「やってダメなことは捨てていけばいいだけ」元世界No.1キャッチャー・里崎智也のビジネス哲学がすごい!
千葉ロッテマリーンズのキャッチャーとして活躍し、野球の世界一を決めるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝に貢献。世界No.1キャッチャーとしてベストナインに選ばれるなど、輝かしい実績を残して、2014年に引退した里崎智也さん。
現在は野球解説者だけでなく、大学講師、テレビのビジネス番組の司会、本の執筆など、多方面で活躍中。そんな里崎さんの仕事の信条は「来るもの拒まず」。野球以外で今の自分に何ができるかわからないからこそ、どんなことにも挑戦していきたいと言います。その理由は「面白いから」。
一方で、美化されがちな「こだわり」「運も実力のうち」といった言葉に異議を唱えます。そして、その対義語として重視するのが「失敗」「挑戦」「成功」。これらの言葉に込められた里崎流のビジネス哲学は、まさにポジティブ・シンキング!
できないことに挑戦した方が断然面白い。
ー引退を決めた後はどんな仕事をするか、予め考えていたのですか?
具体的に考えていたことはありませんが、とにかくいろんなことに挑戦してみたい、という思いはありました。だからどんな仕事も「来るもの拒まず」です。なんでもやりたいので。もちろん「元プロ野球選手」という肩書は、いつもついてまわりますし、それを生かしていくと思います。しかし、だからといって野球だけに執着していても面白くない。できることだけをやっても面白くないでしょ? できないことに挑戦したほうが断然面白い。“野球村”に戻るのはいつでもいいんです。
ー未知の世界の仕事をやることに不安はありませんでしたか?
今はプロ野球選手を引退して、何でもできるとき。このタイミングにいろいろ挑戦しないと、チャンスを逃すと思うんです。世の中はみんな新しいものが好きじゃないですか。プロ野球選手が引退して何かやる、というときに世間は「彼は何をするんだろう?」って興味を持ってくれるんです。そういうチャンスをどう生かすかが問題。だから引退してからの1年が勝負だと思ってました。
仕事を依頼する側からすれば、誰にふったっていいんです。その「誰でもいい」という枠に選ばれなければいけない。たとえば今日の取材をぼくが断っていても、他に候補はいくらでもいる。だからそこでもらったチャンスで、自分だけの発信力をアピールしていくことが大事なんです。僕が選んでる場合じゃないでしょ、ということです。どんな仕事でも、その仕事を目にしてくれる人がたくさんいるので、そこからまた次の仕事につながっていく可能性を逃さないようにしないと。
ー野球とまったく違う初めての仕事も多くされていますが、選手時代と大きな違いはありましたか?
根本的にはほとんど違いはないですね。テレビの収録に行くのも僕にとっては、遊びに行くようなものですから(笑)。面白いと思うことをやるだけです。だって野球以外にスキルも経験もないのに、プロの芸能人やビジネスマンに勝てるわけがない。あれこれ考えたりしたって、どうしようもないんです。自分のベストを尽くすだけです。
ー千葉テレビで「捕手里崎智也のビジネス配球術」の司会をされてますが、これもただ「面白い」という思いからはじめたのですか?
自分がまったく経験したことのないビジネスの世界で成功した人たちの体験を聞くのは、とても面白いし、勉強になりますね。マネージメントという点では野球に通じることも多くあります。僕には独自のマネージメント理論がありますが、それもやってみないと間違ってるかどうかもわからない。その経験と知識を試す機会はまだありませんが、将来的には挑戦したいですね。
自分に何ができるかなんて自分でもわからないから選択肢は多い方がいい。
ー仕事に取り組む上で何か信条にしていることはありますか?
好きなようにやって、自分に不利益があっても正しいことをしたいです。あとは人を幸せにしたい。人が幸せになればぼくも楽しいですから。その仕事で認められなかったら、認められるまでやり続けるだけです。僕はプロ野球でレギュラーをとるまで5年もかかっていますが、やればできると根拠のない自信だけはあるので(笑)。自分にどんな可能性があるなんて、僕自身もわからないので、とにかくなんでも新しいことに挑戦していきたい。
失敗はできるだけ多くした方がいい。
ー里崎さんは現役時代に打席でよくバットを放り投げていました。あれはヒットを打つためだとのことですが、まさにやってみないとわからない、という姿勢の現れでしょうか。
そのままバットを振っても、絶対に球に当たらないとわかるんですよ。そういうときに、当たらないとわかっていて何もしないなんて考えられないんです。だから少しでもヒットが出る可能性があるなら、バットだって放り出します。ただそれだけのことで、特別なことをしていたとは思っていませんよ(笑)。
失敗しない人生より、失敗する人生の方がいいんです。たとえば僕はキャッチャーでしたが、ランナーが一塁にいるときに、「最近肩も痛いし、調子悪いから、盗塁されたらイヤだなぁ」と思うと、次のステップアップにつながらない。だから失敗してもいいから「早く盗塁してくれ!」と思うんです。投げてみて成功することで自信をつけたいんです。失敗したら、何が悪いのかをチェックして練習で修正ができる。失敗しないと何が悪いかもわからないから、修正もできません。そうなると結果的に自分の能力が上がらないんですよね。
プロ野球に限らず、世の中は結果がすべて。
ー失敗の積み重ねも最後に成功をつかまないと、それまでの努力も水の泡になってしまいますよね。
よく高校野球やアマチュア野球で、試合で負けたときに「努力」が美化されることがあるじゃないですか。でも、負けて学ぶことは1つしかないんです。それまでやってきたことがすべて間違っていた。もしくは足りなかった。負けて今までやってきたことを美化したら、ずっと成功しないです。現実社会では、成功しなければ過程とか努力は評価されません。誰にも評価されない「過程」に重きを置く時点で間違っていると思います。
たとえば自己啓発本でも「今まで結果を出したこともなくて成功もしてないけど、こんなに努力しました」っていう本なんて、誰も読まないでしょ(笑)。自分と照らし合わせて、成功者がどんな失敗を経て成功に至ったかを学びたいから本を読むんです。
コーチは選手を「育てる」のではなく、「育つのを待つ」
ーよくコーチに逆らって自分を貫いた選手が一流になったという話も聞きますが、成功するためには指導者と選手の関係はどうあるべきでしょうか?
コーチの言うことがいつも正しいわけではないです。でも、コーチの指示を実践するかどうか選ぶのは自分。やってダメなことは捨てていけばいいだけ。こだわりの強い人は試すことすらしません。それで成功するなら、自分を貫き通すのも自由ですが、リスクは高いですよ。とりあえずやってみることが重要なんです。
僕の持論は、コーチは選手を「育てる」のではなく、「育つのを待つ」です。そして、選手が育つためにどれだけの引き出しを与えられるか。たくさんの選択肢を与えられたら、選手はいろいろ試せますからね。コーチにも柔軟性が大事なんです。これはコーチに限らず、指導者(上司)と部下の関係でも同じだと思います。
日本人には上司と部下の間に「4つのモノサシ」がある。
ーコーチに限らず、社会人になると会社では上司と部下の関係がありますが、指導者のマネージメントはどうあるべきかと考えますか?
マネージメントについて言えば、日本人には「上司と部下の4つのモノサシ」があるんです。一方で欧米人は2つのモノサシしかない。
まず選手から見た4つのモノサシは、
(1) 好き勝手やって結果を出す
(2) 教えられたとおりにやって結果を出す
(3) 好き勝手やって結果が出ない
(4) 教えられたとおりにやって結果が出ない
選手にとっては、(1)が理想で、(4)が最悪の結果です。
これをコーチの立場から見ると
(1) 教えたとおりにやって結果を出す
(2) 教えたとおりにやって結果が出ない
(3) 好き勝手やって結果が出ない
(4) 好き勝手やって結果を出す
コーチにとっては、(1)が理想で、(4)が最悪の結果。だって、自分の言うことを全然聞かないのに結果を出してしまうんですから、コーチとして立場が無いでしょう(笑)。
このようにコーチと選手の間で(1)と(4)が逆転すると、衝突が起きますよね。「和、派閥、環境、好き嫌い、上司たるもの上に立つべき」という土壌が4つのモノサシを作るんです。
一方、欧米人は2つのモノサシしかありません。
上司が求めるのは「俺のために結果を出してくれるか、出してくれないか」だけなんです。好き嫌いや変なプライドがまったくない。合理的だから。
「今日、俺のために結果を出してくれるのは誰だ?」という考えで144試合で120通り以上の打順の組み替えをしていたのが、“ボビーマジック”と言われたボビー・バレンタイン監督(1995年、2004年~2009年)です。ボビーは知っているんです。「こいつらが頑張って結果を出してくれれば俺の給料が上がるんだ」って(笑)。だからラクなんですよ。結果を出せばいいだけですから。
今後ますますグローバル化が進む社会では、「4つのモノサシ」にこだわっていると、生き残っていくのは難しい気がします。
ーでは最後に、「成功」についてお聞かせください。1つの会社でがんばるにせよ、転職を機にキャリアアップを目指すにせよ、社会人として成功するためにはいろいろな選択肢があると思います。里崎さんにとって、成功する人と、しない人の大きな違いはどこにあると考えますか?
僕は「運も実力のうち」という言葉が好きじゃないのですが、「運も実力のうち」ってことは、実力がある人は運がいいってことになるじゃないですか。実力がない人は運が悪いってこと? それは違いますよね? チャンスをつかむ力がある人が成功しているだけであって、「運も実力のうち」ではなくて、「実力があるから運をつかめる」ということでしょう。
失敗しない人生って、挑戦しないから成功もしなくなる。そういう失敗を恐れる人たちがチャンスをつかみきれないのだと思うんです。実力がある人は、チャンスが来たときにそれをつかむ準備をしている人なんです。そのために失敗をいっぱい重ねるんです。それが成功する人と、しない人の違いなんだと思います。
成功したい人には、「どんどん進んで失敗しろ!」と言いたいですね(笑)
里崎智也
鳴門工業高校から帝京大学を経て、98年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団。2005年、2010年には日本一を経験。2006年のWBCでは正捕手として8試合で1本塁打 5打点 率.409の活躍を見せた、2014年に現役引退し、2015年1月より、千葉ロッテマリーンズのスペシャルアドバイザーに就任。プロ野球中継の解説のほか、bayfmの「The BAY☆LINE」の月曜日のパーソナリティ、テレビ朝日「グッド!モーニング」の火曜日・スポーツコメンテーター、千葉テレビ放送「捕手里崎智也のビジネス配球術」の司会を務める。
WRITING:成田幸久 PHOTO:岩本良介
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