『俳優 亀岡拓次』横浜聡子監督インタビュー「人って人生の30年か40年くらい妄想に時間を費やしている」
人気俳優・安田顕さんが「見た事あるけど名前が出てこない」売れっ子脇役俳優“亀岡拓次”に挑んだ映画『俳優 亀岡拓次』。クスっと笑えて心があったまる、と現在大ヒット上映中です。
監督を務めたのは、独自の世界観で映画ファンの支持を得る横浜聡子。2009年、松山ケンイチ主演の長編『ウルトラミラクルラブストーリー』で商業映画デビュー後、意欲的に作品を発表しています。亀岡の“人間の筋”を見つけるのに最初は苦労し、その後は亀岡の人間らしさに気付いたという横浜監督。映画について色々とお話を伺ってきました。
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―映画とっても楽しく拝見させていただきました。これが現実なのか、亀岡の夢なのか分からないシーンがいくつかありますが、それらがとても美しくて。
横浜監督:ありがとうございます。寝ているときの夢って、朝起きたときに、その人に影響することって結構あるじゃないですか。明らかに、その人の現実に影響を及ぼしてしまう。そういう意味では、夢と現実って切り離せないものだろうと思いますね。
人って人生の30年か40年くらい、妄想に時間を費やしているんじゃないかと。常に頭のなかで何かを考えているわけで。そういうことを考えると、人の頭の中で考えていることも現実じゃないとは言いきれないと思うので。いつも、自分の映画のなかでは、現実と非現実に優劣つけずに同時に並べちゃう感じ、あります。
―“妄想”。今伺って気付きましたが、この作品を現す言葉の一つかもしれませんね。
横浜監督:私自身、もともと妄想好きなので(笑)、妄想を大事に生きています。人間って、何かにおいて「こっちが正しい、こっちが絶対的なものだ」と優劣をつけがちで。そこは、自分の映画を作るときはできるだけ、排除しようとしているかもしれないですね。
―先日、安田顕さんにお話を伺って、監督に「亀岡は動物です。何も考えず反射的に反応してください」と言われた事が印象深かったとおっしゃっていました。「亀岡拓次」というキャラクターをどう演出したか、改めて教えていただけますか?
横浜監督:亀岡拓次は朴訥で、強烈な欲望もないですし、その都度その都度、女にモテたいとか、酒飲みたいとか、そういうちっちゃい欲はあるけど、映画の主人公としての最終的な目標みたいなことはあまりない人間です。
過去に私が作った作品の主人公たちは、自分なりの“筋”が通ってる人たちだったんですよ。周りからどんなに変なヤツと言われようとも。私はこうである! という行動原理が結構ハッキリしてたんですけど。亀岡には、それを見つけるのにちょっと苦労したんです。
―なるほど。確かに、横浜監督のこれまでの作品の主人公とはかなりタイプが異なりますよね。
横浜監督:でも途中で、「眠ること、酒を飲むこと、スケベであること」この3要素が、亀岡が生きる上での“人生の筋”なのだということを見つけて。この3原則をちゃんと撮れば、亀岡拓次は絶対魅力的になると思いました。特に明確な欲望がなかったとしても、この人は行動派なんでしょうね、酒飲んで、吐いて、小便して、寝て、これだけで充分立派じゃないかと。
―それが生きてるという事であり、人間らしいと。
横浜監督:なんでしょうね。何か悟っている境地にいっちゃってるようにも見えなくもない。亀岡は同じこと延々、死ぬまで繰り返すんだろうなって。そして、凹まない。例えば『男はつらいよ』の寅さんも、フラれたと思ったら、次のカットで小便したりとかしてるじゃないですか。そんな感じで、亀岡も結構コロッと切り替えるんですよね。悲しい気持ちをそんなに引きずらない。
―だから亀岡って「観てるとなんか分かんないけど元気出る」のかもしれませんね。
横浜監督:まさに小市民ですね。酒飲んで、恋して、それだけで生きてる、と言ったら少し語弊がありますけど。人間ってそれで充分じゃないかと思うんですよね。
―本日は楽しいお話をどうもありがとうございました。
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