私たちの知っているウェブの終わり
私たちの知っているウェブの終わり
今回はHajime Kenneth Murakamiさんのブログ『not Haruki』からご寄稿いただきました。
『Facebook』のこと、どれだけ知っていますか。『Faebook』の個人情報の扱い方、 調べたことはありますか。
きっと日本の方は総じてあまりよく知らないんじゃないかと思います。何を隠そう、僕もそうです。けどそんな僕らだからこそ、この記事を読む義務があると思うんです。
だから翻訳しました。インターネットを住まいとする一人の市民として、自分の身を守れるように。
原題:It’s the end of the web as we know it
著者:Adrian Short
自分のドメインを持っているなら、あなたはウェブの一級市民だ。家主で地主だ。 自分のサイトでできることは法と常識にのみ制限される。自分の好きなコンテンツを投稿できる。自分の好きなソフトウェアを走らせれる。カスタマイズされたソフトや自作のものでも大丈夫だ。ビジュアルも自分の意思通りにできる。自分でウェブホスティングサービスと契約しているならいやになったら別のサービスに移ればいい。URLはそのままだからユーザーは気づきもしない。そのサイトは10年たってもそこにあるだろう。100年後にも存在しているかもしれない。
他の誰かのドメインで、他の誰かの有料ウェブサービスを使っているなら、あなたはテナントだ。二級市民だ。 コントロールなんてほとんどない。家主の家具と装飾品と窮屈なルールの下で暮らすしかない。あなたのコンテンツはあなたが支払いを続け、プロバイダが店をたたまない限りはこのURLで存在し続ける。 私の経験からするとそれはあまり長くは続かない。お金を払っている客としてある程度の権利はあるだろうが、大した意味はないだろう。あなたがここを離れた時、データは多分もらえるだろうけど、被リンクは全部失うし、検索エンジンのランキングや多くのユーザーも失うだろう。こういうサービスはあなたが引っ越すその日まではいい条件だと思いやすい。
無料のウェブサービスを使っているなら、あなたは下級市民だ。良くてゲストだ。悪くて乞食だ。ウェブを点々とし、残飯にありつこうとする存在だ。ありきたりだがあえて言おう:「もし対価を払っていないならあなたは客ではなくて商品だ」。あなた個人のアカウントはサービスプロバイダにはほとんど価値がないだろうから、彼らは自分たちの利益のためにサービスをいじったり大々的にサイトを変えたりすることに全く躊躇(ちゅうちょ)しないだろう。嫌ならばどうぞお帰りくださいと言ったところだ。自分のコンテンツやデータは持っていけないかもしれないし、もし持っていけたとしてもあなたのURLは全て壊れているだろう。
ここでの結論は明白のはずだ:もしあなたが自分のサイトのことを本当に大切に思っているなら、自分のドメインを使わないといけない。あなた自身のURLが必要だ。完全に主導権を握ることができ、だれもあなたからあなたのサイトを奪うことはできなくなる。他には誰もいらない。努力すればいずれ報われる 。
だが残念なことに、もはやこんなにシンプルなことではなくなってしまった。
サイトを運営したことのある人なら誰でも知っているだろうが、サイトを作るのとユーザーに見つけてもらうのとは完全に別ものだ。現実世界での立場が小さければ小さいほどこれは難しい。あなたが全国紙やハリウッドスターなら、ユーザーにあなたのサイトに来てもらうのはそう難しいことじゃないだろう。だがもしあなたが自営業の配管工や、空いた時間で記事を書く無名のブロガーなら、これは何倍も難しくなる。
以前はサイトのユーザーは三か所からやってきた:現実世界(広告、名刺、口コミなど)、検索エンジン、そして被リンクだ。あなたがどの分野のどのレベルにいたとしても、公平な条件で似たようなサイトと競争していたわけだ。
だが、ソーシャルネットワークが全てを変えた。ユーザーに新しい情報共有と情報発見のツールを与えることで、今では『Facebook』と『Twitter』が巨大な力を振りかざしている。独立したサイトをリンクと検索エンジンで緩く集めただけの“オープンウェブ”上でこの力を再現することは不可能だ 。
ちょっと昔を振り返ってみると、ブレイク前のバンドは『MySpace』を使わないといけなかった。今ならおそらく『Facebook』を使わないといけない。どちらにせよ、ソーシャルメディア上の存在のほうがあなた自身のサイトより重要なわけだ。
もしあなたが駆け出しのフリーランス写真家なら、何万人もの人に見つけてもらえる、
『Flickr』のようなフォトシェアリングのサイトを使うのは必須だろう。テクノロジーを含む多くの分野の最も価値のある会話は今や『Twitter』上で起こっている。 もしあなたがそこにいないのなら、それはあなたが存在しないのと同じことだ。あなたがまだ駆け出し中なら尚更そうだ。
あなたの分野で重要なソーシャルメディアから背を向け、自分のサイトを自分のドメインで運営することはできる。だが、この“自由”は日に日に“無視される自由” になってきている。“餓死する自由”になってきている。私たちはユーザーに見つけてもらうためにソーシャルメディアを使わなければならない。だがこれを受け入れれば私たちはデジタル世界の農奴と化してしまう。ユーザーに振り向いてもらえる希望を胸に、私たちがツイートするたびに、記事を投稿するたびに、巨大なウェブ会社たちはその力を増す。自由で自営なオープンウェブがこれほどまでに非力に映ったことは未だかつてない。
ソーシャルメディアの王者、『Facebook』がその力を乱用しなければこの事態に頭をなやませる必要などなかったのかもしれない。今週オープングラフ*1 を発表する前から『Facebook』が私たちがのウェブ上の行動全てを把握し、所有したいと考えていたことはそれなりに明白だった。『Facebook』は現在7.5億人のメンバーがいる。もし『Facebook』が国ならば、中国とインドに次いで世界で三番目に人口の多い国になる。アメリカでさえたった3. 12億人の人口しかいない――『Facebook』の半分にも満たない。
『Facebook』のオープングラフを使えば『Facebook』と全く関係ないサイトでも、 そこでユーザーが何をしているかを『Facebook』に伝えることができる。『Facebook』の「いいね!」ボタンをサイトのありとあらゆるアクションにつなげることができる。あなたが音楽サイトで曲を聞けば、このサイトは『Facebook』にあなたが何を聞いているか教えることができる。新聞記事を読めば『Facebook』はあなたが何を読んだか知ることになる。あなたのウェブ上での行動は全て『Facebook』に記録される。そしてこのデータが消えることは絶対にない。『Facebook』はこれを“無摩擦シェアリング”と読んでいる。こう言うとよく聞こえるが、中身は絶対的な諜報(ちょうほう)活動に他ならない。一度登録すれば(現在、参加は任意)“シェア” するために何かする必要はなくなる。“It’s Automatic.”
サイトオーナーや開発者は歓喜している。ホスティング会社のHerokuはオープングラフが発表された次の日にこの驚愕(きょうがく)のツイート*2 を発信した。
ソーシャル開発者たちがすごい勢いだ。この24時間で33800個の新しい『Facebook』アプリが登録された。
そう。たった一日で、たった一つのホスティング会社の客だけで、3万4000個近くの新しい『Facebook』アプリが作られた。驚愕(きょうがく)の数字だ。
オープングラフはまだマシだ。『Facebook』はこの技術については素直なのだから。だが『Facebook』の「いいね!」ボタンを使ったユーザーのプライバシーの侵害*3 はあまり報道されていない。私たちは皆「いいね!」 ボタンのシステムがどういうものかを知った気になっている。どこかのサイトで面白い記事があったので、「いいね!」ボタンを押すわけだ。 そのページへのリンクが私たちの『Facebook』ページに張られ、私たちの友達はそれを見ることができる。 『Facebook』はもちろんこのデータを保管し、広告を売るために役立てる。ここまでは予想通りだ。
ほとんどの人が知らないのが、「いいね!」ボタンが私たちのウェブ上の履歴を記録し続けているということだ。 私たちが「いいね!」ボタンのあるサイトを訪れる度に『Facebook』はこのデータを私たちのアカウントに保存する。 私たちのページに何かがのることはないが、『Facebook』は私たちがウェブ上でどこに行ったかを記録し続ける。しかも、『Facebook』からログアウトしてもこの記録は続く*4。「いいね!」ボタンはもはや一般的なサイトならどこでも組み込んである。サイトを訪れる度に“無摩擦シェアリング”を知らずにしているわけだ。え? こんなのに合意した覚えはないって? いやだなあ、 『Facebook』でアカウントを登録した時点で合意しているんですよ。え? 外すことはできるのかって? 『Facebook』のアカウントを消去しない限りは無理ですよ。
私が線引きをするのはここだ。私は、私たちのネット上での行動の全て、そして現実世界での行動の一部でさえもが記録されていることは百も承知だ。 携帯電話を持っている人ならば位置情報は電話会社に絶えず記録されている。あなたが犯罪の容疑者になったり行方不明になったりしたらこの情報は警察に渡される。多くの人はこのことを知ったうえで携帯電話を持ち歩いている。現金を使わない限り、ものを買うときの取引は銀行やお店に記録されることを私たちは知っている。ネット上での行動がパソコン、そしてプロバイダに記録されていることも私たちは知っている。しかし、これらは容易に予想が付くし、サービスを受けるための必要悪でもあるとも言える。プライバシーの侵害は嫌かもしれないが、代わりに受けるサービスの品質と身の安全は気に入っている。納得して譲歩しているわけだ。
『Facebook』がしていることは根本的に違う。第三者のサイトでの私たちの行動を『Facebook』が記録するときに『Facebook』の存在は全く必要ない。『Facebook』が自身のサービスを運営するためにこのデータは必要ない。それに『Facebook』が私たちの様々なネット上での行動を把握し、記録するのは、電話会社が私たちの電話情報を持つことや銀行が私たちの金融情報を持つこととは根本的に違う。最悪なのは、『Facebook』が私たちのデータをどのようにして集め、使うかは想像に難しいうえに不透明であることだ。『Facebook』の技術や制度はめまぐるしく変化し続けるため、あなたが技術と法律のスペシャリストであり、なおかつ常に『Facebook』の行動を膨大な時間を費やして調べ続けない限りは彼らがあなたのデータをどのように使っているかを理解することなどできない。
私たちは個人としては『Facebook』から手を引くことができる。現代社会でソーシャルメディアなしで充実した生活をすることはまだまだ可能だ。人によって難易度は異なるだろう。『Facebook』上でのみ知らされるイベントへの招待状、『Facebook』にしか共有されない友達の写真、『Twitter』上の会話など、失うものは少なくない。 だが今ならまだ大多数の人には十分な代替案がある。タバコと同じように、始めから吸わないほうがやめるよりも簡単だ。一旦登録したら“友達”が一人増えるたび、 写真を一つのせるたび、一言つぶやくたびに“やめるコスト”は高くなる。だから私は今のところ『Google +』に登録していない。
だが組織や企業はこうはいかない。もうソーシャルメディアを無視できる時代は終わった。ソーシャルメディアを使わない企業は使う競合に対して大きなハンデを背負ってしまう。ソーシャルメディア上にはユーザー同士の注意、会話、そして流れがある。公共や政治関係の機関でさえもソーシャルメディアの重要度が増してきている。必要不可欠になるまではあとどれくらいだろうか。
オープンウェブ*5 の希望は日に日に不透明になってゆく。テクノロジーは存在し続けるだろうし、進化し続けるだろう。自分のドメイン上で自分のサーバーを走らせることも当面の間はできそうだ。だが、本当に意味のあるものはごく少数の巨大なウェブ会社によって支配されるだろう。あなたのアイデンティティはあなた自らが所有するドメイン名ではなく、『Facebook』、『Google』、そして『Twitter』上のアカウントになるだろう。これらの巨大なウェブ会社に私たちは一銭も払っていないのだから、私たちのアイデンティティと全てのデータはいつでも取り上げられてしまうだろう。多くの人の目にとまり、多くの人に使ってもらえるものは『Facebook』、『Google』、そして『Twitter』が私たちに行ってもらいたいものになるだろう。あなたのサイトではあなたがしたいことをすればいいだろうが、多分誰の目にも留まらないだろう。
もし何か答えを見つけることができれば書くが、今のところのぞみは薄い。私たちの知っているウェブの終わりだ。気分は全然良くない。
*1:オープングラフ『Wikipedia』より
http://en.wikipedia.org/wiki/Facebook_Platform#Open_Graph_protocol
*2:@herokuのツイートより
http://twitter.com/#!/heroku/status/117336914079662080
*3:「Facebook ‘Like’ button draws privacy scrutiny」2010年06月02日『CNET NEWS』より
http://news.cnet.com/8301-13578_3-20006532-38.html
*4:「Logging out of Facebook is not enough」2011年09月25日『Nik Cubrilovic』より
http://nikcub.appspot.com/logging-out-of-facebook-is-not-enough
*5:「What is the Open Web?」2010年10月08日『tantek.com』より
http://tantek.com/2010/281/b1/what-is-the-open-web
執筆: この記事はHajime Kenneth Murakamiさんのブログ『not Haruki』からご寄稿いただきました。
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