突撃!隣の絶版名車 89年式トヨタ セリカGT-FOURの巻
▲例えばST165ことトヨタ セリカの初代GT-FOUR。そのたたずまいは今見ると逆にかなりシブいですが、見るだけでなく「実際に買う」となるとどうなのか? そのあたりを具体的に探ってみます
絶版名車ってステキだけど、本当に維持できるわけ?
「モアパワー、モアゴージャス、そしてモア電子制御!」的なかけ声のもと、より新しい、より超絶パフォーマンスなモデルを求める心理を否定するつもりはない。しかし、同時に「狭いニッポン、そんなに性能求めてどこへ行く?」という思いも確実にある。
それゆえ今、個人的に本当に欲しいのは電子仕掛けの超高性能車ではなく、車がもっとこうアナログでザラついていた時代の、小ぶりでステキな、何らかの好ましい伝説が付帯しているモデル……つまりは「絶版名車」だ。
しかしはたから見ているだけならさておき、実際買うとなると、かなり大きな問題が目の前に立ちはだかることも忘れてはならない。
「買うのはいいけど、それって本当に維持できるわけ?」という問題だ。
俗に言う絶版名車に明確な定義はないが、ざっくり言って「20年落ち以上」である場合がほとんどだろう。そうなると、
・ボディとかサビまくってるんじゃない?
・ていうかそもそも普通に走れるの?
・しょっちゅう故障するんじゃない?
・故障するのはいいとしても、それを直すための部品ってまだあるの?
等々の疑問点は当然ながら浮かんでくる。そしてそのあたりの真実を、実際の販売車両を取材することで明らかにしたいというのが、中古車ジャーナリストであると同時に「いち旧車好き」でもある筆者の願いだ。どちらかといえば後者、つまり「単に自分が欲しいから調べてみたい!」という理由の方が強いかもしれない。
▲一例だが写真上は70年代のホンダ ステップバン。こんな絶版名車を今、キレイに仕上げて乗ればかなりカッコいい気もするが、パーツの供給状況やボディのサビ具合などはかなり気になるところ
対面した89年式GT-FOUR。機関部分はOKっぽいが、内外装は?
ということで、今回調査してみたのがST165。85年から89年まで販売された4代目トヨタ セリカをベースに作られたフルタイム4WDターボ「セリカGT-FOUR」だ。
通常モデルに遅れること1年、86年に登場したST165型セリカGT-FOURは、TTE(トヨタ・チーム・ヨーロッパ)を通じて88年からWRC(世界ラリー選手権)に参戦。そして90年には当時のエースドライバー、カルロス・サインツの手により日本車としては初のWRCドライバーズタイトルを獲得。また87年公開の邦画「私をスキーに連れてって」に登場したことで一大ブームになった車でもある。絶版名車としての伝説には事欠かない1台だ。
▲T160型こと4代目セリカのフルタイム4WDターボ版であるST165、トヨタ セリカGT-FOURは86年デビュー。88年からはグループA規定のラリーカーがWRC(世界ラリー選手権)に参戦し、90年にはドライバーズタイトルを獲得した
だが、そんなST165も今やきわめて流通量が少なくなっている。そんな中、埼玉県桶川市の「Car town(カータウン)」に走行7.8万kmの89年式セリカGT-FOURを発見。桶川市までトコトコと見に行ってみた。
なるほど……。今のこの気分は、例えて言えば湘南かどこかでの「おしゃれな古民家暮らし」に憧れた若者が、実際の古民家物件を見に行ったはいいが、年季の入った壁や雨漏りの可能性もある古い屋根といったリアリズムに圧倒され、当初抱いていた「古民家でおしゃれに暮らしたい!」的な甘っちょろい考えが揺らいできた感じ……と言えばいいだろうか。
いや、それはちょっと言い過ぎかもしれない。実際のこの89年式セリカ GT-FOURは、決してそこまでではない。古民家で例えると「そのままの状態で暮らすことも十分可能なレベル」だろうか。
しかし、ボディ両サイドに新車時から誇らしげに貼られている「CELICA GT-FOUR」というデカールはけっこうなレベルで剥がれ落ち、ルーフ後端の一部にはサビが浮き、運転席側の純正スポーツシートにはいくつかの穴ぼこが空いている。少々運転させてもらった限りではエンジンや足回りに大きな問題はないというか、むしろかなり快調に感じられたが、内外装のヤレは確実に進行している。これは総合的にどう判断するべきなのか……。
▲対面した89年式セリカGT-FOUR。車全体としてのたたずまいというかオーラはなかなかのものとお見受けしたが、さすがに年式なりの塗装の劣化などは各部に散見される状態
▲ステアリングホイールのみナルディ製に交換されているが、基本的にはノーマル状態をキープしている運転席まわり。だがもちろん、年式なりの使用感はそれなりに濃厚だ
▲助手席側はかなりキレイだが、運転席側には穴が空いているフロントシート。せっかくの純正スポーツシートなので、変な社外品ではなくシートカバーをかけてこのまま使うのが得策か?
感覚的には英国旧車の維持とほぼ同じか
「まあすべてのお客様にお売りしたいと思って仕入れた物件ではないですからね(笑)」
そう笑うのはこの車両の販売店、Car townの酒井社長だ。
「他に足となる車をお持ちじゃない人がこのGT-FOURを買いたいとおっしゃっても、『どうかおやめください!』と逆にお願いしています(笑)。あと『故障して遅刻する恐れがあるので、通勤に使うのもマズいです』ともお伝えしますね」
あくまでも「趣味の対象」ということか?
「まさにそのとおりです。少し車を動かしていただいておわかりになったかと思いますが、現時点で機械的な問題は特にありません。しかし何せ30年近く前の車ですから、乗っているうちに要交換となる部品は必ず出てきますし、その部品自体がもうかなり欠品しています。そのため、修理するとなるとリビルト部品を全国規模で探したり、もしくは他モデル用のパーツを加工したうえで流用するなどの必要があるんですね。そうなると当然……」
時間もお金もある程度かかる、と。
「おっしゃるとおりです。英国の古い車を楽しむ人と同じで、たった一つの小さな部品が到着するまで何ヵ月もガレージで待機する……という局面もあり得ます。またご覧になったルーフ後端のサビについても、直すとなると板金屋さんに別途依頼する必要があります。そんな高いお金はかかりませんが、それでも数万円は確実にかかるはずです」
▲エンジンはクランキング一発で軽やかに始動し、ごく短時間ながら試乗した感触では好調な模様
焦点は「その古民家」にどれだけ思い入れがあるか、だ
そういったモロモロを押してでも手に入れたい! という強烈な情念を持ち合わせている者にとっては、この比較的低走行な89年式セリカGT-FOURは「光り輝く存在」となり得るだろう。機関部分の状態は基本的に良さげなだけに、その他の内外装部分をビカビカに仕上げれば、気分は完全に90年シーズンのカルロス・サインツである。やたら大ぶりで大仰になった現代の車の横に並んでも、勝った気分にこそなれ、負けた気はしないはずだ。伝統と伝説、そしてアナログの大勝利である。
だがもしもそうでないならば、軽い気持ちで手を出さない方が無難であることも事実だろう。
やはりこの年代のセリカGT-FOURとは「古民家」なのだ。立地条件や日当たり、趣きなどの点でその古民家が強烈に気に入ったならば、時間とお金と情熱を費やしてでも、それを再生させる価値は大いにある。そしてその結果得られる満足は、ありがちな建売住宅を買った場合の比ではないはずだ。ただその場合、当然ながらそれなりの手間と金銭は確実にかかる。
筆者個人にとってST165という古民家は、万難を排してでも手に入れたい「立地や日当たり」ではないため、今回は購入対象から除外した。が、もしもあなたが「ST165こそワタシにとって理想の古民家!」だというのであれば、ぜひ一度“現地”を見てみることを強くオススメしたい。
▲この姿を見ていると、往年のWRCにおけるカルロス・サインツ選手の勇姿が脳内にまざまざとよみがえる。好きな人にとっては再生してみる価値大な「古民家」だと言えるだろう
【取材車両スペック】
89年式トヨタ セリカGT-FOUR
本体価格:107.8万円
車検整備付/走行7.8万km/ホワイト/右H/5MT/D車/修復歴なし
(6月23日取材時点)
【関連リンク】
取材に協力いただいたCar townの詳細情報を見るtext/伊達軍曹
photo/編集部、トヨタ自動車、ホンダ技研工業
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