ポップ・ミュージックへの“夢”が溢れたロマンチックな作品 ローラ・マヴーラ『ザ・ドリーミング・ルーム』(Album Review)
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現代社会の荒野に舞い降りる天使。英バーミンガム出身のシンガーソングライター、ローラ・マヴーラの2作目となるフル・アルバム『ザ・ドリーミング・ルーム』では、そんな情景が浮かび上がってくる。BBC【Sound of 2013】にノミネートされ、『シング・トゥ・ザ・ムーン』を発表したのが2013年3月だから、約3年ぶりのアルバムということになる。
西インド諸島セントクリストファー・ネイビス出身の母と、ジャマイカ出身の父の間に生まれたローラ・マヴーラは、バーミンガム私立大学で作曲を学んだ。また、長らくクワイアにも所属し、非凡な歌唱力を身につけている。バンド活動などを経験した後にソロ・アーティストとして2012年にデビューしたが、その豊かな音楽性と表現力は瞬く間に脚光を浴びた。
新作『ザ・ドリーミング・ルーム』は、そんなふうに人々の注目を集めた彼女が、あらためて、ポップ・ミュージックの世界で生きることの決意と希望を綴った作品である。ナイル・ロジャースというポップの先達がファンキーなギター・プレイで彼女の意気込みを後押しする先行シングル「Overcome」の力強い響きがあり、3曲目の「Bread」では果てしない道のりの途上で《パンくずを撒いていって。そうすれば進むべき道が分かるから》と、心を洗われるような厳粛なコーラスと共に歌う。
エレクトロニック・ミュージックとクラシカルなサウンドを融合させるローラ・マヴーラの作風は、今作のシリアスなテーマと相まってぐっと深みを増した。「Show Me Love」は祈りのようにコーラスがリフレインする6分強のナンバーで、アルバムの重心を担うように大きな存在感を示している。前作『The Dreaming Room』は、のちにオーケストラで全編をリアレンジした『Laura Mvula with Metropole Orkest』がリリースされたが、「Show Me Love」はたった一曲でその荘厳さに匹敵してしまうほどだ。
厳格な家庭に育ち、クラシック音楽を学んできた彼女にとって、すべてが不確かなポップ・ミュージックの世界に飛び込むことは、想像も及ばないほどの大きな希望と不安を同時に抱かせたはずだ。キリスト教やヨーロッパ音楽の知恵が、そして自由な冒険心とソウル/ポップ・ミュージックのエネルギーが注ぎ込まれた彼女の表現は、不確かな世界を生きるための新しい音楽へと昇華されてゆく。
そこで、今回のアルバム・タイトル『ザ・ドリーミング・ルーム』へと立ち返ってみる。この作品は、今の彼女に見えている景色や心象を綴ったものでありながら、同時にポップ・ミュージックの冒険へと踏み出すよりも以前の、少女ローラ・マヴーラが抱いていた夢想の世界でもある。とてもロマンチックな作品だ。(小池宏和)
◎リリース情報
『The Dreaming Room』
2016/06/22 RELEASE
SICP-4790 2,376円(tax in.)
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