リーダーは「嫌われる覚悟」を持っていなきゃいけない【日本バスケットボール協会会長 川淵三郎氏の仕事論】

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川淵三郎 (かわぶち・さぶろう)

1936年大阪府高石市出身。三国丘高から早稲田大に進学。2年生の時、サッカー日本代表に選出。61年古河電工入社。64年東京オリンピックのアルゼンチン戦では同点ゴールを決める。70年に現役引退後、古河電工の監督、日本代表監督を務めながら名古屋支店金属営業部長に。88年から日本サッカーリーグ総務主事としてプロ化に奔走。91年Jリーグ初代チェアマン就任。2002年日本サッカー協会キャプテン(会長)に就任。名誉会長を経て、2012年より日本サッカー協会最高顧問。現在は公立大学法人首都大学東京理事長も務める。2015年5月、日本バスケットボール協会会長に就任。

国際資格停止。

厳しい処分を受けた

日本のバスケットボール界。

その救世主となったのは、

Jリーグの初代チェアマン川淵氏だ。

10年間もめ続けた分裂問題を

半年で解決したリーダーシップとは

言葉に説得力を持たすには、自分で見て自分で調べて、「確信」すること

リーダーに必要なことは「情熱と信念と説得力」。この3つです。そのなかでも一番大事なのが説得力。どんな人にでもきちんと説明し、納得させられなくてはリーダーは務まりません。そのためには理論武装をしておくことがとても大事。でも、理屈を並べたてるだけではだめ。そこには誰もが納得する根拠が伴っていなくてはなりません。

そしてもうひとつ必要なのが、「絶対いける」という確信です。では、どうやって確信を持つか。それは自ら動くこと。自分の目で見て、自分が理解できるまできちんと調べることから確信は生まれます。

日本バスケットボール界の改革もそうでした。2014年、日本のバスケットボール界は、国際バスケットボール連盟から「国際資格停止」という非常に厳しい処分を受けました。チームを企業の福利厚生と位置づける、いわゆる企業チームが中心となっていたNBLと、プロ化して独立したbjリーグが長い間対立していたことが原因です。このままでは2020年の東京オリンピック出場も危うくなる。そんなとき、私の部屋にバスケットボールの関係者が来ましてね。「日本のバスケットボール界を助けてほしい」と言ってきた。自分でいろいろ調べた結果、2つの組織を統合しプロリーグとして健全な運営をするためには問題点が3つあることがわかりました。1つ目は、企業名を外すか外さないか。2つ目はクラブを法人化するべきかどうか。そしてbjリーグ運営会社の債務超過です。

これを解決するためには、リーグを3部に分ける「新リーグ構想」などの大改革が必要でした。そして多くのお客さんを呼ぶためには、アリーナの使用を優先的に認めてもらわなければならない。それには行政サイドの首長の支持を得る必要もある。こんな風にいろいろと構想を練っていたら、「この改革ができるのは、自分しかいない」と確信を持つようになったんです。私はJリーグ設立をはじめとしてさまざまな改革をしてきましたからね。

あるテレビ番組で「リオオリンピックには間に合う」と発言したとき、周りからはすごい自信ですねと言われました。しかし、自分でいろいろと調べて、成功までの筋道を自分なりに考えられたから自信を持って断言できたんです。自信の裏には、経験に基づいた根拠があったんですよ。

実はもうひとつ大事な確信がありました。ひき受ける前、実際にバスケットボールの試合を見て、「これは面白い。プロとして成功する」と感じたんです。こんないい試合ができるくらい実力のあるスポーツなら、お客さんはまた見に来たくなるだろうと。そんな確信があったものですから、「絶対に改革は成功するから、頑張りましょう」とみんなに力強く言うことができました。実際自分で見たことだったから、言葉に説得力が出たのです。やはり、取りかかる前にゆるぎない確信を持っておくことはとても大事なんですね。

私利私欲を捨てて理念があれば、独裁者でもいい

リーダーというのはね、何があっても「負けてもいいから」と言ってはいけないんです。最初から最後まで「絶対できる」と言い続けなくては、リーダー失格です。これは古河電工のサッカー部監督時代に私がやってしまった失敗から得た教訓です。試合前のミーティングでリラックスさせようと「負けてもいいから、いい試合をしてほしい」と言ってしまった。それでみんなガクッときて、大事な試合の前でやる気をなくしてしまったんです。

こんな失敗があって、リーダーは何があっても常に成功を確信していなくてはならないことを学びました。そして、成功にたどり着く道を自分なりに考え、はっきりみんなに示すこと。順番を間違えてはいけません。まず、ゴールをはっきり定めてから、道程を考える。ゴールをしっかりすえていれば、経験が浅くても人を納得させられるような道程を考えることができます。

今回のバスケットボール界の改革では、みんな自分の利害しか考えていないという非常にレベルの低い状態からのスタートでしたから、本来のバスケットボールのあるべき姿、「地域社会に貢献する」という正しい方向性を、まず最初に示す必要があった。そしてそのゴールにたどり着くまでの道程を自分なりに考えて話しました。そして「これに従わない人はこなくていい」と。大事なことを言うときに必要なのは「嫌われてもいい覚悟」です。今回もその覚悟で言いましたよ。相当嫌われましたけど(笑)。

リーダーはいろいろな人から、あることないこと、言われます。いや、“ないことないこと”かな(笑)。サッカー時代は「目立ちたがり」とか「過去の栄光にすがって」とか、本当にいろいろなことを言われました。今回も覚悟していたら、言われなくてびっくりしました。バスケットボールにメディアで取り上げられるほどの人気がなかったんです。覚悟が空回りしましたよ(笑)。

サッカー時代にいろいろな人からひどいことを言われても気にならなかったのは、私に「理念」があったからです。私は、私利私欲を捨てて理念があれば独裁者でもいいと思っています。理念とは「社会に役立つこと」です。理念があればみんなが幸せになれる。だから組織には理念が必要なんです。理念がきちんとあって初めてもうけを出すことを考える。「私利私欲を捨てて」なんて聖人君子みたいなことを言いましたが、私だって人間ですから全く欲がないわけじゃない。でもリーダーは、できるだけ私利私欲を捨てる努力をする。損得は考えない。そして理念を持つ。そうすれば、“よき独裁者”になれますよ(笑)。

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「キャプテン」の愛称で、

多くのサッカーファンから親しまれてきた。

日本サッカーのプロ化を目指し、

Jリーグの初代チェアマンとなったのは

56歳の時。

そのきっかけは、51歳での大きな挫折だった。

51歳の左遷人事が、Jリーグ構想のきっかけになった

サッカーを始めたのは、高校生の時。そこから早稲田大学に進み、日本代表になって東京オリンピックにも出場しました。現役を引退したのは33歳のときです。その後、古河電工のサッカー部の監督となり、会社では金属営業部長としてバリバリ働いていました。

仕事もできたほうだし、得意先からの評価も高かった。出世を考えていたときに、子会社へ出向を命じられたんです。いわゆる左遷人事。51歳でしたから自分の会社員人生も先が見えた気がした。「このままでいいのか?」。そんな思いを抱いているときに、Jリーグの前身にあたる日本サッカーリーグの総務主事にならないかという話がきたんです。そこから再び、私のサッカー人生が始まりました。

当時は、サッカーで食べていける人はほとんどいませんでした。企業の福利厚生の一環としてチームが成り立っていたからです。選手も一般社員と同じように働き、仕事が終わってからサッカーをしていました。私は選手だけではなく、コーチ、フロントなど、サッカーに関わるあらゆる人が、社員としてではなく「サッカーの側で生きる者としてどうなのか」と明確な線が引けるような世界を作りたいと思ったんです。そして理念は、地域で暮らす人々をハッピーにすること。そこで「地域に根差したスポーツクラブ」という核となる理念を掲げて、Jリーグ構想をスタートさせました。

サッカーのプロ化なんて失敗するという声も聞かれましたが、私は失敗したらどうしようなんて考えなかった。「この道しかない」。それだけを考えてずっと突き進んでいったんです。

大事なことは嫌なことでも責任者が言う。それがリーダーの役割

51歳の挫折は、私にいろいろなことを教えてくれました。「大事なことは必ず責任者が言う」ということもこの時の教訓です。実は左遷人事を私に告げたのは、人事の責任者ではありませんでした。当時の直属の上司から聞いたのです。実際に人事を決めた責任者の口から言われなかったことで、私は強い不信感を抱きました。それ以来、言いづらいことであっても、大事なことは責任者が直接会って丁寧に説明するべきだと肝に銘じたのです。もちろん、言うのはつらいですよ。それでも、きちっと言わなくちゃいけない。それがリーダーの役割だからです。

ドイツW杯で、ジーコ・ジャパンが1次リーグで敗退したとき、ジーコ監督が記者会見をしないというので、会長の私が代わって記者会見をしました。ほかの国ではそんなことをする協会の会長はいないとのことでしたが、やはり責任者である私が応援してくださったサポーターの方々にきちんと結果を伝え、謝罪するべきだと考えたからです。しかし、そのとき事件が起こりました。うっかり次の代表監督であるオシムの名前を言ってしまったのです。「オリンピックチームの監督と次の日本代表監督との連携はどうなりますか?」という質問を記者から受けて、反町(反町康治氏、北京オリンピックチームの監督)という名前が出てこなくて、コンマ数秒、頭が真っ白になってしまい、つい、まだ公表してはいけない次の日本代表監督のオシムの名前を言ってしまったんです。

すでにオシムともジェフユナイテッド千葉の淀川社長(淀川隆博氏)ともジーコとも話がついていたのですが、ジェフユナイテッド千葉のサポーターには報告していない段階だったので青くなりました。「責任逃れでオシムの名前を口にしたんだろう」なんて憶測もされました。あの状態でオシムの名前を言って私にメリットがあるわけないでしょう? やっぱりリーダーは、”ないことないこと”言われるんです(笑)。そんなアクシデントもありましたが、日本代表を応援してくれたサポーターの皆さんに、自分の口で結果を報告し謝罪できたことはよかったと思っています。

つらい状況でもくよくよしない。ポジティブに考えると、必ず晴れの日が来る

私は何かを選択しなくてはいけない時、はっきりマルかバツかを言います。サンカクなどとあいまいなことは言わない。かなり決断力があるほうだと思います。でも、結婚前は「あなた優柔不断ね」なんて女房から言われていたから(笑)、20代は違っていたと思う。いろんな経験を積んで決断力がついてきたんです。

自分に向いている仕事がわからないという若い人が多いと聞きます。私は流れに身を任せてみてもいいんじゃないかと思います。私も高校時代にサッカーの日本代表監督になるなんて思ってもみなかった。大きな目的意識もなかった。サッカーだって、高校の時に先輩に誘われていやいや始めたんです。でもやり始めたらサッカーが好きで好きでしょうがなくなって、毎日サッカーに明け暮れていた。そのせいで2浪してしまうのですが、浪人時代にサッカーの試合に出たら「こいつはすごい」と早稲田大学に入ることを後押ししてくれる人が現れた。そこで大学サッカーをやって、いつの間にか日本代表になって東京オリンピックに出て…。いつも先のことなんて何も考えてなかったんですよ。ただその時にやりたいことだけを夢中でやってきただけ。そして浪人という無駄とも思える2年間があったから、今の私がある。人生って本当にわからないんですよ。だから焦らず、なりゆきに任せてもいいと思う。

もちろん常に何かを達成しようと思って努力することは大事ですよ。でも、達成できなくとも、その努力は必ず生きる。達成することより、「達成しようとする過程」が大切なんです。

これは仕事でも同じです。つまらないつまらないと思っていても実りは何もない。つまらなくてもベストを尽くそうと努力する過程が、後に絶対生きてくるんです。流れに身を任せながら、やらなきゃならないことにベストを尽くす。これが大事なんです。

だから、どんなにつらいことがあっても、うまくいかなくても、くよくよしない。マイナスに考えていても何一ついいことはない。常に状況をポジティブに捉えられるかどうかが決め手です。こんなひどい目にあわされて、と他人が思っても、本人がポジティブに考えられれば、必ず物事は好転します。「どんなに雨がひどくても、晴れは必ず来る」と思っていればいい。そうやって物事を常にプラスに考えていると、いい友達ができます。いざというとき、自分を助けてくれる仲間ができる。きっといい人生が送れますよ。

【information】

男子バスケットボールのリオ・オリンピック世界最終予選、7月に迫る

バスケットボール女子日本代表チームは2015年9月、初のアジア選手権2連覇を達成し、リオデジャネイロオリンピック出場を決めた。一方、男子日本代表チームは同10月、リオデジャネイロオリンピックのアジア地区予選を兼ねた第28回FIBA ASIA男子バスケットボール選手権大会で、18年ぶりにベスト4進出。「FIBAオリンピック世界最終予選」の出場権を獲得した。その世界最終予選が、いよいよ7月に迫っている(2016年7月4日~9日、セルビアにて)。40年ぶりのオリンピック出場へ向け、みんなで男子日本代表を応援しよう。

※リクナビNEXT 2015年12月16日「プロ論」記事より転載

EDIT/WRITING高嶋ちほ子 PHOTO栗原克己

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