介護離職を防ぐために企業がやるべきことは何か?
介護離職は介護側の生活に大きなダメージを与える
厚生労働省は、自治体が「介護保険事業計画」を決める際に、在宅で介護する家族らの意向も反映させる仕組みづくりを始めると発表しました。
多くの自治体では、この計画の決定過程で、高齢者に対し、アンケートなどで必要としているサービスを把握しますが、この時同時に、働きながら介護している人たちの実態を調べることで、「介護離職ゼロ」の実現につなげることを目的としています。
介護離職の問題点は、いつまで続くのか分からない介護により、心身に過度の負担がかかる、いったん退職すると(中高年の場合特に)再就職先が容易には見つからず生活に困窮してしまうなど、介護する側の生活に多大な影響を及ぼすことにあります。
介護離職は企業にとっても経営上のリスクに
しかし、これは個人に限った話ではなく、企業にとっても経営上の大きなリスクになるのです。
介護離職は、性別や年齢、会社での地位、役職などにかかりわりなく、高齢者を抱えている社員であれば、誰にでも起こり得る問題です。
自社の部長が、課長が、ある日突然「親の介護のため退職します」と言ってきとしたら…。現在進行中のプロジェクトは?あの仕事の決済は?代わりを務められる人はすぐに見つかる…?
更に、介護離職するのは会社で1人とは限りません。
いっぺんに複数の人間が退職せざるを得なくなったら?人の補充はどうする?引継ぎは?採用にかかるコストは…?
介護離職ゼロに向けての国の取り組み
こうした状況を受け安倍政権では、冒頭でご紹介したものの他にも、「介護離職者ゼロ」を目標に、多くの政策を掲げています。
特養やサ高住など高齢者の受け皿となるべき施設を、2020年代初めまでに更に50万人分増やす、現在は認められていない介護休業の分割取得を可能にする、仕事と介護の両立に関する取組を行った事業主に助成金を出す(介護支援取組助成金)等々。
一部には、その効果に疑問が残るものもありますが、国が積極的にこうした政策を打ち出すことは、評価に値するでしょう。
介護離職ゼロには企業側の意識改革が必要
しかし、いくら制度があっても、それを活用できる企業風土がなければ所詮絵に描いた餅、成果など上がるはずもありません。
育児休業が法制化されているにもかかわらず、男性の育休取得率が3%にも満たないという現実が、そのことを如実に表しています。
育児でさえこうなのですから、身近に要介護者もおらず、いたとしてもそのことを話せるような雰囲気のない職場では、介護や介護離職に対する理解が深まることはないでしょう。
そこで大切なのは「介護を自分事として考えるための教育」です。
筆者もかかわっているある大手商社のプロジェクトでは、ハンドブックを作るなどして、若いうちから「親が突然介護の必要な状態になったら」「どうしたら介護と仕事を両立できるか」など、介護を「自分のこと」「自社の事」として考えられるような教育に力を入れています。
こうした教育を行いながら、「いざ自分や同僚が親の介護をすることになったら利用できる制度は何か」「周囲はどんなサポートができるのか」「現在の仕事の進め方でそれは可能なのか」「会社として何ができるのか」などについて、定期的に話し合う機会を設けるのです。その積み重ねが「介護離職をしない、させない」職場作りに繋がっていくのです。
「介護離職防止」は、今や企業のBCP(事業継続計画)の一環とも言える重要事項です。
まずはトップ自らが危機感を持って「介護を語れる職場」を作ることから始めましょう。
(五井 淳子/社会保険労務士)
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