もしや怒らせちゃった!?ピンチをチャンスに変えるコミュニケーション術
こんにちは、ビジネスコーチ&ファシリテーターの谷益美です。
男性 + 年上 + ちょっぴりオラオラ系なビジネス現場からお仕事のオファーが多いのは、元々建材屋の営業をやっていたお陰かなー……と思う今日この頃。
「職人さんや現場監督さんって、やっぱり結構怖いんですか?」
そう聞かれると完全否定しにくいのがこの業界。私の体験的統計値から申し上げると、建設業界は、とても「ドライビング」が多い世界です。
「ドライビング……・?なんじゃそりゃ?」と思ったら、まずは自分のタイプを知る、「ソーシャルスタイル分析」をやってみましょう。自己主張と感情表出の強弱で、人を4つの傾向で分析する、カンタン便利な理論です。
「あれやっといて」「(当然)できるよな?」「ワシはやらんぞ」
など、自分の主張をストレートに伝えてくる方々に囲まれて、こちらも負けじと言い返しては怒られまくった20代。失敗を重ねたお陰で見えてきた「怒らせちゃった」時の対処法をお伝えします。
怒らせちゃった…。あなたなら、まずはどうする?
「ちゃんと書類に書いてますから」とお伝えして怒らせてしまったのは、現場から電話をくれた工務店の現場監督Aさんです。
「この作業もやっておいてくれる?」
「それは見積りに入ってないので、無理です」
Aさんからの無理目の要望を断ることしか考えていなかった当時の私。
上記のような会話を重ね、挙げ句の果てに「もう頼まん!」と電話を切られてしまいました。
さて、もしもこんな風に相手を怒らせてしまったら、まずはどんな対応をすべきだと思いますか?
A:すぐに謝罪する
B:すぐに誰かに相談する
C:そのまま放置
「まさかCは無いでしょー!」と思うかもしれません。が、この選択肢だって場合によってはアリなんです。例えばAさんがいつも無理をゴリ押ししてくる人で、会社的にも、もう今後の付き合いは止めてOKな相手なら、これを機会にキッパリサヨナラするのも1つの選択かもしれません。
しかし、今後もお付き合いを続けたい相手なら、ここはきちんと対応しましょう。
Aの「謝罪」はもちろん重要ですが、怒らせたからといって反射的に謝るだけでは、その場しのぎの対応になってしまいます。どうせ怒らせてしまった訳ですから、単に許してもらうだけでなく「雨降って地固まる」な状態を目指したいもの。
そのためには、問題を整理し、取るべき対応を考えることが必要です。
凹んで嘆く前に深呼吸。自分の気持ちを落ち着けて、しっかり状況整理して対応しましょう。とは言え、自分のミスで相手を怒らせてしまった場合、なかなか冷静にはなれないもの。だからこそ、大急ぎで上司や先輩、周りの誰かに相談して、客観的な意見をもらう作戦会議の時間を取りましょう。
「……電話切られちゃいました。どうしましょう……」
と青くなって上司に相談した私。上司からは、「谷くんの言い分は分かるけど、あの言い方は良くないよ」と指摘されてしまいました。
よく考えてみると当時の私は20代。対するAさんは50代のベテラン現場監督です。「若いヤツがエラそうに!」と怒りを買ってしまったのも、無理ないことと思えます。
上司に状況を説明し、フィードバックしてもらったお陰で、段々自分も落ち着いて、相手の怒りの原因と謝罪すべきポイントも徐々に明らかになってきました。
「お客さまに対して失礼な言い方をした」という【私の態度】については素直に反省し、「相手の要望に応えることができない」という【業務対応】については、Aさんの期待に添えないことに対して、申し訳ないというお詫びの気持ちをお伝えすることにしました。
そこまで整理できたなら、次はいよいよ謝罪です
謝罪する前には、相手がどんな人かをきちんと分析しておきましょう。例えば先にご紹介したソーシャルスタイプを活用すると、それぞれのタイプに応じたポイントが見えてきます。
上下関係を重視する「ドライビング」に伝える場合は、立場をわきまえなかった非礼を中心に、しっかり頭を下げることも大事。
あまりウェットなコミュニケーションを好まない「エクスプレッシブ」の場合は、「お役に立てずすみません!」と潔く。
原則受け身な「エミアブル」であれば、「声を掛けてくれた」ことへの感謝をまずは伝えることが大切です。
もしも相手が「アナリティカル」であれば、なぜ自分が謝罪に来たのか、その理由も添えてお詫びします。
もちろん、タイプに相手を当てはめて、型通りに対応したからといって許してもらえるとは限りません。良い関係につなげたいならば、相手のことをしっかりと考えること、心に響く伝え方を工夫することが大切なのです。
そして、できることなら謝る時は、電話ではなく対面がおススメ。「誠意を見せる」というだけではありません。「タイプがわかればうまくいく!コミュニケーションスキル」の共著者、脳科学者の枝川先生によると、対話をスムーズに進めるためにも、直接会ってやり取りした方が良いのだそうです。
脳科学者に聞いてみた。怒っている人への対応法
早稲田大学教授 脳科学者枝川義邦(えだがわ よしくに)先生
人や組織について、脳科学や心理学に加え、経営学の視点からも分かりやすく説明くださる先生。早稲田大学ビジネススクール「経営と脳科学」ご担当。一般向け勉強会「コーチング×脳科学」対談講座でご一緒しています。
谷:でも、怒られた相手に会いに行くって、やっぱり勇気いりますよね……。
枝:そうですね……。
ただ、それでも行った方がいいと言うのには、理由があるんです。
怒っている人とのコミュニケーションは、一筋縄ではいきません。なぜなら、怒りは激しい感情であって、しかも原因が様々なので、その原因がわからない限りは、心底納得してもらうことが難しいからです。
もしかしたら表に現われているのはごく一部で、本当のニーズは別のところにある可能性もあります。相手の表現をそのまま受け取らずに、その奥にある本質をつかなければなりません。
このようなときには、直接、その相手に会いに行くのもひとつの手です。話しているときの表情や素振り、声のトーンなどには、実際に伝えたいメッセージが込められているもの。人間が相手から情報を得るときには、目で見た情報(=視覚情報)を大部分のソースとしますから、その相手が本当に伝えたいニーズを汲み取ることができやすくなります。そして、こちらの謝罪の気持ちも、相手に態度を「見せる」ことで、より伝わりやすくなるのです。
谷:なるほど……!視覚情報を上手に活用することが大事なんですね。ところで、怒っている時の脳では、どんなことが起きてるんですか?
枝:怒っているときには、理性的な判断がしづらくなっています。これは、「前頭前野」と呼ばれる、理性を司る場所の活動と、扁桃体と呼ばれる「感情」を司る場所の活動のバランスが取れずに、”感情の脳”が暴走しているからです。
これらの脳の場所は互いにブレーキを掛け合っていて、通常は理性のブレーキが感情の暴走を防いでいますが、感情が爆発するような場面では、このブレーキが利かなくなって、感情を司る脳の活動が止められなくなっているのです。
このような相手に、いきなり論理的な説明をするのは避けたいところです。
感情が爆発しているような相手には、まずは「納得」してもらうことを優先しましょう。その後に「説得」すればいいのです。
まとめ
怒っている人に、理性的な対話を求めてもうまくいかないのは、そもそも相手が対応できる状態にないから。そう考えると、まずは相手の言い分を聞き切り、気持ちの高ぶりが治まるまで聞き手に徹するのも理にかなった対応です。
そしてまた、「怒られてしまった!」と焦りや後悔で感情的になった状態では、冷静な対応もできません。周りに相談し、状況説明することで、自分の気持ちを落ち着けるという効果も期待できます。上記の私のケースでも、作戦会議を終えてすぐ、菓子折りを持って現場へ急行、Aさんに直接謝罪を伝えました。言い訳無しで頭を下げた私に対し、「分かってくれるならいいよ」と顔をしかめつつも許してくれたAさんからは、後日「電話だったら取ってなかっただろうな」と笑いながら言われました。
誰かを怒らせるという失敗も、ポジティブに考えれば、コミュニケーショントレーニングのチャンスです。「やっちゃった!」と青くなったら、深呼吸。この記事をもう一度読み返して、冷静に対応して行きましょう。
著者:谷益美 『タイプがわかればうまくいく!コミュニケーションスキル』著者。高校時代は漫画研究部部長。専門はビジネスコーチング及びファシリテーション。企業、大学、官公庁などで年間150本超のファシリテーティブな場作りを行う。リーダー、マネージャー、営業担当や学生など、幅広い対象者から「笑える学べる元気になる」と好評。http://www.1234go.net
特別ゲスト:枝川義邦
脳科学者/早稲田大学研究戦略センター教授。東京大学大学院薬学系研究科博士課程を修了して薬学の博士号を得る。早稲田大学ビジネススクールにてMBAを取得。先導的な若手研究者の称号である早稲田大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)初代認定者。脳神経科学を専門とし、脳の神経ネットワーク解析や行動解析を研究テーマに進める一方で、経営学の視点から人材を活かした組織や社会の成り立ち、消費者行動なども研究している。2015年度早稲田大学ティーチングアワード総長賞受賞。著書『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣 (アスカビジネス)』他
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