東村アキコさんの『かくかくしかじか』は、何かをやり遂げたいと思っている人に読んでほしい一冊 ——アノヒトの読書遍歴:大森靖子さん(後編)

東村アキコさんの『かくかくしかじか』は、何かをやり遂げたいと思っている人に読んでほしい一冊 ——アノヒトの読書遍歴:大森靖子さん(後編)

 漫画を中心に、普段からさまざまなジャンルの本を読むという、女性シンガーソングライターの大森靖子さん。最近では「何かを失って気付くこと」というメッセージが含まれた本に感銘を受けたそうです。そんな大森靖子さんに前回に引き続いて、これまでに影響を受けた本についてお伺いしました。

——音楽家として、あるいは作詞家として何か影響を受けた本があればご紹介ください。
「やはり、同じ音楽家でもあるつんくさんがお書きになった『だから、生きる。』という本にはかなりの影響を受けたと思います。ご存知の通りつんくさんは、ハロープロジェクトなどを中心にプロデュースされている音楽プロデューサーでありながら、ご本人も歌手としてシャ乱Qのボーカルを務めていらっしゃいました。この本は、そんなつんくさんが喉頭がんを患い、手術したことをきっかけに書かれた一冊になっています」

——具体的にはどのようなエピソードが描かれているでしょうか。
「本の中でつんくさんは、喉頭がんになったことによってどうしてそうなったかを振り返っているのですが、彼はバンド時代にお酒を飲んだり夜までお仕事詰めたりという生活をずーっとしてきたそうで、そういう生活が悪い状態で出てしまったんだといいます。その後に今の奥さんと出会ってきちんとした食事をするようになったらしいのですが、バンド時代の生活がたたってこういうことになってしまったと。さらに、自分ではのどの異変に気付いていたのに、病院の検査で異変がなかったから安心してしまってのどの状態を悪くなってしまったことをすごい悔いていらっしゃって。そういったことが鮮明に書かれていますね」

——つんくさんは病気になられてご自身と深く向き会うようになられたんですね。
「この本に書かれてあるのはそれだけでありません。つんくさんといえば、『Yeah! めっちゃホリディ』のような、ん!? っと引っかかる歌詞が非常に印象的だと思いますが、そういう言葉も間にすごい入っていて。たとえば、双子が生まれたときに『めっちゃロックや!』って言っているんですよ。双子の生まれたことの何がロックか冷静に考えて全然わからないんですけど。でもそういうのが間には挟まってきて、本にテンポが生まれて非常に読みやすいというか、そこらへんはやっぱり、『あー、つんくさんだな』って思うところもあります」

——音楽関連の本の方が影響を受けやすい感じでしょうか。
「音楽以外からも影響を受けることはあります。たとえば、東村アキコさんの漫画『かくかくしかじか』。この本は、東村さんの美術の予備校時代の恩師である先生が亡くなってしまったことをきっかけに、ペンを握ってそのことを描いたお話。この本を読んでいても思いますが、やはり東村アキコさんはエネルギッシュだし、いろんなものを鮮やかに切り取るというか、ポジティブな方なんだと思います、すごく。なのですごく楽しく読めるんですよ。でも楽しく読めるけど、ぐさぐさとくる表現もたくさんあって。東村さんは美術予備校から美大に行くんですけど、美大に行ってからさぼりまくるんですよね。それでさぼりまくりつつ、『美大に行ったからってなにもならないよ』みたいなことをぐさぐさぐさぐさと表現しているんですよね。『斬る』というか……」

——特に影響を受けたシーンなどあればご紹介ください。
「実は私も予備校行ってから美大に進んでいて。しかも、この本の中に登場する予備校の先生がですね、自分の予備校時代の先生にすごく似ているんですよ。スパルタでとにかく描かせるっていう。私の先生は精神論しか教えてくれなかったんですが、たぶんこの方もパーツの取り方うんぬんとか言ってくれたわけではないと思うんですよ。そういったところが自分と重なるというか。中でも印象に残っているシーンは、先生が最後に『描け!』って言うんですね、一言。とにかく描くことに向き合えってことなんだと思いますが、グサッときますね。私はミュージシャンなんで、私の場合『歌え!』ということになるんでしょうが、もうそれしかないじゃないですか。ひたすらやり続ける、その努力を重ねることしかありません。そういう何かをやり遂げたいと思っているすべての人には絶対読んでほしい作品ですね」

——大森さん、ありがとうございました。

<プロフィール>
大森靖子 おおもりせいこ/1987年、愛媛県生まれ。シンガーソングライター。
武蔵野大学在学中の19歳の時、友人のバンドイベントに人数合わせでライブ出演したことがきっかけで音楽の世界に。そのイベントでは、ギターでライブに参加し、すでに書き留めていた曲を数曲披露。以来、毎月ライブを行うようになった。2014年にメジャーデビュー。楽曲のほとんどの作詞・作曲を手掛ける。

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