「原発復活」を描く小説『コラプティオ』の著者・真山仁が語るリアリティ

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『コラプティオ』の著者・真山仁氏

 ニュースの解説本やビジネス書には実用性があるけど、政治小説や経済小説にエンターテイメント以上の意味ってあるの?――2011年9月8日放送のニコ生トークセッションには、経済小説を得意とする作家の真山仁氏が登場。自身の小説哲学を語った。

 真山氏は、記者・フリーライターを経て、2003年に生命保険会社の破綻危機を描いた 『連鎖破綻ダブルギアリング』(共著)でデビュー。投資家から集めた資金で企業を再建、即売却する「ハゲタカファンド」を扱った2作目『ハゲタカ』(2004年)がNHKでドラマになり、映画化もされたことで注目を集めた。徹底した取材によって築きあげられるリアリティに定評があり、地熱発電をテーマにした『マグマ』(2006年)、原子力発電の『ベイジン』(2008年)などエネルギー問題にも詳しい。この7月には初の政治小説となる『コラプティオ』を上梓したばかりだ。

 『コラプティオ』は、カリスマ総理が日本を建て直すため原子力発電所の輸出産業化を目指すというストーリー。原発というテーマのタイムリーさで注目を集めているが、『別冊文藝春秋』で連載が始まったのは2010年2月と、実は震災の1年以上前。最終回の入稿日が震災から3日後の3月14日だった。単行本にするにあたっては、リアリティを追及するために東日本大震災後という設定を追加し、原稿用紙約500枚分の修正をしたという。真山氏はその理由をこう語る。

「今回の震災と事故で原発の輸出という話が簡単にできなくなってしまった。それを乗り越えるのか、震災を無視するのか、あるいは少し先にはこうなるのではないかという提示ができるかがポイントだったのですが、あえて一番難しい道を選んだ。何年か経つと世界はまた原子力発電を推進しようとするかも知れない。それをニュースやノンフィクションでやるのは非常に難しいけれど、小説なら『こういう社会も1つの可能性でしょ』とできる」

“反原発”の声が強まる中、原発問題から「逃げる」という道もあったが、あえて正面から取り組むことで、作品にさらなる深みと説得力が出て来た。

■どうしてリアリティにこだわるのか

 しかし、これは「原発をこうすべきだ」というメッセージではない。真山氏は小説を書くということについて、

「私はできれば、書いている側と読んでいる人たちでコミュニケーションをしたい。小説は別に啓蒙書ではないし、教科書でもない。『こういう考え方もできるんじゃないでしょうか』、あるいは『こういう風にあれば良いけど、なかなか世の中そうはいかないですよね』ということは小説だからこそ踏み込める」

と述べる。根底にあるのは、「本を閉じたときに色々なことを考えられる小説が素晴らしい小説」という信念だ。

「読んでいて気持ちが良い小説と、こんな風に展開してほしくないのにという小説があると思うんですが、あえてこの作品は、読んでいる方の期待をどんどん裏切っていく。格好良く言うと『突き放したいな』と。それはどうしてかと言うと、今の日本の社会の中で、私たちが幸せになる処方箋はなくて、考えることが大切だと思うから」

 政治の問題、リーダーシップの問題、国民の問題、原発の問題――現実の日本社会について考えるためには、フィクションを支える土台部分のリアリティは欠くことができない。ここに真山作品を貫く「リアリティの哲学」の源泉がありそうだ。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「真山氏の小説哲学」部分から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv62381554?po=news&ref=news#0:07:10

(野吟りん)

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