『千日の瑠璃』4日目——私は鳥籠だ。(丸山健二小説連載)
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私は鳥籠だ。
もうだいぶ長いこと物置の片隅で挨をかぶっていて、突然出番が訪れた、骨董品に近い烏籠だ。私は丹念に水洗いされたあと小一時間日に干され、午後には生きた烏と生きた昆虫と生きた水を入れられて、二階の窓辺に置かれた。そこからは、輝くことしか知らない湖全体と、どうでもいい町の北側半分と、在るとも無いともいえる現し世の三分の一ほどが鮮やかに見て取れた。そして私は、伝統ある工芸品としての、今ではもうほとんど造られていない漆塗りの和籠としての誇りを、瞬時にして取り戻したのだ。同時に、自分に似合わしい鳥であるかどうかを考えた。
このおよそ百年のあいだに私が受け入れたのは、コマドリとヒガラに限られていた。それこそがまさしく飼い鳥と呼べるものだった。しかしこれは、コマドリでもなければヒガラでもなかった。とはいえ、望みがまったくないというわけではなかった。すべての羽毛がくすんだ色をしているのではなく、翼の一部に、刮目に値する《青》がすっと走っていた。けれども、その青が私の期待通りの広がりを見せてくれるのかということについては、まだ何とも言えなかった。もし青が紺を招かず、紺色が瑠璃色に成長しなかったら、ふたたび百年分の挨にまみれても一向に構わない、と私はそう思った。「一体何者なんだ?」と私はたずねた。鳥は答えず、逃げ出せぬよう肢をもいである蜘蛛を黙って呑みこんだ。
(10・4・火)
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