形骸化しつつある民主党政権の目玉政策“新しい公共”
“新しい公共”……内閣が交代する時、耳慣れない言葉が官房長官の大臣指名の際に聞かれて、「何だろう?」と感じている読者の方もいるかもしれない。
“新しい公共”とは、イギリスの“New Public”をもとにしており、公共サービスを市民自身やNPOが主体となる社会を目指す政策のことを指し、日本では2010年に鳩山由紀夫首相(当時)が施政方針演説にて、国家戦略の柱として取り上げ、担当大臣を置いた。いわば、自民党から政権を奪取した民主党の中でも重点政策の一つとしての扱いをされてきた。
鳩山内閣の後を継いだ菅直人前首相もこの政策を受け継ぎ、2010年参院選のマニフェストでも次のように強調している。
「新しい公共」は、これまで役所の仕事と思われていた「公共」を広く多くの国民が担う、新たな社会づくりの提案です。全ての人が社会に参加し、人を支え、人の役に立つチャンスがある社会。その中で誰もが孤立化することなく、自らの存在を確認し、そして社会の一員として責任を担う。そのような社会の実現をめざして、NPOなど公益的活動の支援、地域への権限移譲、官民の協働関係の構築などを進めていきます。
実際、平成22年度補正予算234億円、平成23年度予算1858億円の計2092億円が、各府省予算として計上されており、2011年6月に新寄付税制とNPO法改正が国会で成立。認定NPO法人、公益財団・社団、学校法人、社会福祉法人等の50%の所得税額控除が実現。認定NPO法人の基準も緩和された。
しかし、現状では特定のNPOの利益には寄与したものの、「多くの国民が公共サービスを担うことで社会に参加する」という“新しい公共”の理念の部分には踏み込まれていない、と言わざるを得ないだろう。
そして、“新しい公共”について討議する“推進会議”は7月20日を最後に開催されていない。
9月に誕生した野田佳彦内閣になってから一か月経過して、次の“推進会議”の予定も決まっていないのが現状だ。
その点を、所管の蓮舫内閣府特命担当大臣に10月4日の定例記者会見で質してみると、
“新しい公共”は確かに目に見えて動いていないというご指摘かもしれませんが、既に会議体での結論はおまとめを頂きまして、公益法人や認定NPOで、国に替わって公器を支える立場というのは変わらないと思っておりますので、この団体同士で連携を取って頂いて、より緊密な新しい公共活動に何が出来るのかという課題の答えを待っているところですので、何かしらまとまったら発表させて頂きたいと考えております。
という、“受け身”の返答だった。
また、民主党の政策調査会に問い合わせてみたところ、昨年の9月29日に発足した『新しい公共調査会』は内閣の交代とともに解散し、党内で“新しい公共”を担当、討議する機関は実質存在しないという。
“新しい公共”推進会議のメンバーで京都造形芸術大学教授の寺脇研氏は電話取材に対して、「菅政権から野田政権に替わって、“新しい公共”の取り組みは明らかに後退している」とし、「寄付税制の見直しや認定NPO法人の緩和だけでは当然充分とはいえない。今後も理念に沿って進めるべき。民主党の政治家にどれだけやる気があるかだ」 と述べた。
政府・党から、積極的な姿勢が消え、今後の行方が不透明な“新しい公共”。
選挙戦時のマニフェストの形骸化を示す、一つの証左ともいえるかもしれない。
※この記事はガジェ通ウェブライターの「ふじいりょう」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営。ネット、メディア、カルチャー情報を中心に各媒体に記事を提供している。
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