三島賞”不機嫌会見”の人の受賞スピーチは?
『伯爵夫人』で第29回三島由紀夫賞を受賞した蓮實重彦氏は、5月16日の記者会見の席上、受賞の喜びについて訊かれると、
「まったく喜んではおりません。はた迷惑なことだと思っています。80歳の人間にこのような賞を与えるという事態が起こってしまったことは、日本の文化にとって非常に嘆かわしいことだと思っております」
と答えるなど、終始、不機嫌モード全開で会見に臨み、〝面白すぎる80歳〟など話題を集めた。
1カ月後の6月24日、ホテルオークラ東京別館アスコットホールにて、新潮文芸振興会が主催する第29回三島由紀夫賞・山本周五郎賞、第42回川端康成文学賞(川端康成記念会)の贈呈式が行われた。受賞者挨拶のため、壇上に立った蓮實重彦氏は、
「こうして聴衆を前にしてマイクを握ると、何を口走るかわかりませんので、あらかじめ準備しておいた文章をごくしめやかに読み上げさせていただきます」
と前置きして会場の笑いをとったあと、「自分の気に入ったこと」として受賞作を執筆した経緯について述べ、最後に、
「この授賞式が『自分の気に入ったこと』でないのはいうまでもありません。それは、どこかしら『他人事』めいており、この場は『どこでもない場所』を思わせもします。
しかし、あたかもそれが『自分の気に入ったこと』であるかのように振る舞う才覚は、わたくしにも多少はそなわっております。そこで、審査員の皆さまを初めとして、このテクストをわざわざお読み下さったすべての方々に、複雑な思いのこもった感謝の言葉をさしむけさせていただきます」
と語って、ふたたび場内を笑いの渦に包み込んだ。さすがの貫禄。
■関連記事
【文学賞記者日記2016】シリーズものに光をあてる新設の文学賞、第1回は『しゃばけ』が受賞!
ハルキ祭りの夜は更けて──『多崎つくる』発売カウントダウン・レポート
賢太、慎弥だけじゃない! 芥川賞会見の勇者たち
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。