映画『レオン完全版』に学ぶ、視界が広がるセリフ――人生を変えた映画の言葉

映画『レオン完全版』に学ぶ、視界が広がるセリフ――人生を変えた映画の言葉

たった一本の映画が人生を変えてしまうことがあります。そんな「運命の映画」には、必ず「刺さるセリフ」があるものです。

映像、音楽、衣装など、総合芸術と呼ばれる映画にはたくさんの見どころがあります。中でも私たちの胸を強く打つのが、登場人物たちが語るセリフ。悩んだとき、落ち込んだとき、人生に足踏みしてるとき。たった一本の映画の、たった一言が、その後の自分を大きく揺さぶることがあるのです。そんな「運命的な映画のセリフ」を、筆者の独断と偏見でお届けするこのコーナー。

今回ご紹介するセリフは、誰もが「ジャン・レノみたいになりたい」と憧れたリュック・ベッソン監督の代表作『レオン完全版』(1996年)から。今いる世界の狭さに気づいていなかった自分は、この言葉のおかげでパーッと視界が開けたのでした。

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(C)1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN

殺し屋に「なるしかなかった」レオン

舞台はニューヨーク。心に孤独を抱える寡黙な男レオン(ジャン・レノ)は、世話人から受ける依頼を忠実にこなすスゴ腕の殺し屋。ある日、彼がひっそり暮らすアパートの隣室で、子供を含む一家が皆殺しにされます。たまたま外出していて難を逃れた一家の娘マチルダ(ナタリー・ポートマン)は、涙ながらに「隣人」に救いを求め、ドアをそっと開いたレオンにかくまわれます。こうしてまだ12歳の可憐な少女と、文字も読めない中年男の殺し屋による、奇妙な共同生活が始まるのですが……。

この『レオン』という作品は、22分の未公開シーンを追加した「完全版」の存在が知られています。完全版ではレオンが殺し屋に「なるしかなかった」悲しい過去が描かれ、クライマックスにさらなる深みを増す物語となっています。そんなレオンの生い立ちは本編を観ていただくとして、ここで注目したいのはレオンが心を閉ざしてしまっていること。人と深く関わらない、もう誰も愛さない。ただただ受けた「仕事」を遂行するだけの日々。しかしマチルダとのひょんな出会いが、彼の心の中を少しずつ溶かしていくのです。

レオンを揺さぶったマチルダの言葉

住みかに危険が及ぶとき、いつでも安全な場所に移れるよう、荷物は常に必要最小限に留めているレオン。ところが、どこへ行くにも必ず手放さないものがあります。それは観葉植物アグラオマネの鉢植え。レオンはこの鉢植えを「最高の友」と呼び、自分自身を重ねあわせて自嘲気味に語ります。

「無口だからいい。俺と同じで、根がない」

生きるか死ぬかの世界で生きるレオンにとって、かけがえのない親友である鉢植え。しかし聡明な少女マチルダはレオンを諭すように、こんな言葉をかけるのでした。

「大地に植えれば根を張るわ」

本当の友達だと思うなら、公園にでも植えかえてあげればいいのよ。そうすれば根っこは生えてくるわ。マチルダの言葉をレオンはこのとき、さらりとかわしますが、のちに彼の心に深く刻まれることになります。愛する家族もいない根無し草、ただの殺し屋にすぎないと見下げていた自分の人生を、レオンは少女の一言によって見直すことになるのです。

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世界には大地が広がっている

懸命に生きているはずのその場所が、実は狭い世界であることに、なかなか自分では気づけないものです。まさにレオンが自分に重ねたアグラオマネも、観葉植物としては十分に美しくとも、実は小さな鉢植えの中に留まっていて、広い大地に根を張ればもっと大きく育つことを知りません。たとえ知っていたとしても、小さな鉢から飛び出せないでいるのです。

皆さんも狭い世界に閉じこもっていませんか。孤独を感じて、自分の居場所を息苦しく感じていませんか。でも大丈夫、実際の世界は小さな鉢植えのように閉じてはいません。ふと足元に目をやれば、果てしない大地が広がっています。どんな過去があろうとも、どんなに今がつらくとも、人生は自らの手で「植えかえる」ことができるのです。

果たしてレオンは変われたのでしょうか。大地に根を張り、人を愛せるようになったのでしょうか。その結末はぜひ、ご自身の目で確かめてみてください。

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(C)1994 GAUMONT/LES FILMS DU DAUPHIN

※今回、取り上げたセリフは当該シーンの字幕を元にしています。原文の解釈や表現できる文字数の違いから、吹き替え版とは若干異なります。

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文:松岡厚志

1978年生まれ、ライター。デザイン会社ハイモジモジ代表。ヨットハーバーや廃墟になったプールなど、場所にこだわった映画の野外上映会を主催していた経験あり。日がな一日映画を観られた生活に戻りたい、育児中の父。

イラスト:Mazzo Kattusi

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