震災から5年…… 福島の光と影を描いたドキュメンタリーアニメ試写会レポート
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まもなく震災から5年。復興のニュースも聞かれる中、福島の現状についての情報は徐々に聞かれなくなる一方。ポジティブな情報もあれば、ネガティブな話も聞かれ、何が本当なのかよくわからないという印象だ。大丈夫なのかもしれないけど『福島』と聞くとなんとなく敬遠してしまう、という人も少なくないのではないだろうか。
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福島県は震災から5年の現状を伝えるべく、県内のさまざまな実話に基づいたオムニバス形式のドキュメンタリーアニメーション『みらいへの手紙~この道の途中から~』を作成。2月15日、秋葉原UDXシアターで開催された試写会に参加した。
“風評”と”風化”に悩む、今の福島から
試写に際し、福島県知事の内堀雅雄氏、話題の広告を数多く手がけ、福島県クリエイティブディレクターを務める箭内道彦氏(福島県郡山市出身)、福島に拠点を構えている福島ガイナックスの代表取締役、浅尾芳宜氏(福島県福島市出身)が登場。
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内堀氏は冒頭で「今の福島はどういう状況なのかと聞かれた時、私は光と影、明るい部分とまだまだ厳しい部分が混ざり合っているよ、という話をする。ただ、光と影が混ざり合っているということはすごく伝えづらいこと。悪い評判”風評”と、消えていくこと”風化”は矛盾することだが、それが同時に起きているのが今の福島。この状況を全国の皆さんにどう伝えたらいいのか。ずっと悩んでいた」と語った。
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そこで、箭内氏と浅尾氏に相談したところ「アニメのドキュメンタリーを作っては」というアイディアから、箭内氏が県内で起きた出来事や思いのエピソードを集め、浅尾氏がアニメ制作を指揮した。
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箭内氏は、試写の前に「見て感動しました、嬉しかったというだけではないと想像している。自分もその境遇がわかるという人もいれば、全く逆の道を選んだという人もいると思う。この作品を見て、誤解が理解に変わるきっかけになれば嬉しい。『あの日を忘れない』という言葉がよく使われるが、今を知ることが風化に対抗する大きな手立てになると思う」と語る。
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浅尾氏は、今の今まで寝ずに制作にかかっていたと発言。「他のアニメ作品とは違い、見て楽しんでもらって完結、というものではない。見て考えてもらう、感じてもらうきっかけになれば。僕らにも、答えの見つからない問題は見つからない。答えがないものは答えがないまま作品にしている。10本のエピソードを見終わった時、初めて完成するものがあると思う」と、挨拶を締めくくった。
福島県のほとんどの地域は日常を暮らしている
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アニメの1話はわずか2分。それぞれに絵柄も、内容も違うストーリーが数珠つなぎになり、福島のさまざまなシーンを映し出す。エピソードのタイトルコールは松井愛莉氏。ストーリーテラーは『五代さま』で大ブレイクしたディーン・フジオカ氏が担当。ふたりとも福島出身だ。
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自分の選択に悩む女性。生徒との再開まで髪を切らないと決めた先生。ガレキに絵を描き、ボランティア活動をした学生たち。港に暮らす海鳥や、ジャーナリスト、たった一人で小学校を卒業した女の子……。
誰もが頭のなかでつぶやいている、自分だけの気持ちがあると思うが、それぞれのエピソードの主人公たちの心のつぶやきを、2分間ごとに聞いているような親近感を持った。
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内堀県知事はじめ、登壇者が異口同音に語ったことがひとつ。それは「10本のエピソードは、福島の代表ではない。福島県民198万人それぞれに違った思いがあるはず。十人十色、百人百様の複雑な思いを象徴する10本だ」ということ。何によらず、”福島”とひとくくりにしがちなところがあるが、一口に福島と言っても、一人ひとりの生き方、考え方、感じ方が違うのだということを改めて実感した。
試写を終えて、箭内氏は「一枚のCDアルバムを聞いているような感じ。短い尺でいろんなことが伝わるアニメのすごさを実感した。福島県ほとんどの地域は、日常を暮らしている。その大きな前提のもと、光と影があることを全国のひとに知ってもらいたい。福島の被害の少なかった地域の人にも見てもらえると違う見方をしてもらえるのでは」と述べた。”福島=原発事故”ではなく、そうでないエリアの人たちが今も普通に生活しているという、当たり前の事実も、改めて知っておきたいことだと思う。
試写を終えて、タイトルコールを担当した松井愛莉氏、第3エピソード『ガレキに花を咲かせよう』の監督を務めた川尻将由氏、第2エピソードの『あたしの先生』のモデルとなった大関幸治教諭が登場。
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松井氏は第8エピソード『いるだけなんだけど』のタイトルコールで、福島弁ならではの独特の訛りを披露。「ネイティブでないとできない訛り」と、知事はじめ全員がその発音を絶賛。
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アニメについては「色んな角度から今の福島の今を見ることができた。第4エピソードで『カツオカンバック』の中で大好きな(いわき)マリンタワーが写っている。先日、帰省した時にも行ったのですごく嬉しかった。」と笑顔を見せた。『カツオカンバック』は、小名浜港をテーマにした作品。港に集う海鳥たちのつぶやきと、漁船の勢いのある動きが印象的な楽しいエピソードだ。
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川尻氏が監督を務めた第3エピソード『ガレキに花を咲かせよう』は、ガレキに絵を描くボランティア活動を題材にしたもの。生徒たちが戸惑いながらも活動に参加し、やりがいや喜びを感じて成長する姿に心打たれる。「スタッフ含め、自分たちが高校時代ボランティアは、恥ずかしさやてらいがあったので積極的にやってこなかった。ボランティアに取り組む学生の姿をテーマにした時、学生だった頃の目線も含めて作成した」と語る。
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川尻氏は取材を通じて「モデルになった学生たちは、普通の子達だけど考え方がしっかりしていたのが印象的。ボランティア活動などを通して精神的に成長のが垣間見えた。ちゃんと作らなきゃな、という気持ちになった」とも述べた。
内堀知事も「ガレキって本当に灰色で、僕らの気持ちを落ち込ませているグレーだった。それを全く逆の、明るいものに変えていく大きなムーブメントだった。本当に心に明かりが点ったようだった」と当時を振り返った。
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第2エピソード『あたしの先生』には、髪を伸ばし続ける男性教師が登場。そのモデルとなった大関幸治教諭は「あんなに黒髪のサラサラヘアーでアニメになるとは思わなかった」と笑った。
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大関氏はこの日もポニーテール姿で「一番長い時は腰まであった。震災が会った時、双葉高校の生徒と約束したエピソードがアニメになっている。その後、一番最初に担任した生徒たちと、一度いわき市で会う機会があった」と話した。
現実の厳しさを伝えることは正しいか
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最後に福島第一原発のカットが盛り込まれる、特にシリアスな第9エピソードについて、浅尾氏は「今回はいろんなメッセージがいろんな視点で盛り込んである。9話の言葉に入っている言葉の、最後の『正しいのか間違っているのかを思い続けている』というのは僕の言葉でもある。最後のシーンは、実際に僕が現場で録音した音を使っている。実際に歩いてみて、それでも伝えたいものって何かと考えた時に、10本それぞれの思いを伝えたいな、と思った」と話した。
エピソードの間には、箭内氏が手がけた福島復興ソング『I love you & I need you ふくしま』が流れる。それに関して箭内氏は「あの歌は福島で2011年にたくさん歌われた歌。でも今の歌にしたかったし、今回はあえて歌詞がない歌を使った。まだメッセージが強すぎるんじゃないかな?と、郷土愛を押し付けているような気がして、ルルルのハミングバージョンを追加した。僕にとっても9通目は重い手紙」と述べた。
箭内氏はさらに「福島元気だよ、つらいよ、そんな単純なことじゃない。そこを丁寧に描きたかった。この10本が誰かを傷つけていないか、余計なことを言っていないかが気にかかる」とも話す。
ありのままの事実こそが正しいのか、そうでないのか。まだ答えの出ない問題も多い中、制作側も伝えることの難しさを痛感しながら作り上げた10本だったことが伺えた。
ここから5年、10年……未来に続く物語
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震災関連の報道やドキュメンタリーについて「思い出すから見たくない」とか「どうしても暗い気持ちになってしまう」という人もいる。試写会を終えて、アニメだから表現できたことや、受け止められる内容がたくさんある10本だった。もし、これがリアルなドキュメンタリーだったら、途中で動揺してしまったり、泣きそうになったりして苦しくなったかもしれない。アニメなので、小さい子供から大人まで幅広く見ることができるのも良いと思った。
内堀氏は「見終わってあらためて途中だな、と感じた。1本1本のアニメが完結しているわけじゃない。ひとつの物語は句読点。区切りは付いているが、これから先がある。アニメが完結した瞬間、すでに主人公たちは未来に向かって動き出している。アニメはいい意味での過去形にしたい」と締めくくった。
浅尾氏も「何かがハッピーエンドで終わりということでなく、抱えていかなくてはいけない。新たに心を入れ替えて、ここからステップに踏み出さないと行けないという意味で、どのエピソードも完結させていない」と、知事と同じくこれからの福島への想いを込めた。
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震災からまもなく5年。『みらいへの手紙~この道の途中から~』は、特設Webサイトと福島県公式『YouTube』で視聴可能。今後、大阪、名古屋、福岡、札幌、沖縄など全国での試写会を予定している。
ふくしまの思いを伝える短編アニメ 『みらいへの手紙』公式サイト
http://miraitegami.jp/?utm_source=press&utm_medium=banner&utm_campaign=201601 [リンク]
(アニメ画像は主催者提供)
(写真は筆者撮影)
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