【人事の挑戦】 エイベックスが「“志”一括採用」で長期間の選考を行う理由
新しい採用の取り組みに乗り出す会社が増えている中で、音楽、映像、コンテンツの企画・販売からライヴ・デジタル領域まで幅広いエンタメビジネスを手掛けるエイベックス・グループは、2013年から「“志”一括採用」を始めています。キーワードは「長い選考期間」。
高校生が制服を着て面接に来る
・話し手プロフィール・・・ 大橋甫(おおはし・はじめ) エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社、総務人事本部人事部人事課—なぜ「“志”一括採用」という新しい採用の取り組みを始めたのか教えてください。
大橋:これまでの新卒一括採用は、応募を新卒に限り、集団面接と適性試験を行うようなオーソドックスなスタイルでした。しかし私たちはそれが本当に、エイベックスに合ったベストな採用方法なのか疑問に思い、新しい採用方法に切り替えようと模索しました。
当社はレコード会社から出発し、現在では音楽に加えて、映像、アニメまで扱っています。これは多角化しているエンタメに対応した結果です。会社が生き残り続けるには、労を惜しまず常に新しいビジネスモデルを考え続けないといけません。それにエンタメ業界は外から華やかに見えても、中は意外と地味で大変。アーティストのプロデュースというような仕事は一部で、実際は握手会の誘導係やアーティストの送迎なども大切な業務の一つです。
新しいビジネスのアイデアを考え続け、日々の裏方仕事を地道にこなせるのは、高い志を持ち、一歩ずつ前に進める人ではなかろうか。そう考えて、長い期間をかけて、しっかりと志の高さを見極める「“志”一括採用」を導入することにしました。
—どれくらい長い期間をかけるのでしょうか?
大橋:昨年(2016年度)までですと概ね半年以上かけて採用試験を行いました。一般に採用試験の期間は短期化していますので、世の中の流れに逆行しているようですが、今のところ人の志や芯の部分を見るには、じっくり時間をかけることが一番良いと考えています。「今のところ」としたのは、よりよい方法があれば取り入れて、採用方法を積極的に変えていこうと考えているからです。
—高い志を持つ人であれば、年齢を問わず採用するのですか?
大橋:「“志”一括採用」では門戸を広げ、29歳までの方であれば、どなたでも応募できるようにしました。2年前は高校3年生を採用した実績もあります。この時はかなり人を絞った段階で、初めて履歴書を書いてもらったので、応募者の正確な年齢がわからないまま選考を進めていました。そんな中で、この方は高校の制服を着てプレゼンに挑んでいたので、なんとなく年齢がわかりました(笑)。
採用+育成=4次選考は講義形式
—「“志”一括採用」のしくみを詳しく知りたいです。応募の条件は29歳までという年齢だけで、学歴、職務履歴、国籍などは問わないのですか?
大橋:はい、年齢を満たせば、学歴、職歴、国籍は不問です。過去に採用試験の応募経験がある方も大丈夫です。何度でも挑戦して欲しいと思っています。強いていうのであれば、ビジネスレベルの日本語能力がいるといったくらいです。
—何次選考まであるのですか? できましたら選考の内容も合わせて教えてください。
大橋:毎年同じではないので、過去の事例を参考までにお話することしかできませんが、2016年度の場合は5次選考までありました。1次はエイベックスの理念を、ワークを通してつかんでもらう選考。2次からは応募者1人が選考委員の前で行うプレゼン。4次はエンタメ業界とビジネス知識を学んでもらう講義でした。講義形式にしたのは、選考を成長の機会にしてもらいたいからです。仮に当社とご縁がなかったとしても身に付けたエンタメビジネスの知識は、他のエンタメ企業でもし働くことになったとしたら役立つものです。そうやって業界全体で人を育てて盛り上げないと明るい未来はやって来ません。
—募集は通年かけていますか?
大橋:いいえ、通年ではありません。ただでさえ長い選考期間を設けていますので、募集期間まで通年にしたら、私たち人事がパンクしてしまいますよ(笑)。通常のスキームで門戸を広げた採用とお考えください。
エンタメは人の半歩先を歩くビジネス
—選考では志をどのように測っているのですか?
大橋:一つには、どうしても入社したいと思う人は、選考の回を重ねても全力です。毎回きちんと準備をして、慢心せずに挑んできます。特にプレゼンの場合は、内容と資料に、手をかけた時間が如実に表れます。細部まできちんとするには、時間が要るものなのです。人の気持ちを相手にするビジネスをしている方ならば、物事を高効率にするだけでは、届かない世界があると知っているのではないでしょうか。
—志の熱さばかりが先行している人をどう思われますか?
大橋:そこはエンタメの難しいところです。私たちは「ユーザーより半歩先を歩かないといけない」ということを意識しています。この言葉には二つの意味が込められていて、一つは「今世の中にはない新しいことに挑戦する」の意。もう一つは「二歩も三歩も先だと、ユーザーに伝わらない」という戒めです。
自分の好きなものやこだわりを持つのは、エンタメの出発点です。しかし好き、こだわりが、人に伝わりやすい形でなければ、エンタメ、あるいはビジネスになりません。
こだわり過ぎもダメ、こだわらな過ぎもダメ。バランスがよいと普通過ぎてつまらない。もしかしたら、その全部を意識できることが大切なのかもしれませんね。
志は一朝一夕では身に付かない
—最後に若い方たちへのメッセージをお願いします。
大橋:選考で若い方を見ていると、プレゼンの見せ方が上手で、よく考えられているなと感心します。資料だってわかりやすく丁寧にまとめられていて隙がない。おそらくネットを駆使してリサーチをしているのでしょう。
勤勉な姿勢は素晴らしいことですが、ネット上の知識を武器にすることに加えて、自分が本当に好きなものは何か、よいと思うものは何かを、時間をかけて考え続け、そこから志を見出して欲しいと思います。
エンタメは感情を相手にするビジネスですから、何がよいものなのかの答えがありません。もちろん流行っている音楽やテレビ番組、映画やアニメを分析して、多くの人が好きな形式を探るマーケティングはできますし、現に私たちも様々なことを行なっていますが、新しく何かを始めようとしたら、まだ世の中にないもの、知られていないものを、自分の価値基準に従って探すよりないのです。
本当に好きなものを見つけることは一朝一夕ではできませんし、それ故に好きなものを発信したいという志を持つ人を、私たち人事が簡単に見つけることもできません。お互い時間がかかると思いますので、人事として、真摯にじっくり若い人たちと向かい合っていきたいです。
文:本山光
編集:大山勇一(アーク・コミュニケーションズ)
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