民主党・代表候補者が討論会で質問ぶつけ合う 一問一答要旨

民主党の「代表選挙候補者討論会」で握手を交わす候補者たち

 民主党代表選挙に立候補した、前原誠司前外相、馬淵澄夫前国交相、海江田万里経産相、野田佳彦財務相、鹿野道彦農水相の5名が2011年8月28日、民主党の主催する「代表選挙候補者討論会」に出席し、改めてそれぞれの主張を述べた。討論会の後半には各候補者が、ほかの4人の候補者に対しそれぞれ質問を投げかけ、それに答える方式がとられた。

 野田氏は「復興の基本方針、復興基本法、社会保障と税の一体改革の成案を守るのか」、鹿野氏は「政権を担うことの重さをどう認識しているのか」、前原氏は「大臣・副大臣を経験し、できたこととできなかったことは何か」、馬淵氏は「原発事故に対する、より踏み込んだ国の責任について」、海江田氏は「円高対策、デフレ対策についての具体的施策」という質問を、ほかの候補者たちに投げかけた。

 以下、各候補者の質問と、それに対する4人の候補者の返答要旨(質問・回答順)。

■野田佳彦氏からの質問「復興基本法、社会保障と税の一体改革の成案を守るのか」

野田佳彦氏

 復興の基本方針、復興基本法がそれぞれ閣議決定した。しかし償還の期間を伸ばす考えの方、国債も復興債と違う発行の仕方を考える方がいる。復興の基本方針、特に復興基本法は三党合意踏まえ対応したもの。それを守るのか守らないのか。加えて、社会保障と税の一体改革の成案。どなたも反対はしていないと思うが、この成案の中に税制の抜本改革をまとめて、23年度末に法案を提出すると入っている。この成案を守るのかどうか。

鹿野道彦氏の回答

 社会保障と税の一体改革は、党と内閣の間でまとめられた。来年の3月までに法整備をしなければならない。その際は合意した中身を見ても、経済の好転が条件になっているので、その合意に基づいた法の整備をやる。また復興の基本方針の考え方は大事にしていく。しかし、同時に復興や原発事故の対応は遅れをとってはならない。そのため新しい体制の下で、遅れにつながらないか、支障をきたさないか、検証していかなければならない。

前原誠司氏の回答

 社会保障と税の一体改革は、政府と与党で決めたものなので、しっかりと守って実行していく。復興の基本方針は尊重する。しかし大震災や原発の影響で当該地域が疲弊しているだけでなく、風評被害などで農業・産業・観光等がダメージを受けている。そうした状況では、1年目から増税するのか慎重に判断すべき。1年、2年は増税によらず、しっかりと財源を担保し、復興の中身を着実に実現していくなかで、機動的に対応していく。

馬淵澄夫氏の回答

 復興基本法第8条は、短期間での償還や増税を明示したものではない。将来の社会資本となるものについては、複数の世代間での負担含め、ある程度の期間を制限されるものではないと理解。むしろ国民全員が複数世代間で請け負う気持ちで取り組むべき。社会保障と税の一体改革について、消費税の引き上げは2010年代半ばまでで、一定の余裕がある。今年度末までの法整備は、経済好転という前提があり、これは十分に満たされていない。

海江田万里氏の回答

 復興の財源は、従来の国債とは別勘定で区分し発行することで構わない。ただ、実際の復旧・復興のなかでは、建設国債を充てるものが多々ある。建設国債を充てられないものは、財源をしっかり考える。増税だけではなく、無駄な資産を有効活用することなど含めて手当てをごく短期間で行う。社会保障と税の一体改革については、基本的に消費税を財源で行うことは致し方ないと思っている。実際の増税の時期は慎重に選ばなければならない。

■鹿野道彦氏からの質問「政権を担うことの重さについて」

鹿野道彦氏

 この2年間、民主党が政権を担ってきた。しかし、こうやって代表選挙を行わなければいけない。なぜか。反省した上で、次の2年に向かって進んでいかなければならない。政権を担うということは、どんなに苦しいことか。どんなに我慢しなければならないことか。4名の候補者の方々の、政権を担う、責任を果たしていく上で、「政権の重さ」というものを、どう認識しているかお聞きしたい。

前原誠司氏の回答

 野党の時は、与党を攻めることがわれわれの仕事の中心だった。もちろん提案もしてきた。与党になると、実現していく、成果を出すことが大変重要になる。自民党政権の中で戦略が放置されていた。それを変えるという理念で、子ども手当や農家への戸別補償など政策を訴えた。2年経ち、どう結果を出すのか。英知を絞り、マニフェストの理念は尊重しながらも、検証を加える中で、成果を出し、国民に評価してもらうプロセスが必要になる。

馬淵澄夫氏の回答

 政権運営の重さとは、私たちが国民に具体的な成果を示すこと。2年間の政権運営の反省に立たなければならない。議論なき決断、実行に至らない決断はなかったか。具体的には行政、霞が関をマネジメントしながら動かすことが求められている。真の政治主導とは、政治家が結果責任を負うことであり、官僚の仕事を取ることではない。成果を出すことを率先し、新総理は予算成立などの区切りごとに成果の道筋を国民へ示さなければならない。

海江田万里氏の回答

 政権を担うのは大変重い意味がある。その重い意味・責務を果たすためには、まず民主党が一つになること、そして政府と党が一つになることが大切。特に原発問題では、(党の)プロジェクトチームが大変良いリポートを作った。政府がその中身を受け止め、原発事故の収束に向けて具体的に活かすことが大切だ。ほかの政策についても、それぞれの党のチームが大変有意義な政策を出しており、政府側がもっと受け止める必要がある。

野田佳彦氏の回答

 2年前の政権交代から、3人目の代表選びとなった。今回がラストチャンス、民主党としての背水の陣だ。残り2年間かけて、国民に「政権交代してよかった」と思っていただけるかどうか。歴史的な評価になるか、歴史的な汚点になるかの瀬戸際。絶対に挙党態勢で仕事をしていかなければならない。同志の皆さんが危機感を持たないと政権運営はできない。そういう崖っぷち。皆で力を合わせ、「政権交代してよかった」という仕事をしよう。

■前原誠司氏からの質問「大臣・副大臣として、できたこと・できなかったこと」

前原誠司氏

 4人の候補者の方々は1年以上、大臣・副大臣を経験されている。自分が大臣・副大臣として主体的に関わったことで、できたこと、できなかったことを一つずつ述べていただきたい。

馬淵澄夫氏(前国土交通大臣・副大臣)の回答

 副大臣時代は公共事業削減を実現した。建設部門での予算削減、徹底的な見直し。できなかったことは高速道路の無料化で、十分な財源を確保できず社会実験規模として不十分。大臣時代は4カ月間だが、八ッ場ダムの問題収束の道筋をつける、予算編成過程での交付金・剰余金など業界団体に関わる問題を収束させた。できなかったことは海上警察権の見直し。尖閣問題に関する私が問責を受けた原因をしっかり止める手立てが打てなかった。

海江田万里(経済産業大臣)の回答

 できたことは、厳しい原子力の事故の中で、一つの収束の方向に向かった足取りを歩み始めたこと。ただ同時に、原子炉建屋が水素爆発した結果、大量の放射性物質が飛散した。その健康面の管理、除染などがまだできていない。原子力行政に関しては、保安員の分離を早くから主張しており、そういう方向に動いていく。しかし経産省の改革、エネルギーの問題、資源エネルギー庁のあり方については、これから検討しなければいけない。

野田佳彦(財務大臣・前副大臣)氏の回答

 2年間で6回予算編成を経験した。特に財源確保は苦労した。税収が落ち込むなか、マニフェストの主要事項を実現するため、限界の中で財源を確保しながら着実に実施してきた。昨年の臨時国会における補正予算は10年ぶりに新規国債を発行せず。第一次補正、第二次補正も新規国債を発行しない苦しい予算編成。子どもたちの将来世代に借金を残さない工夫はしてきた。トータルで見ればマニフェストで約束した財源の見合いができなかった。

鹿野道彦氏(農林水産大臣)の回答

 包括的経済連携を関係閣僚と一体になって取りまとめられた。昨年の臨時国会では6次産業化の法案を成立。6次産業化を通して、地域の活力ある社会を作っていきたい。また口蹄疫と鳥インフルエンザを防止するため、家伝法(家畜伝染病予防法)の改正が必要で、野党の協力もあり成し遂げられた。震災後は予算補正、稲わら対策などに取り組み、第1次産業の実態・実情という生の声を聞き、スピード感を持って懸命に取り組んでいる。

■馬淵澄夫氏からの質問「原子力災害の国の責任について」

馬淵澄夫氏

 原子力災害、原発事故収束における国の責任について伺いたい。国策から国責へ。国の責任でこの原発被害者に対処していくべきでないか。子どもの健康、除染、土壌の処理は率先して国が行うべきである。最終責任は国が負うということに対してどう思われるか。また、原賠法(原子力損害賠償法)や原子力賠償支援機構法、さらには原子力部門の切り離し、そして国有化、東電の救済スキームの見直しを検討すべきだと考えているが、より踏み込んだ国の責任についてどう考えているか。

海江田万里氏の回答

 原賠法の見直しは、政府が出した法律に対して、衆参で修正が行われた。修正のポイントは、国がもっと前に出るべきということが一番主要な点ではないかと思う。その意味では修正を経て、国が前に出る体制は出来上がったと思っている。そして原賠法そのものは、だいぶ古くなっており、一日も早く全面的な見直しを行うべき。廃炉に向けた法律の整備は、事故が起きた炉を廃炉にする法律がないので、国が責任をもっていく法律を作るべき。

野田佳彦氏の回答

 賠償については現行のスキームを基本とする。事業者の責任があるが、その賠償に万全を期すために国が支えていくことが大事。原子力政策については、国として推し進めてきたということがある。したがって、国が責任をもって収束させる。その中で法的な不備があるという指摘があったが、法律だけではなく条約もある。国際協力を得るための条約に不備があり、どの条約が必要か選択していくことは、国が前面に出ていかなければいけない。

鹿野道彦氏の回答

 賠償については、新たな枠組みができた。基本的には東電が責任を負うが、それができないなら当然、国が前面に出て責任を負う。国有化の問題は、これからの電気事業はどういう形がいいのか、エネルギー政策全体として考えていかなければならない。重要な検討課題として、新たな内閣で取り組むという考え方である。原発事故収束に向けては、相当な予算措置が求められるが、国が責任を持ち、地域住民を守っていくことが一番大切。

前原誠司氏の回答

 原子力災害については、国が責任を負って対応していくべき。特に除染、線量モニタリングは回数箇所を増やし、地下水対策はもっと力を入れて抜本的にやり直さなければいけない。原賠法や東電の救済スキームの見直しは、今後のエネルギー供給体制に大きく関わる問題。私が代表になったら「エネルギー電力臨調」を作り、有識者や電力会社含めステークホルダーも併せて、今後の日本のエネルギーや電力供給のあり方を議論し、成案を得る。

■海江田万里氏からの質問「円高・デフレ対策について」

海江田万里氏

 最近の急激な円高対策と、長いデフレ克服のための経済政策について、それぞれの候補がどんな考えを持っているのか。できるだけ具体的に詳しくお聞かせいただきたい。

野田佳彦氏の回答

 円高対策は、海外へ企業が逃避する形を避ける方策もあるが、むしろ円高メリットを活かして海外に(企業が)雄飛する策も必要。1000億ドルの外為特会(外国為替資金特別会計)の活用を決めたが、この状況が続くならば(23年度予算の)予備費で対応する。そして第三次補正予算は円高・経済対策を入れる。企業の立地補助金と同じような拡充や中小企業の金融支援なども必要だ。デフレの問題は、大震災からの復興需要を満たしながら環境が変わると思っている。ピンチからチャンスに変えていく、そういうデフレ対策を講じる余地がある。

鹿野道彦氏の回答

 円高はドル安とユーロ安から来ている。欧米との連携の中で、経済運営を考えることが一つ。日銀のさらなる金融緩和も、連携をとって考えていかなければならない。今までの施策にとらわれることなく、「やれる可能性のあるものは思い切ってやっていこう」と政治判断することが、最も今求められている。そして地域経済にとっては、6次産業化が大きな活力を生み出すきっかけとなる。これをいかに早く定着させるか。再生可能エネルギー、分散型エネルギーを地域にしっかり結びつければ、そこに新たな所得や雇用が生まれる可能性がある。

前原誠司氏の回答

 外為特会の活用は否定しない。だが外為特会はドルで持っているので、為替の円高についてはニュートラル。公的資金で国債を持っている。例えば、この国債の一定割合を売り、日銀が引き受ける。そして円を外貨に替えて海外の優良資産などを買えば、行き過ぎた円高を抑制する効果、介入と同じ効果を生むことになる。円をどう活用するかが大事。デフレ対策は3年間をデフレ脱却の集中期間として、財政出動、金融緩和を思い切ってやる。従来型の公共事業ではなく、真に必要なところや将来の成長につながるところに先行投資していく。

馬淵澄夫氏の回答

 円高とデフレを切り離して議論することがそもそも違う。わが国のマネタリーベース(中央銀行の資金供給量)の停滞が円高を生み、マネタリーベースの停滞がデフレを表している。2001~06年まで量的緩和をやったと言いながらも、15年間デフレが続いている最大の要因は、不十分だったからだ。当時行った中央銀行の長期国債買いオペは、残存期間が1年未満の短期国債買いオペと変わらない行動だった。こうした中央銀行の行動に対して、政府は厳しく政策目標の一致を求めるべき。量的緩和イコール円高対策に直接通じる手立てだ。

(土井大輔、岩本義和、三好尚紀、山下真史)

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 各候補者の質問部分から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv61472869?po=news&ref=news#54:00

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