アスペルガーより悩みが深い!?症状はあるのに認定されない“隠れアスペ”とは?

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昨年、「世界一のデータアナリストになったアスペルガーの会社員」の記事が掲載され、大変な反響を得た。彼は社会に出て自分が電話番すらできないことに悩み続けた。苦手な仕事を続けたため、うつ状態にもなった。その後、相談に行った医者からアスペルガー症候群の診断が下され、障がい者採用で得意とするデータアナリストの職を得た。

彼の場合は、相談に行った産業医から「アスペルガー症候群」ではないかと指摘され、最終的に専門医からも認められた。しかし世の中には、「アスペルガー症候群」という診断は下されなくとも、ある程度の症状があらわれる「隠れアスペルガー」が数多く存在する。いわゆる「グレーゾーン」の人々だ。「アスペルガー症候群」だと認定された人と同様に、「働きづらさ」に悩み、退職に追い込まれる人も多いとか。そんな人たちは、どうやって自分に適した職場環境や仕事を見つければいいのか。発達障がいカウンセラーの吉濱ツトムさんに、「隠れアスペルガー」の適職の見つけ方を聞いた。

東大卒のエリートビジネスパーソンが引きこもりに

現在、発達障がいカウンセラーとして活躍する吉濱ツトムさんは、幼少のころからアスペルガーで苦しんできた。当時は今より研究が進んでいなかったため、自ら様々なアスペルガー改善法を調べ、何年もかかって症状を改善していった。その経験を体系化し、アスペルガーをはじめとした発達障がいで悩む人に個人指導をするカウンセラーになったという。症状の改善、適職アドバイスなど、これまでに指導した人は、700人以上。その8割がアスペルガーだ。

「僕が指導してきた発達障がいの人のほとんどは、ごく普通の会社員です。なかには高学歴のエリートビジネスパーソンもたくさんいます」(吉濱氏)

恵まれた人生を歩んでいるように見える彼らが吉濱氏のもとを訪ねるのは、日々の生活の中でとても大きな「働きづらさ」を感じているからだ。特に深刻なのが、グレーゾーンと言われる「隠れアスペルガー」の人だと吉濱氏は言う。最近は大人の発達障がいに対する情報が増えてきたため、「もしかしたら自分もアスペルガーかも?」と、精神科に診断を求める人も多くなった。しかし、精神科の門をたたいても、症状が全体的に軽かったり、症状に偏りがあるなどの理由から、「アスペルガー症候群」だという診断はなかなか下されない。そのため、どうしたらいいかわからず、悩みがますます深くなるのだという。

吉濱氏の経験からすると、こういった隠れアスペは、アスペルガー全体の7割を占めるそうだ。なかには学生時代までは優秀だったが、社会に出て職場環境になじめず、働くことを辞めてしまう人も数多くいるとか。

たとえばこんなケース。東大卒のエリートビジネスパーソンから引きこもりになったAさん。学生時代は物理を専攻し、成績は常にトップクラス。しかし、物理の研究では食べていけないと、卒業後は大手広告代理店に入社した。もともとまじめで勤勉な性格のAさんは、入社後も成果を上げようと人一倍頑張ったそうだ。しかし、なぜか頑張れば頑張るほどうまくいかない。成績がぐんぐん上がった学生時代では考えられなかったことだ。

Aさんが一番苦手としたのは、“雑談”だ。営業の仕事はたわいのない話からクライアントとの関係を作っていくことが多い。顧客のもとに行っても、何を話していいのかわからず、途方に暮れたという。

次に難しかったのが、“2つの仕事を同時にする”こと。事務作業をしながら電話に出る、上司の話を聞きながらメモを取る、作業中の仕事の手をいったん止めて急ぎの仕事をするなど、同時に何かをすることは、大の苦手。急に入ってきた大事な案件の資料を同僚たちが忙しく作っているときに、Aさん一人だけ名刺作成に没頭していた、なんてこともあったとか。

また、上司からの“あいまいな指示”も理解できなかった。「ざっくり資料作っておいて」と上司から言われると、意味がわからず固まってしまうことも多かったとか。入社2年目になってもこの症状は変わらず、次第に周囲から疎まれる存在に。同僚からの嫌がらせもあり、やがて、Aさんには抑うつ症状が現れる。4年目にはほとんど出勤できないほどのうつ状態に陥り、6年目についに退職。外に出るのが怖くなり、家に引きこもるようになってしまったという。

適職を見つけるのは、まずは“体づくり”から

精神科を受診したAさんだったが、「あなたはアスペルガーではありません」と医師から言われてしまったそうだ。症状はあるのに認定されない、“隠れアスペルガー”だ。Aさんは苦しんだ挙句、吉濱氏のもとにたどり着いたという。

カウンセリングを受けてから、Aさんは吉濱氏の指導に基づいた生活を3年間続けた。現在は症状が克服され、吉濱氏のアドバイスとおり、塾講師の仕事に就き、とても生き生きと働いているそうだ。「自己完結型」で「仕事相手(生徒)が自分より下」である塾講師の仕事は、Aさんの性分に向いていたのだ。

では、どうやったら隠れアスペルガーの人が、働く自信を取り戻し、「自分の適職」を見つけることができるのか。

吉濱氏は、まず大事なのは「徹底した体づくり」だと語る。「アスペルガーの人は、うつや適応障害、パニック障害など精神疾患を併発しやすいんです。適応障害によるストレスももちろん大きいのですが、それはほとんどが代謝異常からきています。まずは、低炭水化物、高たんぱくの食事をすること。分子整合栄養医学に基づいた必要なサプリメントを飲むこと。そして質のいい睡眠を得るために、起床時間を一定にするといった規則正しい生活をすることが大事です」

弱いセロトニンシステムを強化するために、朝起きたら2500ルクス以上の光を見ることも効果的だという。朝日を浴びるのがベストだが、難しい場合は、市販されているブライトライトなどの照明機器でもいいそうだ。

「初めて取り組んだのに、なんだか妙にうまいこと」を探す

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そうやって、正常に代謝できる体を取り戻したら、次は才能探しだ。吉濱氏いわく、才能には、次の4つの特徴があるという。

<才能の特徴>

1.初めて取り組んだのに、なんだか妙にうまいこと

2.吸収が早いこと

3.習得したことを、高速で高水準まで伸ばすことができる

4.習得したことを行なう様が円滑で美しい

「過去を振り返ってみて、この4つに当てはまることを探してください。誤解しないでほしいのは、それが必ずしも楽しいものではない、ということです。才能があることなら、我を忘れて取り組んでしまうはず、と多くの人が思っていますが、それは誤解です。最初のうちは才能があることをやっていても楽しくありません。“楽しいわけではないが、なぜだかうまくできる”。そんなものを見つけてください」

向いていることと楽しいことは違う、というのが吉濱氏の持論だ。確かに、文章を書くのがうまい人に楽しいかと聞くと、むしろ苦しいという。逆に楽しいという人ほど、文章が下手だったりする。やっていて楽しいかどうかは別として、「なぜだか妙にうまくできる」ことを探し出すことが才能を見つけるポイントだ。

才能が見つかったら、無償でもいいので実行する

才能が見つかったら、次はそれをどうやって仕事にするか。吉濱氏は「小分けにしてさっさと実行する」ことを勧めているという。「最初はお金をもらわなくてもいい。ボランティアでもなんでもいいので、とりあえずやってみることです。例えばマッサージの才能があるとしたら、無料で友人や同僚にやってあげる。間違ってもいきなり会社を辞めて開業なんてしちゃだめですよ。最初はリスクの少ない形から始めます」

次に必要なのが「環境圧力」だ。「みんなに宣伝するとか、土日だけアルバイトで仕事をするとか、“やらなくてはならない状況”を作ります。そのときに注意してほしいのは、アスペルガーが苦手とする環境でやらないこと。例えば、少人数の密接な職場などは、窮屈に感じる人が多い。それならばいっそたくさんの人がいて、干渉されない職場の方が働きやすいと思います。そんな風に自分が居心地よく働ける環境を選ぶことが大事です」

<アスペルガー症候群の人が苦手意識を持たない職場環境>

1.「自己完結型」の仕事ができる

2.「突発的な変更」がない

3.「同時並行しない」仕事

4.「社内政治」がない

5.「雑談」を必要としない

自分に「環境圧力」をかけると同時にやってほしいこと。それは「快楽学習」だ。「1つ終わるごとに、自分をベタ褒めする、好きな物を買うなど、自分に“快楽”を与えます。これを快楽学習というのですが、脳はやり終えてすぐに「快楽」を味わうと、楽しいことだと認識します。それを利用して、やる楽しさを脳に記憶させるんです

やり終えたらご褒美を与える。その繰り返しで、いつの間にかスキルが磨かれていくという。「自信と実績がついたら、土日のアルバイトをやめて、契約社員や正社員として組織で働いたらいいと思います。そこで更なる実績を積むことができたら、独立開業することをお勧めします」

ボランティア、土日のアルバイト、社員、独立開業と段階を踏んでいく理由には、アスペルガー独自の自尊心の低さがある。「当たり前のことが当たり前にできないため、アスペルガーは自分に自信がない人が多いんです。ですからリスクを伴ったキャリアパスは向きません。少しずつでいいから得意なことをして、みんなから褒められることで、自尊心を回復する。その後に徐々にステップアップしていくといいでしょう」

リスクのない環境の中、無理のない形で、自分にご褒美を与えながらステップアップしていく。これは、アスペルガー以外の多くの人にも通じる方法ではないだろうか。現在、職場や仕事が合わず苦しんでいる人、自分の力を最大限生かせる仕事を見つけたい人は、ぜひ、実践してみてほしい。

取材・文/牛島モカ

吉濱ツトム●発達障がいカウンセラー。幼少のころから自閉症、アスペルガーとして苦しい人生を歩む。発達障がいの知識の習得に取り組み、あらゆるアスペルガー改善法を研究。数年後、「典型的な症状」が半減し、26歳で社会復帰。同じ障がいで悩む人たちが口コミで相談に訪れるようになり、以後、自らの体験をもとに知識と方法を体系化し、カウンセラーへ。個人セッションに加え、教育、医療、企業、NPO、公的機関からの相談を受けている。

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参考図書

「隠れアスペルガーという才能」(吉濱ツトム著、ベスト新書)

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