本当はなりたくない…女性管理職になることを期待されたら、どうすべき?【シゴト悩み相談室】
キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩み相談を、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます!
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。
CASE9:「女性管理職になることを期待され、しり込みしています」(28歳女性)
<相談内容>
入社5年目、28歳の営業職です。最近、周りから女性管理職へのステップアップを期待され、悩んでいます。
マネジメントに関する社外の研修を勧められたり、女性管理職として活躍している先輩と「女性のキャリアパス」に関する研修の企画を任されたり。上司からも何かにつけて「お前は管理職に向いている」と言われます。まだ辞令が下りたわけではありませんが、その日が迫っていると感じます。でも、できれば逃げたいんです。
確かに、営業成績はいいほうですし、新人や後輩の面倒見もいいほうだと思います。ただ、管理職になると部下と上司との間に挟まれてストレスが多そうですし、役職手当のみで残業代がつかなくなるというのも懸念材料。仕事面でも、現場でお客様と相対しているのが楽しいので部下の面倒ばかりに時間を割かれたくないし…正直、管理職という仕事に魅力を感じることができません。
ただ、将来結婚、出産しても、ずっと働き続けたいとは思っています。今後のキャリアのこと考えると、やはり管理職になったほうがいいのでしょうか?(広告会社・営業・28歳)
不安は恐れるに足らず。チャンスは素直に受け入れるべし!
結論から言えば、上司の言葉を素直に受け止め、しり込みなどせず、安心して管理職に就いてください。これに尽きます。
管理職になりたくない理由として、仕事面や手当面などいくつかの理由が挙げられていますが、管理職は素晴らしい仕事だし、特に女性にとってはメリットが多いと思います。そもそも「管理職に向いている」なんて、めったに言われることではありませんよ。せっかくのチャンスなのですからぜひチャレンジしてほしいですね。
言いたいことは以上、なのですが…これだけだと納得されないと思うので、理由をいくつかご説明します。
管理職の仕事に対して「忙しそう、ややこしそう」というイメージを持っているようですが、メンバーよりも管理職のほうが時間の融通が利きます。
メンバーは「管理される側」ですから、会社や上司の指示通りに動かねばならない場面も多く、時間の融通が利きづらい立場ですが、管理職は逆。自身の裁量で、組織やメンバーを動かすことができます。従って、今よりずっと仕事は自由になり、ワークライフバランスも取りやすくなるはずです。
社内異動はもちろん、転職においても有利に働く
ただ、「営業」はクライアント相手の仕事。もし相談者が現在所属している営業部門で管理職に抜擢されたならば、メンバーの営業同行やサポート、クレーム処理などで出ていかなければならない場面もあるでしょう。懸念されているように、今よりも忙しくなるかもしれません。
しかし、役職が上になればなるほど、仕事内容は共通化され、普遍的なものになっていきます。すなわちメンバーマネジメント、労務管理、KPI管理などが主務になり、部門ごとの特殊性は減っていきます。そうなると、「職種転換」がしやすくなります。
メンバーの段階では、たとえば営業部から総務部へ異動するのは経験やスキル的に難易度が高くても、営業マネージャーから総務マネージャーへの異動は容易です。実際、相談者の会社でも、そういう異動例が多くあるはずです。
つまり、管理職を経験しておけば、たとえば将来結婚・出産したとき、営業部門からバックオフィス系に異動を願い出ることも可能です。
ステップアップできて、ワークライフバランスも取れて、ライフステージに変化があった場合もキャリアを追い続けられる…。管理職になるメリットはこんなにたくさんあるのです。
そもそも相談者は「営業好き」で、上司から太鼓判を押されるほど「面倒見もいい」のですから、営業部門で管理職に抜擢されたとしてもうまく立ち回れるでしょうし、「今の忙しさは将来にとっての修行」と捉えられるバイタリティもあるはず。やってみるまでは不安も多いかもしれませんが、どんな不安も恐れるに足らず、ですよ。
それに、管理職になっておけば、社内異動だけでなく「管理職として違う会社に転職する」ことも可能になります。
転職マーケットにおいては、管理職経験を求める企業が非常に多いのです。特に成長中のベンチャーなどでは引く手あまた。管理職になっておけば、「管理職の転職マーケット」の中から新しいステージを探すことができるのです。今の会社よりももっと、やりがいがあり、活躍できる環境があるかもしれません。自身の可能性を広げるという観点でも、管理職になるのは有効なのです。
自分のように「営業が楽しい!」と言える次世代を育成するのが、これからの役割
ここまで強く管理職を推すのは、管理職になることがキャリア面での成長だけでなく、「人としての心の成長」にもつながると考えるからです。
ドイツの精神分析学者、エリクソンが作った造語に「ジェネレイティビティ」というものがあります。これは“世代性”、つまり「次世代の価値を生み出す行為に積極的にかかわって行くこと」を意味する言葉です。管理職になることは、この「ジェネレイティビティ」と深い関係があります。
営業職に就いたばかりの新人時代を思い出してみてください。実感する機会はなかったかもしれませんが、管理職である当時の営業マネージャーが環境を整備してくれていたからこそ、新人営業として悩み、試行錯誤しながらもノビノビと力を発揮することができ、自信をもって「営業が楽しい!」と言える、今の相談者ができあがったのです。
相談者は28歳。整備された環境で伸び伸び働くというメリットを「享受する時期」から、次の世代に「ペイ・フォワード=恩送りする時期」に、今まさに変わりつつあるのだと思います。
寂しいことですが、自分の時代は、いつかは終わります。つまり、自分自身の成果だけをモチベーションにし続けるのは、無理というものです。
相談者が、ご自身のように「営業が楽しい!」というメンバーを育成し、その活躍を自分ごとのように喜べる状態になることが、まさに「ジェネレイティビティ」。この状態に慣れれば、末永く仕事に喜びを感じられるようになり、モチベーション高く働き続けられるようになります。
相談者の上司はきっと、あなたの活躍を見るたびに、喜びに目を細めていることでしょう。自分ももっと頑張ろうと、モチベーションも上がっているはずです。
相談者にも、ぜひその状態を目指して、末永く活躍し続けてほしいと願っています。
<アドバイスまとめ>
キャリア面はもちろん、人としての
成長も期待できる管理職の仕事。
勇気を持って飛び込んでみよう!
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EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭
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