです。純粋に人が亡くなるということの畏怖、そしてひとり暮らしで亡くなると発見されるまでに時間がかかることのリスクです。事件性はないのですが、特別な清掃が必要になる場合もあるなどが敬遠される理由です。また、“今でも若い人が借りてくれるし”と、そもそも高齢者に家を貸すという選択肢についてあまり考えたことがないという大家さんもいます」

こういった大家さんに対しては、不安・リスクをとりのぞく提案をしたり、実際に高齢者の方が入居して得られた大家さんのコメントなどをお伝えしているという。

「仮に入居者さんが亡くなったあとの対処ですが、火災保険の特約などをうまく適用することで、特殊清掃やハウスクリーニングなどの大家さんの負担を軽減することもできます。また、まだ実績はありませんが今はITが進化しているので、室内の人の気配を感じる“モーションセンサー”を設置するなど、テクノロジーでカバーできることもあります。ただ、個人的にはテクノロジーよりも、定期的に会う機会があり結果的に見守りにつながるような、あたたかみのあるコミュニケーションのほうがいいと思うのですが」と話す。

また、実際に高齢者の方が入居した物件の大家さんと話をしたら、(1)長く入居してくれる、(2)生活のマナーがいい、(3)クレームが少ない・感謝されるといった、高齢入居者ならではの良さを聞くことができたという。これらを他の大家さんや不動産仲介・管理会社に伝えているという。

一方で、部屋を探している高齢者側にも、さまざまな事情があるという。

「高齢者で家探しをしている人は、立ち退きなどを別にすれば、切羽詰まっていないことも多いので、なかなか決断できなかったり、家選びで必要な妥協ができなかったり、手続きに時間がかかったりすることも多いです。また、若い人と違って一度に何件も見学できないので、探し始めから決定までにかなり時間を要することが多いです」と苦笑する。【画像2】高齢者歓迎という賃貸物件は少ないため、「そもそもの選択肢が少なく、入居後の満足度まで聞けないが現在の悩み」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】高齢者歓迎という賃貸物件は少ないため、「そもそもの選択肢が少なく、入居後の満足度まで聞けないが現在の悩み」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

パクリも大歓迎! 目標は「R65不動産」がなくなること?

朝6時30分に携帯電話が何度も鳴ったり、次のアポイントがあるのに玉ねぎをもらったりと、おじいちゃん、おばあちゃんたちとのエピソードはこと欠かない。

「起業後でいちばん印象に残っているのは、74歳の女性です。今まで住んでいたアパートの立ち退きが決まって、サバサバしているように見えたのですが、やっぱり部屋探しも苦戦して。ようやく部屋が決まったときには、涙ぐんでいました」と山本さん。再開発が進む東京ではこうした「立ち退き」で転居せざるを得ない高齢者も少なくなく、これまでに仲介した方の大半は建て替えなどの立ち退きが理由だったという。

「そもそも、自分が高齢になったときに賃貸が借りられる社会であってほしいという想いからこの事業をやっていて、社会の課題解決とかそういった気負いはないんです。それにそんな状態をつくれるのなら、自分のような高齢者専門の不動産会社が増えるなどのパクリだって大歓迎、“R65不動産”という会社がなくなるのが、最終的な目標なんですよ」

大家さんの中には、手すりをつけてくれる方などもいて、少しずつ、でも確実に理解者は増えている。しかし、高齢者の方のニーズ・好みも本来はさまざまなのですが、例えば築年数が浅め・デザインがおしゃれなどの選択肢はなく、まだまだ課題は多いもよう。

あわせて起業前に想像していたほど、自由な時間はなく、想定通りにいかないことも多いそう。会社をはじめて1年、次々とやりたいことがでてきてしまい、やりたいことの2割もできていないという。

「考え方で間違いなく影響を受けているのは、薬剤師だった祖母です。76歳まで薬局を運営し、病気が分かってからは自分で身辺整理をして、78歳で旅立ちました」。高齢者が単なる支援する側/される側ではなく、最後まで自分らしく暮らしたいという思いを、かなえるお手伝い。山本さんの挑戦はまだまだはじまったばかりだ。●取材協力

R65不動産
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