『僕だけがいない街』平川監督インタビュー「心に残る作品には同じ様な“良い言葉”が出てくる」

僕だけがいない街

ピザ屋でアルバイトする売れない漫画家・悟は、ある日突然「リバイバル」という特殊な現象に見舞われるように。それは、周囲で悪いことが起きる気配を察すると自動的にその数分前に戻り、事件や事故の原因を取り除くまで何度でも繰り返すというものだった……。

アニメ化もされた三部けい先生の大ヒットコミックを実写化した、映画『僕だけがいない街』が現在大ヒット上映中です。本作でメガホンをとったのは、ドラマ『JIN-仁-』『天皇の料理番』等を手掛けた平川雄一郎監督。本作を実写化するにあたりどの様なアプローチをしたのか、撮影で苦労した所など、色々とお話を伺ってきました。

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平川雄一郎監督

―映画とても楽しく拝見しました。人気コミック『僕だけがいない街』を映画化するにあたり、結末の部分は悩まれたのでは無いでしょうか。

平川監督:映画の制作を開始した頃は原作が完結していませんから、オリジナルの結末を用意しなくてはとスタッフで漠然と、誰しもが共感できる『僕だけがいない街』って何かと考えていました。そして、三部先生から原作の結末のストーリーが書かれたメモをもらって、なるほどコミックはこう終わるのか、と確認して改めて、こちらが考えた結末を提示したら、OKをもらって。なんというんでしょう、懐が広くて暖かい編集部の方と先生だなと思いました。

―原作のここだけは絶対に無くしたくない・変えたくない、と思う所はありましたか?

平川監督:原作がとても良い台詞があります。日常、生活していて忘れてしまいがちな大切な事をポイントポイントで言ってくれていて。原作でリバイバル(再上映)を見た時に読者の人も色々な事を感じたと思うんですが。そこにいた人達が、どういう気持ちで、どういう想いでいるのかというのを分かりやすくする事で、観客の皆さんにも共感して欲しいという思いがありました。

―本作の肝となる「リバイバル(再上映)」という能力ですが、実写で描くにあたって苦労した事はありますか?

平川監督:タイムリープの表現をどうやるのが一番良いのかなというのは考えましたね。脚本を書いた段階と実際に現場に入ってと結構変わりましたね。逆にいうと難しかったのはそこくらいですかね。後は、29歳の青年が10歳に戻るという設定なので、それを演じないといけない子役が必要になるわけで、一人の主人公が過去に行ったり現代に戻ったりしないといけないわけで、少年の悟役には負荷がかかるなとは思いました。

―その、少年の悟を演じた中川翼君の演技、素晴らしかったです。

平川監督:600人ほどが参加したオーディションだったんですけど、「藤原竜也に似ている子を探せ」という所からはじまって、お芝居は未熟でしたが翼君を選びました。10歳の役を演じるのに、翼君はその時9歳で、梨央ちゃんよりも年下で、お芝居の経験も少なくてすごくビビっていました。声も全然出てなくて。でも何度もリハーサルを重ねるうちに、声がいきなり出る様になったんですね。自宅でバランスボールに乗りながら、発声の練習をしたらしいんですけど。実際に撮影が始まってからは、周りが10歳の子ばかりで自分が一つ下の9歳でありながら、一番リーダーシップをとってしっかりしていました。もう本当に中身が29歳の青年である様に見えてきて、子供の成長には驚かされましたね。

―雛月役の鈴木梨央ちゃんの演技も素晴らしかったです。コミックでもそうだったのですが、実写で映像にされると虐待を予想させる描写が痛々しくて辛くなり、それが作品に生きていると思いました。このへんのバランスも大変だったのでは無いでしょうか。

平川監督:原作の方に描かれていた虐待シーンは入れようとしていましたが、最終的には止めました。それを入れる事で、観てもらえる範囲が狭まる現状もありますし、せっかく映画にするのだったら、そのシーンが無くても伝わる様に作らないといけないと思いました。

―藤原さんと有村さんも、普段お2人がやられている役柄とはイメージが違って、でもすごくハマっていましたね。

平川監督:悟は内向的で自分の殻をやぶれないというキャラクターなので、藤原さんには基本的に感情を抑えめの演技でお願いしますと伝えましたし、彼もよく理解してくれていました。有村さんは、原作の愛梨は高校生役ですが、映画では年齢を20代前半に設定しています。「原作よりは子供じゃない、でも快活で前へ前へと行こうとしている」というキャラクターにしたかったし、そこは有村さんも苦労した所だと思います。悟と愛梨はお互いに自分に無いものを補っているという関係性なので、原作でもこの2人をすごく良いなと思ったんですよね。

―現代と18年前のシーンが入り組んでくるわけですが、撮影の仕方で工夫した事はありますか?

平川監督:最初は違う撮り方も考えたのですが、実際にはあまり変えませんでした。現代の18年前というよりも、都会と田舎という大きな差があったので。場所選びとして、様々な人間の思惑であふれている場所という事で原作にも描かれている千葉県・船橋市を都会に、原風景は田舎で無くてはいけないので、懐かしさを感じさせるロケ地にはこだわりました。

―映画の中で、ある漫画に愛梨が元気づけられる、というシーンがありますが、監督がこれまで元気づけられた漫画等の作品はありますか?

平川監督:自分がこれまで関わってきた漫画にはたくさん元気づけられましたね。『ROOKIES (ルーキーズ) 』とかね、すごく良い事書いてあるんですよ。『仁-JIN-』もそう。以前やったドラマ『白夜行』の中で、『風と共に去りぬ』の言葉「重荷はそれを背負える力のある肩にかかる」といった言葉があるのですが、『ROOKIES (ルーキーズ)』にも「試練はそれを乗り越える事ができる奴にしか訪れない」という言葉があって、心に残っている作品には、同じ様な良い言葉がたくさん出て来ますよね。

―『僕だけがいない街』もそんな作品の一つとして、長く愛されていくと思います。今日はどうもありがとうございました!

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

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