MERCEDES-BENZ 280SE【EDGE/~名車への道~】

▲SUPERを意味する「S」を車名につけたシリーズとしては4作目にあたるのが1972年から生産されたタイプ116シリーズである。4960mmの標準ボディの他に、5060mmのロングボディも用意された。エンジンは6気筒の2.8L、3.5LのV8、225psの4.5Lなどをラインナップ。有名な300SEL 6.3の後継となる6.9Lエンジンの450SEL6.9など、1980年までの間に多数の名モデルを生み出している

▲SUPERを意味する「S」を車名につけたシリーズとしては4作目にあたるのが1972年から生産されたタイプ116シリーズである。4960mmの標準ボディの他に、5060mmのロングボディも用意された。エンジンは6気筒の2.8L、3.5LのV8、225psの4.5Lなどをラインナップ。有名な300SEL 6.3の後継となる6.9Lエンジンの450SEL6.9など、1980年までの間に多数の名モデルを生み出している

メルセデス・ベンツがリスペクトされる理由が分かるよね

EDGE:さて今月ですが、特集は「ツウなクルマ」になります。

松本:だったら徳大寺巨匠と一緒に行った中で、お店がツウなところで選ぶといいよね。

EDGE:さすがですね。そう思って探してあります。ヴィンテージ湘南さんにメルセデス Sクラスがあったのでそれにしてみました。“280SE”っていうモデルです。型式としてはW116になりますかね。

松本:いいね。際立ってはないけど、これから名車に数えられる車で企画にも合ってるよ。この年代のメルセデス・ベンツの作りの良さやハンドリング性能は現代に通じるレベルなんだよ。

EDGE:それはすごいですね。あ、着きました。この車ですね。うわぁ、ベンツマークの入ったシートカバー付きですよ! めちゃくちゃキレイですね。

松本:素晴らしい程度だね。色も茶色というかエンジというか微妙でいいね。この当時のベンツは塗装の質もとにかくいいんだよ。下地をきちんと作ってるから塗装にゆず肌が存在しないもんね。縦目から横目になったSクラスは子供の時に見て新しさを感じたなぁ。

EDGE:縦目から横目に変わったのを、リアルタイムで見てたんですか? まさかこのW116も家にあったとか?

松本:これがあったんだよ。確か74年頃だったかな。漆黒の縦目Sクラスから入れ替わったんだけど、その時に父に聞いたんだよ。なんで黒から派手な赤茶に変えたのかって。そうしたら「個人的に家で使うなら鮮やかなほうがカッコイイから」って言われたよ。だからこの車を目の前にして驚いてるんだ、同じような色だからね。

EDGE:お父さん、ツウですね……。

松本:その当時としてはかなり目立ってかもしれないね(笑)。しかしこの車、当時も大きくて存在感があったけどいま見ても前後に長いね。

EDGE:でも動かしてみると、このサイズなのにハンドルの切り角とかすごく優秀ですね。

松本:そうだね。技術力を感じるでしょ? ドアのモールディングとかも素晴らしく作りがいいよ。メルセデス・ベンツの安全哲学はこの当時から秀でていたからね。航空機のコックピット並みの視認性の良さを追求したメータークラスターとか、ソフトパッドも多用して突起物を少なくしてスッキリとしたデザインの内装が特徴的なんだ。ところで年式は?

EDGE:これは80年式だそうですよ。確かに内装もシンプルですね。ゴテゴテしていないというか。

松本:これは後期型だね。安全って言ったのは操縦安定性もジオメトリーも現代に通じるものだからなんだよ。硬すぎず柔らかすぎない、ドライバーを疲れさせないサスペンションセッティングなんだ。ブレーキを踏んでもノーズダイブをコントロールしたジオメトリーで後期型は確か世界で初めてABSを装着したモデルだったはずだよ。

EDGE:じゃあこのW116からメルセデスは大きくて変わったと言ってもいいんですね。

松本:そうだよ。フロントサスペンションが特徴的なんだけど、とても簡単に言うとゼロスクラブというセッティングでタイヤのトレッドの中心がタイヤを据え切りしたときに擦れる中心になっているんだ。このタイプはステアリングのインフォメーションは少ないけど、ハンドリングにトリッキーな動きも少なくてFRには最適なんだ。メルセデスが雨の日でも安心して運転できるのは、特定のシチュエーションで最高のパフォーマンスを生むよりも、あらゆる条件を鑑みたドライバーに優しいことを追求しているんだね。即ち同乗者にも安心感あるセッティングを心がけていたんだ。

EDGE:このW116って1972年の発売ですからね。メルセデスの奥の深さを感じますね。さっきからシートを押してますけど、何を調べてるんですか?

松本:シートだってこれ凄いんだよ。へたっているとかいないとかそういう簡単な話じゃないんだ。腰から脚の部分の荷重分布を考えてスポンジの硬さが違うんだよ。座面のすべてが同じ硬さだとヒップや脚にかかる負担が違ってくるでしょ。それをスポンジの硬さでコントロールしてるんだ。ヒップのあたりに比べるとフロント付近は厚く柔らかい。これなんだよメルセデスは。この当時にこの発想だからね。当時の国産車なんかまだまだって感じがするのは僕だけじゃないと思う。もっとも現在でも国産自動車メーカーはメルセデスをリスペクトしてるし、近づこうと頑張っているけど、それに間違いはないよ。

MERCEDES-BENZ W116 リア MERCEDES-BENZ W116 エンジン MERCEDES-BENZ W116 インパネ MERCEDES-BENZ W116 ウインドウ MERCEDES-BENZ W116 シート

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ヴィンテージ湘南text/松本英雄

photo/岡村昌宏

※カーセンサーEDGE 2016年7月号(2016年5月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

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