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『千日の瑠璃』27日目——私は交情だ。(丸山健二小説連載)

 

私は交情だ。

身寄りのないふたりの年寄りを、戦争前からしっかりと結びつけている深い交情だ。多幸な生涯を送れるほど強い運気に恵まれていないふたりは今、老後の手遊びで作った菊を前にしてさかんに杯を献酬し、美酒に酔い痴れ、大いに羽を伸ばしている。労を厭わずに働き、現前する事実の数々をきちんと認め、楽しんでも淫しないかれらの日々は、まほろ町を代表すべきものだ、とそう私は確信する。

かれらは往年を思い返すことはない。憎まれ口を叩くことも、妄想に耽ることも、先を見越して素早く手を打つことも、必要以上に事を荒立てることもない。それがかれらの身上だ。これまでかれらはかれらなりに本分を尽くしてきたが、しかし独断に過ぎたことは一度もなかった。だからといって、世人の意向に投じることだけで寿命を延ばしてきたというわけではない。

ふたりは葉隠れに見える柿の実を数えながら、長年かけて習得した菊作りの技能について訥々と話す。十数年に一度くらいの割合でふたりのあいだに生じた確執は、時がすべて洗い流した。通りすがりの者は皆、丹精して咲かせた大輪の花や私を口々に誉めて行く。湖上に浮動する物体は死者の魂を運びたがるボートだが、まだまだふたりの眼にとまることはない。人通りも絶え果てた頃、ともかくきょうを精いっぱい生きた世一が現われ、私に一瞥をくれてあしたの方へのろのろと去って行く。
(10・27・木)

丸山健二×ガジェット通信

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