消えたご当地グルメが地域を変える! 山形県大石田町に伝わる幻の郷土料理「にぎりばっと」とは?
「にぎりばっと」
みなさんはこの名称を聞いて、一体どんなものをイメージするでしょうか?
握り、バット。握った、バット。バットを、握る……。この名称を説明するとき、「野球で使うバットのことではありませんよ〜」と冗談交じりに話すのが、もはや地元ではお約束です。
あまりに怪奇的なこの名称は、環境省認定のそばの里”山形県大石田町”に伝わる消えたご当地グルメの名前なのです。そんな消えたご当地グルメが、今地域を変える存在になっているのです。
このままでは故郷が危ない、という危機感が生んだ味
まずはにぎりばっとで地域おこしに取組む団体「大石田元気プロジェクト(通称:OGP)」へ取材を申込み、約束の時間に指定されたお店へ伺ってみると……。
あれ?どこからどう見ても、いたって普通の民家です。
仕方がないのでお店の場所を聞いてみようと玄関へ向かうと、そば店ののれんを発見。そう、ここが地元で唯一にぎりばっとを提供している「そば吉峰」さんでした。
あれ?ここは実家たっだかな……と通された先は、田舎の実家と見間違いそうな広い仏間。このあたりでは、自宅で営業するスタイルのそば店が多いのだそうです。
そこに現れたひとりの青年、こちらが大石田元気プロジェクト代表の高橋さんです。
高橋さんは、ここ大石田町で生まれ育ちました。地元で暮らしていく中で、高齢化と若者の街離れによって人口減少が顕著になっていることに気づいたそうです。
大好きな故郷がなくなってしまうのではないかと危惧した高橋さんは、地域おこしへ取組むために同世代の仲間たちと大石田元気プロジェクトを立ち上げます。
大石田町が全国に誇る「そば」で地域おこしをすることに決めた高橋さんたちですが、実際にどうやって取組むかに悩んだそうです。そんなとき仲間のうちのひとりが、変わった名前のご当地グルメがあったことを思い出したんだとか。それが「にぎりばっと」だったのです。
あまりに怪奇的な名称に探究心がわき、すぐに地元の物知りおばあちゃんを訪ねて作り方を学んだそうです。今ではそのストーリーが、写真のように紙芝居となって地域の子どもたちに伝えられているんだそうですよ。
ご法度(はっと)が訛って「ばっと」に
それでは、実際にそのにぎりばっとを「そば吉峰」店主の星川さんに作って頂きました。
まず、大石田名産のそば粉を水でのばします。通常はお湯でのばすそうですが、水でのばして生地を作った方が、茹でたときに均一に熱が伝わるのだそうです。
少しずつそば粉を入れて作った生地を、今度は打ち粉をつけて茹でます。このときについた握ったあとが、まさににぎりばっとの”にぎり”という名称の由来なんだそうです。
こちらが吉峰さんで提供している、にぎりばっとの汁。醤油ベースの汁に、鶏肉、ごぼう、にんじん、大根、ぶなしめじ、長ねぎが入っています。
「昔は具材が入っていることは珍しく、具なしみそ汁にそば団子を入れただけだったんだそうです」と語る高橋さん。
その昔、そばはお殿様や皇室への献上品でした。庶民は、そばを麺状にして食べることを禁じられていたため、自分たちで収穫したそばを食べるために握って食べたことが、にぎりばっとのルーツなんだとか。つまり、にぎりばっとの”ばっと”とは、ご法度(はっと)が訛って、ばっとと呼ばれるようになったんだそうです。
「東北には”はっと汁”という鍋があるでしょう? 要するに、あれとルーツは同じですね。麺状にして食べることが禁じられていたので、昔はうどんも食べることができなかったんですよ」
店主の星川さんは、手を動かしながらそう語ってくれました。
若者の街離れを食い止めるきっかけになれば
でも、なぜ今、にぎりばっとは吉峰さんのお店でしか食べることができないのでしょうか?
「最初にぎりばっとで地域おこしをしたいって言っても、誰も聞いてくれなかったんです」と高橋さん。
元々にぎりばっとは、そばを麺状にして食べることが禁じられていた時代のものです。庶民が堂々と麺状のそばを食べることができるようになってからは、その姿は消え去っていきました。そのため、消えた郷土料理であるにぎりばっとで地域おこしができるとは信じてくれなかったんだそうです。
それを「若い人たちが頑張っているから」と応援してくれたのが、この吉峰だけだったんだとか。
こちらが吉峰さんで提供している「にぎりばっと(税込500円)」です。冬季限定で提供しているため、秋に収穫した新そばを使用しています。
ひとたび口にすれば、にぎりばっとからの風味高いそばの香りと、鶏肉とごぼうから出たダシが口いっぱいに広がります。これを目当てに、遠くからわざわざ来店するお客様も少なくないというのもうなづけます。
「地域おこしは人づくり」という信念を語る高橋さん。最初はどこも相手にしてくれなかったにぎりばっとですが、現在では全国テレビで取り上げられるまでになりました。
山形県内のグルメイベントに出店して大石田町のPRを続ける一方、地元の子どもたちに地元のそばを伝える活動にも尽力。その甲斐あってか、なんと地元の高校で「そばガールズ」なるチームが結成され、地域や行政と連携して自分たちのそば畑を作るまでになったんだそうです。
若者の街離れを止めたい、そんな思いが実を結びつつあるのです。
「子どもたちが高校を卒業して都会に行っても、大石田に何もないと言ってほしくない。大石田には、全国に誇れるそばがあるんです」と誇らしげに語る高橋さん。今後は県外のグルメイベントへの挑戦や、世界のそば文化にも触れたいという夢も語ってくれました。全国からたくさんの出店依頼をお待ちしています。
ちなみにお店での「にぎりばっと」の提供は、冬季間のみ。まだ間に合う、そばの里・大石田町へ訪れてみてはいかがでしょうか?
問合せ先
大石田元気プロジェクト -OGP-
お店情報
そば吉峰
住所:山形県北村山郡大石田町駒籠116-3
電話:0237-35-4839
営業:11:00〜LO18:00
定休日:水曜日(祝日の場合は営業)
ウェブサイト:http://soba-kippoo.com/
書いた人:
矢口優太
1985年、山形県最上町生まれ。桜美林大学卒業後、家業であるタクシー会社に勤務。新規に旅行代理店・カフェ事業を立ち上げる。東京で大手旅行会社勤務を経て、2013年より念願の音楽業界へ転身。ライブ制作・マネジメントの傍ら、経験を活かしてフリーライターとしても活動。最上ロックフェス主宰も務める。 Twitter:@yuta69nroll
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