宇宙人にも教えてあげたい! 青森・八戸で花が咲き乱れるファンタジックな海岸と絶品海鮮を食べる旅
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青森県南東部に位置する八戸市。そこには宇宙人にも教えてあげたいような、不思議に美しい海岸があると言う。暑い東京から約3時間、新幹線で八戸へ向かった。
潮風に吹かれて、みちのくの海岸を歩く
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JR八戸駅から車で20分ほど走ると、三陸復興国立公園の玄関口、蕪島(かぶしま)神社に到着。古くからウミネコの繁殖地として有名で、毎年3月~8月に、約3万匹のウミネコが飛来する。
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蕪島はもともと孤島だったが、太平洋戦争中に埋め立てられて陸とつながり、人間の間近にウミネコが飛来する非常に珍しい場所となった。国の天然記念物に指定されている。
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ウミネコは漁場を知らせる神様の使い。親鳥はカモメに似ているが、体格は一回り小さい。
ウミネコの名の通り「ニャァニャァ」「グァガガガガガガ~!」と大音量で鳴き、かなりうるさい。人間には関心がないらしく、むしろ邪魔くさそう。
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ウミネコの幼鳥。親とほとんど変わらない体格だが、地味な色で鳴き声が「ピィー、ピィー」と可愛い。好奇心旺盛で人間にも興味津々。
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今は幼鳥たちが飛ぶ練習をしている最中。8月上旬には全てのウミネコたちが南方に帰っていく。
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ネイチャーガイドの田向さん曰く、「今年は縄張り争いが激しい」そう。幼鳥の中にも頭にケガをしていたり、足が1本なかったりするのも見られた。
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震災時、神社の階段の14段目くらいまで津波がきたものの、難を逃れた蕪島神社。しかし2015年の11月に火災に遭い全焼。
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現在は御神像の市杵島姫命(弁財天)様がウミネコたちの間にポツンと佇んでいる。なんとも不思議な光景。
ウミネコは一度繁殖地を決めると変えないらしく、震災後も、火災後も変わらずに飛来する。社はウミネコが去った8月末以降から再建される予定だ。
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空気を読んだウミネコから、田向さんにウンが……。
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ウミネコのフンがつくと『開運証明書』をもらえる。
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仮の社務所は島の下に設置されていて、蕪島のカブ(もともとは菜種の意味)にかけた「かぶあがりひょうたんお守り」もオススメ。
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蕪島神社は八戸から福島県相馬市までの三陸海岸約700kmをつなぐ『みちのく潮風トレイル』の北端でもある。ここからさらに海岸沿いを移動してみよう。
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ウミネコウォッチングから種差海岸に向かう途中、立ち寄りたいのが『小舟渡食堂』。
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磯の岩の上にある、海抜0mの珍しい食堂。
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ここも震災時には2階の窓ガラスまで津波が来たそうだ。(写真は1階部分)。
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名物は『磯ラーメン』。塩ベースで、ワカメなどの海藻と、ウニや貝などの旨味が贅沢。
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麺は細めの縮れ麺。シンプルで優しい味が嬉しい。煮干しでだしを取る醤油系の『八戸らーめん』とはまた違うので、食べ比べるのも面白いかも。
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小舟渡食堂の裏は『みちのく潮風トレイル』の一部。
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ちょっと急な斜面があるが、頑張って登れば絶景に出会える。
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下に見える人たちが小さい!
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食堂を後に海岸沿いを10分ほど進むと、葦毛崎(あしげざき)展望台。
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中世の砦のような展望台はとってもファンタジック。
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普通の磯とも浜辺とも違う風景は、RPGのフィールドを現実に持ってきたかのような趣もある。ここから種差海岸の遊歩道がスタート。
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種差海岸は、東北特有の冷涼な風『やませ』のおかげで、海浜植物から高山植物まで、多様な植生が見られる珍しい場所。この日も半袖では肌寒いくらいだった。
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種差海岸は別名、『花の渚』とも呼ばれる。
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中でも特に花が多いのが中須賀エリア。
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スカシユリは、何故かこの海岸では茎がとても短くなるそう。
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可愛らしい紫色の花はツリガネニンジン。
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高山植物のニッコウキスゲ、
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ハクサンフウロの変種『エゾフウロ』も。
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種差海岸の見所は、植生だけでなく地質にもある。その多様さが認められ、日本ジオパークに指定された。白い鳴き砂のある海水浴場『大須賀海岸』、
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奇岩が見える松林の『淀の松原』、
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もともとは馬の放牧が行われていた、青々とした芝生が美しい『種差天然芝生地』。芝生にはもぐらの出てきた穴が空き、ウミネコもチラホラいる。
花畑に松林、砂浜に芝生と、1~2時間ほどの散策で楽しめ、歩いていて飽きない。
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司馬遼太郎は”どこかの天体から人が来て、地球の美しさをおしえてやらなければならないはめになったとき、一番にこの種差海岸に案内してやろうとおもったりした“と記している。種差海岸の絶景を、東山魁夷、草野心平など、多くの文化人が愛でた。
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種差海岸で立ち寄りたいのが、海水浴場の南にある白浜漁港のお店、『白浜女房』。明るくて美人の奥さんが、夏の間だけ、その日に獲れた海の幸を提供している。
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今はウニのシーズンが始まったばかり。筆者はウニが苦手だったが、このバフンウニの濃厚な甘さには感動。少し大きめのムラサキウニはクリーミでマイルドな味わい。生はもちろん、焼きウニも絶品。
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この日は更にタコしゃぶやホヤも。タコは切断されてもウネウネして元気いっぱい!
筆者はホヤを初めて食べたが、なんていうか…磯の味だった!思ったより食べやすかった。
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それでも「震災後、やっぱり海が変わったんですよ。今日はサバもタコも、ウニも取れたけど、不漁が多いんです。最近は網にマグロがかかったりして、こんなことは初めて。」海の中でどんな変化が起きたのか見えないだけに、漁業に携わる人達の不安も大きい。
美味しい海鮮とお酒を楽しむ!八戸のグルメスポット
八戸の美味しいものはなんといっても海鮮。特にイカやサバ、ウニは鮮度抜群で、どう食べても美味しい!が、八戸を訪れたら足を運んでみたいグルメスポットを紹介しよう。
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八戸グルメで注目なのが、『八戸銀サバづけ丼』。脂の載った新鮮なサバを特製ダレと合わせた一品。2016年にどんぶり選手権でグランプリを受賞した話題の丼だ。
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サバが苦手な人は、『八戸ばくだん丼』をぜひ。ニンニクが効いた独特のタレと、さいの目に切ったイカが美味しい!
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サバの串焼きも脂がのって、とてもジューシー。
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伝統的な郷土料理なら、『せんべい汁』。お汁に専用の南部せんべいを入れて7分茹でると、アルデンテに仕上がるそう。せんべいが入れば基本的に何でもせんべい汁だが、メジャーなのは醤油ベースで鶏肉が入ったもの。
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茹で上がったせんべいは程よくコシがあり、よく汁を吸って美味しい。南部せんべいの原料は小麦なので、確かにパスタかも。筆者は個人的に一番これが好きで、鍋のシーズンにぜひやってみよう!と思った。
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朝早く起きたらぜひ出かけたいのが朝市。JR陸奥湊駅前では『イサバのカッチャ(市場のお母さん)』達が開く市場で刺し身などを買い、ご飯や味噌汁と合わせてオリジナル定食が作れる。
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筆者は魚卵系が大好きなので、スジコとタラコと蒸しウニ、ヒラメの刺し身でこんな風に作ってみた。
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スジコとタラコも300円、蒸しウニも300円、ヒラメの刺身は210円くらい。ご飯は普通もりで100円。このボリュームで格安の海鮮丼が作れるのは感激!
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お酒を楽しむなら『みろく横丁』。26件もの屋台村が集まった飲み屋街で、和気あいあいとお酒が楽しめる。
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居酒屋風、バル風、小料理屋風といろいろなのれんがあり、はしごするのもまた一興。ここでデビューし、人気店となって巣立つお店も多いとか。
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筆者もここで飲み、さんざんおしゃべりを楽しんだ。
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更にディープな八戸を堪能したいなら『プリンス』へ。開店から60年という老舗のバーで、有名人のサイン色紙がぎっしりの、昭和レトロなお店だ。
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ダンディなマスターに出していただいたカクテルは『蕪島』。ウミネコ、鳥居をイメージ。お代は火災にあった蕪島神社に一部寄付され、オーダーした人は色紙に名前を書くシステムになっている。二軒目以降のハシゴに、ぜひ立ち寄りたいお店だ。
昔は行商、今ものこる銭湯……八戸の日常と文化を覗いて
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陸奥湊駅の観光案内所の前をウロウロしていたら、おばさんに声をかけてもらった。なんでも息子さん一家が横浜に住んでいるという。筆者は横浜在住なので、横浜ネタで盛り上がっていたら「中でコーヒーでも飲んでけ」。
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コーヒーにミルクを入れていると、おじさんが「これ(マドラー)でかませ」。「かます」は青森弁で「かき回す」の意味。「言ってることわがんねぇだろ?」というおじさんの顔はちょっと自慢げだ。
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内気で、取材のカメラを向けると恥ずかしそうに遠慮される人もあったが、お話を伺うと素朴で温かな人柄がよく伝わってきた。
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車がない時代、漁で獲れた海産物をかごに入れて売り歩くのはお母さんの仕事だった。現在は行商するお母さんの姿は見られないが、市場には『イサバのカッチャ』の息吹が感じられる(写真は復元されたカッチャの様子)。
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漁中心の生活の名残は、銭湯文化にも残っている。八戸の銭湯は全国でも珍しい早朝営業。それも漁師さんが仕事の後にお風呂に入れるように、という理由らしい。人口あたりの公衆浴場の数が日本でもトップクラスの青森県。家のお風呂に入らず、銭湯に入るのが大好きだという。
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お風呂セットを車に積んで、仕事の前にひとっ風呂、仕事の後にひとっ風呂。長風呂は当たり前で、常連さん同士、5分でも遅刻すると「どうしたんだべ?」と言われてしまうとか。銭湯文化も地域のコミュニティも廃れつつある今、貴重なライフスタイルだ。
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銭湯の双葉湯。禁断の男湯を覗かせて頂いた。
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銭湯と聞いてイメージするのとは少し違うが、快適そうだ。冬場などは特に、家でお風呂を沸かすより車で銭湯に来る方が効率もいいんだろうなあ。
八戸の玄関、『はっち』で歴史と文化に触れる
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八戸市街の中心部にあるポータルミュージアム『はっち』。八角形をした吹き抜けの中庭を中心に、八戸の歴史や文化、産業ががわかりやすく展示されている。
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とぼけた表情が可愛い『八幡馬』。八戸が馬産地だったことに由来し、嫁入りの儀式に使われた馬を表現している。
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赤と黒の漆塗と、木目の3タイプが展示されている。ちなみに、うち2体はお腹に赤ちゃんがいるので探してみよう。
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8月頭に行われる『八戸三社祭』は、山車を連ねた八戸最大の祭り。『はっち』では、時間になると祭りの獅子舞のカラクリが、カン!カン!と歯鳴らしを披露する。
取材中もお祭りの準備か、太鼓や笛の練習の音が聞こえた。
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また、春先に豊作を祈って行われる『えんぶり』は、華やかな烏帽子をかぶった舞手の踊りが見所。北国に春の訪れを告げる歴史ある祭りだ。
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青森県の国宝は3つあるが、その全てが八戸市に所蔵されているのにも注目したい。『合掌土偶』は膝を立てて座り、手のひらを合わせた祈りのポーズが特徴的。土偶は女性で、座ってお産をしているとも言われる。
また、菊一文字の鎧としても有名な『赤糸威鎧』と、南北朝時代の『白糸威褄取鎧』も八戸市の櫛引八幡宮に所蔵されている。いずれも繊細な装飾を施された豪華な甲冑で、歴史ファン垂涎のお宝だ。
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八戸の主要産業といえば漁業。そして八戸といえば、イカ。2Fにあるイカランプ100体の中に2体表情が違うのが隠れている。
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今では船団を率いてのイカ釣りや底引き網が行われているが、かつてはこの『カッコ船』が漁に使われていた。
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現在の八戸港は漁業だけでなく、工業港・国際貿易港としても栄えている。
港に行くと目につく大きな滑り台のようなものの正体は、露天掘りの石灰石を採掘してダイレクトに港へ運ぶベルトコンベア。石灰石以外にも工業用のクリスタルの製造や、製紙業も盛んだ。
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はっちではカフェやショップの利用や、ワークショップやイベントの開催も行われている。明るく開放的なオープンスペースでは市民の人びとが憩っている姿も見られた。
おつまみ天国!八戸みやげで買いたいのはコレだ
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八戸は海産物が中心ということもあり、おみやげも海の幸やおつまみ系が豊富。買い物でぜひ訪れたいのが、『八食センター』。
JR八戸駅から車で10分ほどのところにあるショッピングセンターで、鮮魚に乾物、お菓子やお酒など豊富なラインナップが揃う。
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筆者のオススメは『ホタルイカのいしり干し』。魚醤につけたホタルイカを干したもの。コクのある味わいはおつまみにぴったり。柔らかいので、ハードタイプのおつまみが苦手な人にも食べやすい。
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『七厘村』では、買った海鮮を炭火焼きして食べることも出来る。カキやホタテ、イカなど、焼いて食べるのはまた格別。焼き過ぎると貝殻がバーン!!と爆発するので注意。
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JR八戸駅の隣りにある『ユートリー』も、おみやげの買い物に便利。特に地元民オススメなのが『なかよし』。チーズとイカのおつまみで、迷ったらコレ!と言える一品とのこと。
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八戸の地酒が目当てなら、『男山酒造』へ。創業241年目を迎えた老舗酒造で、レンガ造りの蔵は大正時代のもの。
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現在も蔵そのものを冷やして酒を貯蔵する昔ながらの製法で酒造りを行っている。
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蔵の一部はイベントスペースとしても使用され、利酒大会やアートイベントなども開催。
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筆者も利酒にチャレンジしたところ、見事全問正解!淡麗からピリッとした超辛口まで、後味にインパクトがあるお酒が多かった。
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人気銘柄の『陸奥八仙』『陸奥男山』シリーズのほか、女性に人気のスパークリング日本酒なども開発中だそう。
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筆者はスパークリングをおみやげにした。
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小物や雑貨が目当てなら、『はっち』のミュージアムショップへ。合掌土偶デザインの手ぬぐいや、八幡馬のポストカードなども購入できる。ほかにも可愛い小物もたくさんあるので是非チェックして欲しい。
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青森県の観光地といえば、白神山地、奥入瀬渓流、八甲田山、弘前公園などがあるが、その影に隠れて知名度が低い種差海岸。筆者も今回の旅まで全く知らなかったが、海辺にたくさんの花が咲く海岸にはまた行きたい!と思った。特に夏は涼しく、観光案内所のおばさんいわく「セミも鳴かない」そうなので、静かで涼しい夏を楽しむにはぴったりかも。
今回紹介した紹介した全てのスポットは、だいたい車で30分圏内に収まる。一番遠いJR八戸駅~種差海岸天然芝生地までも車で40分程度で、移動しやすいのもいい。蕪島神社や種差海岸行きのワンコインバスや、朝市や銭湯が楽しめる循環バスも利用できる。海岸線を走るJR八戸線を利用しての移動も旅気分が味わえるはず。青森方面へのおでかけの際に、ぜひ立ち寄って欲しい場所だ。
(写真は全て筆者撮影)
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