相手の機嫌を損ねないように「反論」し、自分の主張を納得させる3つのステップ
打ち合わせや会議で自分の意見を言ったとき。上司や取引先に企画・提案を出したとき。相手から否定されても言い返すことができず、もやもや感が残った…なんてことはありませんか?
あるいは、相手が述べた意見に対し、「それは違う」「自分の意見のほうがよりいい」と思ったとしても、正直に言い出せない人も多いのではないでしょうか。
自分は正しいと確信していても、ストレートに反論をぶつけて相手の機嫌を損ねることは避けたいものですよね。
「プレゼンテーション」「交渉」などのテーマで多数の講演・研修を行う「コミュニケーション」の専門家・箱田忠昭氏はこう語ります。
「反論して相手を言い負かせば、勝利感を味わうことはできるでしょう。しかし、相手は負けた悔しさ、恥ずかしさが残ります。感情的なしこりを残すと、人間的な対立がいつまでも続くことになります。相手を傷つけず、相手の立場を尊重しながら、自分の主張を通すことを目指しましょう」
そこで、箱田氏から教えていただいた「上手な反論」のワザについて、ポイントをまとめてみました。
「CER話法」を活用する
相手に反論するとき、絶対にやってはいけないのは「理屈で説得しよう」「議論で勝とう」とすること。それでは、議論で勝っても相手は本心から納得してはくれません。人は説得されて動くのではなく、自分から納得したときに動くもの。そういう人間心理をうまく活用するため、「CER話法」を試してみてください。
C:Cushion…反対を受け止める
E:Example…具体例を挙げる
R:Reason…理由を説明する
【STEP-1】反対をクッションで和らげる(C:Cushion)
相手の意見に対してすぐに反対するのは、ガラスのコップをそのまま床に落とすようなもの。当然、割れてしまいます。そこで、まず「クッション」で受け止めて衝撃を和らげます。
「クッション」となる言葉としては次のようなものがあります。自分がすっと口に出しやすいものを決めておき、相手から反対されたときなどにすぐに口から出るように練習しておくといいでしょう。
「そうですね。そう思われて当然です」
「なるほど。そう思うのが普通です」
「そうですか。そこがポイントですね」
「さすがに、ポイントをつきますね」
「鋭いご指摘です」
「えぇ、私もそう思うんですよ」
「そうですね。その通りです」
「ほとんどの方がそうおっしゃいます」
相手の反対を乗り越える最良の方法は、賛成すること。相手を尊重する姿勢を見せ、自分も同一の考えを持っていることを印象付けます。「私はあなたの味方です。おっしゃることはよくわかります」というメッセージを発信しておけば、人間関係が壊れることはありません。
【STEP-2】具体例で説得力を高める(E:Example)
クッションで受けた後、できるだけ早く自分の「主張」に話を持っていきたい場合は、「具体例」「成功事例」を挙げます。
<例:社内提案の場合>
相手「君のこの案、○○○というのは無理があるよ」
自分「そうですね。そういう見方もありますね」(クッション)
自分「私も無理があると思っていましたが、△△課ではこれが通った事例があるんです」
<例:取引先へのプレゼンの場合>
相手「やっぱり価格が合わないよ」
自分「確かに、どの会社の方もそうおっしゃいます」(クッション)
自分「××社さんでも最初そう言われましたが、今では毎月ご利用いただいています」(※成功事例を述べる)
ここでは、事実として例のみを出すことによって「なぜなんだろう?」と思わせることがポイント。ただし、例がない場合、あるいは例があっても公表できないこともあるでしょう。そうしたときは、「データ」や「著名人のコメント」を活用してください。
「厚生労働省から発表されている調査データによりますと…」
「日経新聞に先月出ていた記事なのでが…」
「○○大学の△△教授のコメントによりますと…」
数字が入っているデータであれば、さらに興味を持たれやすくなります。
【STEP-3】相手のニーズをつかんだ上で理由を3つ挙げる(R:Reason)
相手があなたの話を聞く姿勢になったら、自分がこの案・意見を押す理由を話します。
このとき、意識したいのは「相手のニーズ」「相手にとってのメリット」です。それが魅力的であれば、相手はより納得しやすくなります。
<例:上司への提案の場合>
上司「こんなの前例がないよ」
自分「どの部門でもやっていないので、先行者のメリットが大きいです。うちの課のやり方が基礎になるので自由にやりやすいですし、成功すれば今後の発言権も増します」
<例:取引先へのプレゼンの場合>
相手「価格が高すぎるよ」
自分「その分、長持ちします。アフターサービスも万全ですので、○○さん(相手)のメンテナンスの手間が省けます」
「イエス・バット法」ではなく「イエス・アンド法」
セールストークの手法として「イエス・バット法」というものがあります。
しかし、これはなるべく用いないほうがいいでしょう。「イエス」というクッションで受けるまでは同じでいいのですが、その後、次のような否定語(バット)でつなぐのはタブーです。
×「しかしですね」
×「でも」
×「けれども」
一度「イエス」を示して、相手が「自分に同意してくれる仲間だ」と思ったところに「しかし」とひっくり返すのは、マイナスの印象を与えることに。自分では気付かないうちに「否定語」を使うのが口グセになっている人も多いので注意しましょう。
効果的なのは「イエス・アンド法」です。
○「その点について実は…」
○「そこで、その点について説明しますと…」
このように、「イエス」の延長で、肯定的につなぐことを心がけてください。
――以上、波風立てずに反論する3つのステップをご紹介しました。このステップを効果的に進めるためには、その前にしておくべきことがあります。
それは「相手が自分の案や意見に対してどんな言葉で返してくるか」をあらかじめ想像しておくこと。当たり前のようで、意外としていない人が多いようです。自分で想定しておいた反対意見や否定であれば、受けたときの自分のダメージが抑えられ、慌てることなく3ステップを実行することができるはずです。
箱田 忠昭氏/インサイトラーニング代表
慶応大学商学部、ミネソタ大学大学院修了。エスティーローダーのマーケティング部長、パルファン・イブ・サンローラン日本支社長を歴任。その間、デール・カーネギー・コースの公認インストラクターを務める。その後、インサイトラーニング(株)を設立、現在代表取締役。特定非営利活動法人日本プレゼンテーション協会理事長。プレゼンテーション、交渉力、セールス、時間管理などのコミュニケーションスキルの専門家としてビジネスマンの教育研修に専念、全国各地で講演、研修をこなす。
主な著書に、46万部を超えるベストセラーズ『「できる人」の話し方&コミュニケーション術』『いつも「うまくいく人」の反論の技術』『「できる人」の時間の使い方』『「できる人」の仕事術&目標達成テクニック』や『落ちたリンゴを売れ!』など多数。
EDIT&WRITING:青木典子
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