災害を体験した子どもたちのストレスを和らげるには

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災害を体験した子どもたちのストレスを和らげるには

災害は予期できない出来事です。万が一のとき、最小限の被害にとどまらせるためには事前の準備が重要となります。今回は、武蔵野大学人間科学部教授の藤森和美さんに災害後における子どものストレス反応のチェックとそのケア方法についてにお聞きししました。

災害時の親の落ち着いた行動が子どものストレスを最小限に

――災害後、子どものストレスを最小限にするにはどのようにしたらよいでしょうか。

「子どもたちに対してなるべく災害のストレスやトラウマを残さないためには、災害が起きた瞬間、親がどういう反応をするかが重要です。子どもは常に親を見ていますから、パニックに陥ったり大騒ぎしたりするとそれが二次被害となり、トラウマを引き起こす要因になり得ます。

災害が起きたときに落ち着いた行動を示すため、あらかじめ家族でハザードマップを確認しあい、避難行動の練習をする、また、保存食の買い出しや賞味期限の確認なども家族のイベントとして楽しみながら行う等、日ごろから防災の意識を高め、被災時には子どものそばにいて『大丈夫だよ』と声をかけ理性的な行動に努めることが大切です」(藤森さん。以下同)

災害時のストレス反応は1カ月でおさまる傾向。それ以上続くようなら専門機関へ相談を

災害によって、子どもたちは大きなストレスを受け、心と身体のバランスを崩すことがあります。災害後のストレス反応としては以下の兆候が主に見られますが、この反応は災害を体験した人にあらわれる一般的な反応であり、誰に起きても不思議ではありません。【画像1】災害後のストレス反応。このほかに乳幼児では泣きじゃくりや指しゃぶり、おもらしや食欲減退などが兆候として挙げられる(出典/藤森立男・藤森和美著:災害を体験した子どもたちの心のケア)

【画像1】災害後のストレス反応。このほかに乳幼児では泣きじゃくりや指しゃぶり、おもらしや食欲減退などが兆候として挙げられる(出典/藤森立男・藤森和美著:災害を体験した子どもたちの心のケア)

――子どもたちにこういった反応がある場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

「段々と時間が経つにつれてストレス反応は弱まり、4〜6週間もあれば通常の状態に戻っていきます。最初に兆候が出たからといって慌てるのではなく、まずは家族の安全確保や家庭生活などを適切に営めるように、避難所などでも家族だけで話す場を設けプライバシーを守った上でお子さんと会話をする、歯磨きや体拭きなど衛生管理に気をつけるなど、前向きに普段の生活に近づく努力をしている姿勢を示してあげましょう。

また震災の情報も必要なことは共有し、『もしかすると余震があるかもしれないけれど、そのときはここに避難しよう』など具体的な対策方法を伝え、なるべく子どもの不安を取り除きましょう」

それでもストレス反応が1カ月以上続くようであればホームドクターやカウンセラーに相談して適切なケアをしていくのがよいということです。

子どもを励ましたいとき「大丈夫」や「がんばろう」はプレッシャーになることも

――災害後に子どもたちと接するときに注意することはありますか。

「多くの場合、大人は子どもを安心させるために『大丈夫だから安心して』とか『もっと大変な人もいるからがんばろう』など、子どもの話を聞く前に励ましたりしがちです。

けれどその場合、大人が不安から救われようとしたいから声をかけているということも十分あり得ます。一方的な励ましは子どもたち自身が感じている素直な感情に『こんなことを感じることはいけないことだ』という罪悪感や恥ずかしい気持ちをもたせてしまう危険性があるので十分に配慮が必要です。

大切なのは子どもたちの恐怖や不安を認め、子どもたちに注意を向けることです。例えば震災以外のことでも構いませんが、これまでに経験した大変な出来事など大人たちの体験談を通して子どもと感情体験を分かち合い、どう乗り越えてきたかを話し、適切な行動モデルを示すことは不安を和らげ、現状を乗り越えようとする力になります。大人と子どもがお互い向き合って、子どもたちに感情をコントロールすることを学ばせることで人間として成長につながる大切なプロセスをつくっていくことが大切です」

また災害時を模した「地震ごっこ」「津波ごっこ」などの遊びをする子どもたちもいるようなのですが、それは子どもたちが遊びを通じて不安を乗り越えようとしている表れのようです。一方的に不謹慎だと止めさせるのではなく、最後には前向きな結末で終わるよう「こういうことがあったけれど、無事でよかったね」など声かけをするのがいいようです。

被災した子どもたちが転校してきた場合、接するときのポイントは相手の立場やニーズを理解すること

――被災した子どもたちが転校してきた場合はどのように関わるのがいいのでしょうか。

「子どもたちにとって環境の変化は大きな負担がかかります。そのため、まずは相手の立場やニーズを理解し、適切なコミュニケーションや実務的な支援をはかることが大切です。例えば、『大丈夫?』や『頑張って』など直接な言葉でなくても顔を合わせたときに笑顔で『おはよう』と声をかけられるだけでも相手の孤独感を取り除くことはできます。

そうしてお互いに関係性を築いた上で必要があれば『眠れてる?』『怖い夢とか見てない?』など相手の話を聞いてストレスを軽減させてあげてもいいし、具体的な支援を必要とすれば地域の民生委員に相談するなどして行動しても良い。これは被災者だからどうこうというわけではなく、いち住民として新しく転居してきた人にどう関わるか、ということを考えて行動していった方が良いと思われます。ただし、ひとり親家庭など孤立しやすい環境にあるご家庭であればなるべく孤独を感じないよう配慮して接していきましょう」

子どもと同じ学校に転入してきた場合は事前に先生からその子どもや家庭への接し方を聞くのも良いかもしれません。どういう環境から移り住んできたのか分からずに一方的な励ましをすることは適切なコミュニケーションではない場合があることに気をつけたいです。

漠然とした不安を焦らず、一つひとつ取り除いていくことが最大のケア

――子どもたちの不安を和らげるためにはどうしたらよいでしょうか。

「災害が起きたときに起こるストレス反応は、不安感が一番の要因となります。その不安を取り除くためには『なぜ地震は起きたのか』のメカニズムを科学的に具体的に伝え、何かの罰を受けたわけではないことを説明しましょう。そのときに、二次災害の危険性があることも忘れないよう伝えてください。あくまでも事実に則った話をし、どう対策していくか。また、災害が起きたけれど、あなたがここにいてくれてうれしい、と前向きな言葉を口に出して不安を和らげることも有効です」

なかには家や家族を亡くされたご家庭もあります。その悲しみを子どもたちが乗り越えるためには、子どもたちの感情を受け止め、悲しみを共有した上で今ここにいることを喜びあっていくことが大切だといいます。また子どもだけでなく、親もきついと感じたら、歌を歌ったり美味しいものを食べたり、無理をせず生産的にストレスを解消していくことで心のバランスを図っていくのが大切です。

事前の備えは物質的な安心だけでなく子どもたちの心の安定にもつながります。今一度、防災について話す時間を家族でもうけてみてはいかがでしょうか。【藤森和美さんプロフィール】

臨床心理士・博士(人間科学)/武蔵野大学人間科学部 教授/日本トラウマティックストレス学会 理事/山口県クライシスレスポンスチーム(CRT)顧問/全国CRT標準化委員会 顧問/横浜市教育委員会カウンセラーアドバイザー/スクールスーパーバイザー/大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター 研究員

1993年の北海道南西沖地震を体験し、災害を体験した子どもたちの心のケアに取り組み、その後の阪神・淡路大震災では教師向けの「危機介入ハンドブック」を兵庫県教育委員会に提供する。中越地震、東北大震災においても被災地での心理的支援を継続している。また子ども関連の事件事故被害後の緊急支援活動にも取り組んでいる。著書に「大災害と子どものストレス: 子どものこころのケアに向けて」などがある。
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