“ブロマンス”ミステリー『ショットガン・ロード』深町秋生インタビュー「香港映画や任侠映画に影響を受けた」
「このミステリーがすごい!」の大賞をとったデビュー作『果てしなき渇き』が、中島哲也監督により『渇き。』として映画化され大ヒット。毒をもって毒を制す型破り刑事、八神瑛子が主役の『アウトバーン』シリーズは40万部を突破し、米倉涼子主演のTVスペシャルに。ミステリと映画の両方で多くのファンを持つ深町秋生さんの新作は、なんとブロマンス!? 5月20日に刊行されたばかりの『ショットガン・ロード』(朝日新聞出版)について、著者ご本人にインタビューしました。
<あらすじ>
日本最大といわれる暴力団巽会のナンバー2が自殺に見せかけて殺された。企てたのは、伝説の殺し屋集団“忍足チーム”。チーム壊滅のため組織に雇われたのは、かつて忍足の後継者と言われていた凄腕の暗殺者、汐見だった。相棒は、復讐に燃える、殺された伊吹の息子。日本各地で死体の山を築きながら、真犯人を追う二人。最後の一行まで一気に読まずにはいられない、激熱ロード・ノヴェル!
―『ショットガン・ロード』、500ページの長編ですが、読むほどに血中アドレナリン濃度が高くなっていくというか、とにかく先が気になって、すごい勢いで読みました。大変面白かったです! 深町さんといえば、血と暴力にまみれた犯罪小説というイメージがあるので、“至高のブロマンス小説”という帯の文句にびっくりしました。まず、深町さんにとって“ブロマンス”とはどういうものですか?
深町:そうですね……じつは私もちゃんとわかっているのか怪しいのですが、性的な関わりはないけれど、野郎同士の友情や絆を描いたものだと思っています。香港映画『男たちの挽歌』や『ザ・ミッション 非情の掟』、ハリウッド映画だと『ディア・ハンター』や『ハートブルー』、邦画であれば高倉健と鶴田浩二の任侠映画みたいに、阿吽の呼吸でわかりあったり、友人を助けるためなら命を賭けたり、背中を安心して預ける仲……と言いましょうか。
そういう物語が大好物なので、今回は元殺し屋の汐見と鼻息荒い若者の伊吹のコンビを中心に、敵のリーダーである忍足を中心とした殺し屋チームの固い結束など、複数の友情や親密さを描いてみたわけです。「八神瑛子」シリーズでも、主人公のハグレ女刑事と中国人マフィアの女ボスとの強い信頼関係など、同性同士の結びつきを描くのが好きみたいです。
―なるほど。たしかに八神刑事と女ボスのつながりは印象的でした。本作では、最初はくっきりと対比していた、汐見の昭和なテイストと伊吹の平成感が、だんだんお互いに影響を与えていくところが、血なまぐさい物語の中で、際立って微笑ましかったです(笑)。強い印象を残すキャラクターの多い作品ですが、特にお気に入りのキャラなどはいますか? それから、俳優などをイメージして執筆されたりするのでしょうか。
深町:あて書きみたいなことはしないのですが……ワケアリで古風な元殺し屋の汐見は、アンディ・ラウがなんとなく頭にありました。私自身はコンプレックスまみれで嫉妬深く、年がら年中イライラしているという性格なので、主人公に激しいジェラシーを抱く、敵側の玄羽政宗という毒殺魔に親近感を覚えましたね。モーツァルトという天才に出会ってしまったサリエリみたいな。腕力も格闘技術もないので、狂気じみた気合と攻撃性で補おうとする大量殺人鬼ですけれども。自分の黒い部分をそのまま書いたというか。
小説の世界には、信じられない速度で原稿を書くスピードスターもいれば、「頭のなかはどうなってるんだ」というアイディアマン、とてつもない感性を持った天才がごろごろいるのですが、そういう才人たちを毎日のように嫉妬しているので。
―深町さんも嫉妬されてますよ! 今までの作品も、かなりエグいというか、字面だけで痛い描写がたくさん出てきましたが、今回は深町作品史上最多の死傷者で、そういう場面もたくさん出てきましたが、書いていてぞぞっとすることはありませんか?(笑)
深町:ぞぞっとするようなことは、デビュー作『果てしなき渇き』のときに全部やっちゃいましたからね(笑)。ただし拷問や喧嘩のシーンでは、「自分が一番されたくないこと」を念頭に考えてます。「ここを責められるのは絶対に嫌だな」というのを考えに考えぬくと、目玉にスプーンを突っ込まれるとか、割れたビール瓶でアキレス腱を切られるといった描写にいたるわけです。たぶん変態なんだと思いますが……そういうのを考えるのが好きなんですね。
東映実録ヤクザ映画で『沖縄ヤクザ戦争』というのがありますけど、千葉真一と地井武男が室田日出男の男性自身をペンチで引きちぎってました。ああいう痛みを読者に提供できたらと常々思っております。
―聞いただけで痛いです(笑)。これから読む方のために伏せておきますが、後半に出てくる食事のシーンは素晴らしいですね! あそこは今まで深町さんの作品を読んだことのない腐女子の方にぜひ読んでいただきたい!と思いましたが、いかがでしょうか。
深町:そりゃもう女子にも男子にも読んでいただければと。険悪なコンビがお互いに認め合い、やがて成長していくドラマなのですが、一緒にメシを食うというのはその集大成ですね。敵には毒殺魔もいるし、主人公のコンビは飲み物に薬を一服盛ったりして信頼関係はガタガタ。なのに、向き合ってメシを一緒に食うまでの仲になる。このあたりはジョニー・トーの映画から学びました。
―ジョニー・トー監督からは学ぶことが多いですね! 最後に、深町さんは映画秘宝などにも寄稿していらっしゃいますので、最近のおすすめの映画を教えて下さい。それから、今後のお仕事のご予定などもお願いします。
深町:えーと、6月だったらスリラー『クリーピー 偽りの隣人』、それに北海道警察の大不祥事を描いた実録モノ『日本で一番悪い奴ら』、アトランタを舞台にした悪徳警官による犯罪映画『トリプル9 裏切りのコード』がお勧めです。
けっきょく、自分の作品もそうですけど、カタギの道から外れ気味の人間や、完全に外れていく者のドラマが好きなんですね。まっとうな善人や正義漢には興味がないんですよ。小説の世界ぐらいは、法も常識も平気でシカトするような型破りな人間たちを描きたい。ちなみに、9月に老いた悪徳刑事が活躍する連作短編が発売される予定です。タイトルはまだ決まっていませんが。
―新作も期待しています。今日はありがとうございました!
※深町先生のお写真は、深町先生のご実家のバラが自慢の庭にて。美しい。
執筆:♪akira
WEBマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」(http://www.targma.jp/yanashita/)内、“♪akiraのスットコ映画の夕べ”で映画レビューを、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」HP(http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/)では、腐女子にオススメのミステリレビュー“読んで、腐って、萌えつきて”を連載中。AXNミステリー『SHERLOCK シャーロック』特集サイトのロケ地ガイド(http://mystery.co.jp/program/sherlock/map/)も執筆しています。
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