「孫さんに3つくらい合意します」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(5)

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再びプレゼンを行う孫正義氏

 ソフトバンクの孫正義社長とグロービス代表の堀義人氏が2011年8月5日の夜、公開討論会を行った。日本のエネルギー政策に関するディスカッションで堀氏は、「もう一度原発事故が起こったら終わり」「東西の電力網を繋げられないのは問題」「国はきちんとした情報開示を」の3点について「孫さんに合意する」と語った。

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http://live.nicovideo.jp/watch/lv58739430?po=news&ref=news#2:00:29

 以下、孫氏と堀氏のやりとりを全文、書き起こして紹介する。

「『政商』と言われるのは心外だ」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(4)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw97228

■「原発イコール安定的な電力源だと思い込むのは危険」

孫正義氏(以下、孫): 僕はさっきのプレゼンの中にもあったように、そもそも原子力ってどのくらい必要なんだろうと。「原子力ミニマム論」だと(話した)。原子力がないと、どうしても停電します、安定供給できないという量がね、本当にどのくらいなんだろう。これをちゃんと精査すべきだと。少なくとも僕が経産省だ、何とか省だという専門のところから出てる白書だなんだというのを漁ってみた範囲で、それをグラフとして見てみたら、「何だ。原子力なくても実は足りてるではないか」と。ただし電力会社ごと、いま仰ったように東北電力では3%しか余力がなかった。でも東京電力では20%も今日は余力があったわけですね。

 ですから本当は、「いやいや、でもギリギリのところを東京から助けてもらって何とか持ちました」というんではなくて、本当は送電網がちゃんと繋がっているのが当たり前で。ヨーロッパでは国外同士ですら繋がっているのに、国内の中で関所があるということがむしろおかしくて、これをちゃんと繋げば実は十分な余力が全国的に見ればあるんじゃないの? ということをきっちり数字を精査して出してほしい。これをやらないのは、それこそ政府の怠慢だ。経産の怠慢だということを僕は申し上げたい。

 安定供給は僕も必要だということは全面賛成です。電力不足でブラックアウトしていいというわけじゃない。停電して計画停電だなんだ、突然の停電で病院が電気止まったらそれこそ大問題になるというのは私もまったく同感です。ですから電気の安定供給は必要です。でも、原発に本当に頼って、原発イコール安定的な電力源だと思い込むのも実は危険じゃないですかと。つまり今まさに議論されているように、再稼働がいつ何基どこで起きるか分からないですよね。私にも分からない、あなたにも分からない。総理ですら分からない・・・。

堀義人氏(以下、堀): いや、総理は分かってると思いますよ。

: いやいや、分かんないと思います。誰でも分かんない。だってそれぞれの県の県知事がそれなりの権限を持ってるでしょ?

: まぁそうですね。

: それぞれの住民にいろんな権利があるわけです。ですから中央の政府が言ったって、それぞれの地方の政府が合意しないと今回は進まないということは、いろんな面で見えてきた。つまり再稼働が起きないと、原発はゼロになるかもしれないということが現実問題としてあるわけです。その上さらに、仮に無理やり再稼働を慌ててやったとしても、もう一発どこかで(原発の)爆発が起きたならば、今度は問答無用で議論無用で国民は「もういい加減にしてくれ」と(言う)。「ストレステストを信じて『再稼働OK』と言っちゃった」と。その上でさらにもう一発どこか起きちゃった。問答無用でサドンデスですよ。問答無用で国民の議論は一瞬でバーンとふれますよ、その時は。だってストレステストで大丈夫と言ったから信じて再稼働を渋々認めた。そのストレステストって実はものすごいある意味怖くて、「ストレステストを通ったから再稼働みんなOK!」「今度は十分精査しました。だからOKだ」、「お墨付いた。ワーッ!」と再稼働して、その上であと一発起きたら、もう今度はストレステストそのものが信じられない。

: 私もそれはまったく同感です。

: そうするとサドンデスですよ。僕が電力会社の経営者だったら、そういうサドンデスが起きた時に、突然責められても困る。だから余剰な容量を別途保険の意味でも作っておかなきゃいけない。そもそも今回の春までのところで再稼働何基できるかという保証がどこにもない。慌てて今とにかく全速力で火力(発電)なり何なりで、もちろん自然エネルギーは急には間に合わない。だから天然ガス、LNGコンバインド、そういうようなやつを含めて、あと自家発電も頼み込んで、何とか容量を確保しなきゃいけない。保険の意味で。今までは容量が足りないから原発はもう設備投資が終わっちゃったやつだから使わなきゃ損だ、と。今度は新たに余力をもう一度保険の意味でも作った。作ったなら今度はそっちも使わないともったいないじゃないか。どっちも使わなきゃもったいないとなった時、さてどっち使いますか。より安心できるほうを使いますか。それともサドンデスの危険性があるほうを使いますか。

: 孫さんに合意、3つくらいします。

: ありがとうございます。

: 反対ばかりじゃなく。

: 3つ前進!

会場: (笑いが起こる)

■「今日はくたばるまで行くぞ!」

「(国内で)東西の電力網を繋げられないというのは問題」

: 1つ目が(原発事故が)「もう一回あったらもう終わり」です。もうダメですね。

: でしょ? それは御用学者と言われてる人ですら、さすがに合意せざるを得ない。もう一発あったらこれは専門家といえど誰と言えども、問答無用だ。

: 2つ目は「東西の電力網を繋げられない」というのは問題ですね。本当に。

: ありがとうございます! これは大問題だ。(堀氏との)意見が一致したから。だいたい東西で50MHz、60MHz(に分かれていること)がけしからん。なんという関所を設けてるんだ。

: まぁ、ただ一方では日本の場合は電力は海外から買えないですからね。現時点では。将来的には繋がるかもしれませんが。そういった意味でもその・・・。

: 国内だって、直流のケーブルをいろいろ繋ぐとか、いろんな方法があると思うんですよ。そういうことをきちっと努力してこなかったことがそもそも問題で、せめて東は東の中でしっかりと送電線の系統が、もうちょっと細い糸電話みたいなやつじゃなくて、もうちょっとぶちっと繋がって、十分に融通がきき合うという状況になってないとダメだし。東西で分かれている最後の関所ですら、もうちょっと太いものにしないといけない。

: あと3つ目は、経産省を含めた「きちんと情報を開示して国民に対して説明」というのは、是非ともやってほしいと思うし、そうでなければ信頼感が高まらない。今、現地福島に行って感じることは、もう政府の言うことが信頼されないんですね、悲しいことに。信頼関係だから、それが出来あがらないと基本的に安心が得られないわけですね。そういった意味でも信頼回復に向けた努力というのは、これはやらなければならないです。あと「ミニマム論」と聞いて僕は安心したんですが、すぐに止めようというわけではなくて「順番だ」という風に仰ってた。順番が違っていただけと思うんですが、これは意見の違いがあっていいと思う。その他にもまたおうかがいしたいのが、残りの8割に関して言うと、ミニマムで、石炭とかそういったものをこのまま継続的に続けるというのが孫さんの考えという理解でよろしいですか。

: ちょっとそのことは今からプレゼンの残りのページが何ページかありますので。

: どうぞどうぞ。いいですよ、

: ではお許しが出たので。

会場: (笑いが起こる)

: いやいや。僕にもあとで少し(時間を)くださいね。

: この後もちろん議論をちゃんと、トコトンやります。今日はくたばるまで行くぞ!

会場: (笑いが起こる)

: ははは。

■「コンバインドサイクルは腹を決めるだけでできる」

孫氏が示した富山新港火力発電所の例

: 今まさに質問のあった点です。石炭火力(発電)や何だというのをこれから使い続けますかということです。私は一刻も早く石炭火力は、LNGのコンバインドサイクル(発電)とかそういうものに置き換えるべきだと思います。

 これを置き換えるとどうなるか。富山の新港火力発電所の事例で、ここが石炭火力の古い火力(発電)のものから、最新式の新しい天然ガスのコンバインドサイクルのものに置き換えた。置き換えたら同じ場所で発電容量がどのくらいになったか。1.6倍になりました。これは新しいものを作る時、環境アセスメントの手続きがものすごい大変なんですね。これが時間が掛かってる。だからまったく新しい原野に作るということになると、環境アセスメントだけで何年間もかかって手続きがものすごく大変だが、今すでに火力発電をやっている所、ただでさえ石炭で何かいろいろ煙を吐いている。それでも一応作ろうかと合意して作ったところ、それよりも少ないCO2で済むという天然ガスのコンバインド(発電)に置き換えるということであれば、環境アセスメントの手続きはかなり圧縮できるんじゃないか。場所もある、送電の系統も繋がっている。ここで置き換えるとどうなるか。発電容量が1.6倍に増えます。

 これをもし、いま現在の日本にあるすべての石炭火力の発電所を、この最新式の天然ガスのコンバインドサイクルに置き換えたならば、全国の石炭火力の場所が1.6倍の発電容量に増える。そうすると、その増加分だけで原発20基分あります。原発20基分。いま日本は原発16基で今日現在の我々の日常生活を過ごしています。16基で「少し苦しい」と。では「20基にしてあげましょう」と。でも20基分をLNG(液化天然ガス)のガスコンバインドでやりましょう。そうしたら、今よりも少し余裕のある電力が、原発ゼロでも、もしかしたらいけるのではないですかと。

 これをやるのにいったい何年かかりますか。環境アセスメントの手続きが、こういう緊急事態、国難の時ですから、お役所の方々も普段言っている長ったらしい手続きではなくて、実質的な手続きに圧縮しましょうということでやれば、これはかなり早くいけるのではないか。この機械は売るほどあると。新しく発明する必要はない、売るほどある。いくらでも売っている。金だけ出せば買えます。これは現実的な短期的な答えの1つではないかという風に思います。

 その時にCO2がどのくらい増えるかということですが、CO2は減ります。いま現在、日本で使っている石炭と、CO2(排出量)ゼロの原子力、両方を足して2.3億トンのCO2を吐き出しています。これを、石炭部分をLNGガスコンバインドに切り替えて原発ゼロにしても、CO2は20%削減できる。どこかの総理が20%くらい削減しようかと(言っていたが)、これだけで(20%削減まで)いくのではないかというぐらい。これは画期的ではないか。2~3年以内に解決できる短期的解決策として、僕は画期的だという風に思います。これは別に僕が言った説ではなくて、こういうことを最近唱えている専門家の方も何人も出てきています。そういうことを新たな発明をしなくても、売っているものを買ってきて置くだけで、腹を決めるだけでできるのではないか。

■「なぜそれでも自然エネルギーにこだわるのか」

「中長期で見ればやはり自然エネルギー」

: では、私がなぜそれでも自然エネルギーにこだわるのかということを申し上げます。これは、原発の事故が起きて、10日目、11日目に私がツイッターでつぶやいた内容です。「私は臆病者です。福島原発を心配しています。だから、東京を出て福島に向かっています。(避難所の人々をもっと安心安全な所に)」。これは福島に向かう車の中で、僕がツイートしたやつです。ガイガーカウンターがピーピーアラーム音を鳴らしていました。刻々と数値が上がっていきます。その時に僕が書いた。それは、私が臆病なのは、心配して福島にいる避難所の方々を1日も早く1キロでも遠くに避難してもらいたいということを、直接1人でも2人でも説得しに行くために、原発から一番近いところの避難所の1つを探して、そこに言いに行った。

 その時に僕は、こんな恐ろしいもの(原子力発電所)、やはり僕は少なくとも議論に加わってこなかったと。原発は安全なものだと信じ込んでいたという中で、自分が無関心でいたことに対する深い反省と、せめて何かここから先、過去は反省するとして自分に何かできることはないかといって自然エネルギーで。つまり「原発反対、反対」とただ言うだけでは、何ら解決策を提供せずに、ただ感情的に「反対」と言ってもいけないから、解決策の一つとして、かといってCO2も巻き散らすわけにいかないから、「中長期で見ればやはり自然エネルギーではないか」という風に思い立ったということです。これはもう1つのツイートですけど、「子ども達のために何とかしなければいけないのではないか」。特に子どもたちは影響が大きい。「勇み足かもしれない。馬鹿な思い込みかもしれない。しかし、危険な原発だらけの現状を何とかするには誰かが(自然エネの事業を起こさねば)」。僕が銭金のために私事の利益のために、本業が利益の伸びが止まってしまったとか、だからこれ(自然エネルギー財団)をやらなければならないんだなんて、そんなことの目的で僕は言っているのではないと心底思っているのですが。

 誰かが、ただ「自然エネルギーが良い」と言うだけではなくて、誰かが「原発は嫌だ」と言うだけではなくて、具体的、代わりの解決策を唱えて、僕は評論家では無いから唱えるだけではなくて一具現者の1人として、せめて「きっかけ作り」くらいのモデルケースはやらなければいけないと。それが一事業家の僕の責務だという風に思ったわけです。僕の理論は、先ほどから言っている様に「脱原発」でもなくて「減原発」でもなくて「ストレステストが通ったらオールOK論者」でもなくて。僕は「原発ミニマム論者」です。誰かが勝手に決めたストレステストのハードル。それ以上点数が良ければ、勝手に付けた点数で85点以上は全部OK。だって、その85点とは誰が決めたのですか。

 そんなものよりは、本当に足りない電力とはどれぐらいだろう、「500万キロワットか?」と。だったら「原発5基分だけはしょうがないから許容しようよ」と。3年間はLNGガスのコンバインドシステムが出来ないというなら、3年間だけ5基だけ、しょうがないから1番新しくてピカピカで、ヒビが入っていなくて地震の巣から遠い所で、そのミニマムのやつを使いましょうと。その2年か3年、代替手段ができるまで。安定的な電力提供というのは、私は絶対に必要だとそれは思っています。10年、20年先の自然エネルギーだけに全部を頼れと、それも無茶だというのは分かっています。でも中長期のことを考えたら、やはりそれもやっておかなければいけないではないかということで、短期的解決策としてはCO2の削減のためにも石炭をやめよう、LNGだ。

■「1キロワット当たり1円の補償で命は取り返せない」

: でもLNGですら、今から5年、10年、20年すればどんどんコストが上がる。その時に慌てふためいても手遅れになる。だから自然エネルギーは若干時間がかかるから、今から一生懸命種をまきましょう。種をまいている間は、若干だけ今の1キロワット当たり23円とか24円に対して、40円前後、日本は2倍弱。ヨーロッパでは6倍とか10倍で自然エネルギーの促進をしているわけです。それは、今から10年、20年経ったら、絶対にそっちのほうが安くなる。今から10年、20年経ったら化石燃料は高くなるということを理解して、長期的戦略に基づいて国家戦略として促進をしているのが欧米で40数カ国ある。それが私の「原発ミニマム論」で、「自然エネルギー論」。

「人間の命はお金に換算できないのでは」と孫氏は語った。

 これ最後ですけども、何よりも事故のコストが1キロワット当たり1円なのか2円なのかと言うけども、それは補償費とか云々の話を言っているわけで。人間の命は1キロワット当たり1円補償したから(といって)人間の命を取り返せますか。人間の命はお金に換算できないのではないか。堀さんは「100ミリシーベルト未満は大丈夫だ」と思っておられるかもしれないけど、それは堀さんが思い込む勝手な一つの説…いや立派な説と。「勝手」と言いましたけど、堀さんの信じられる、確信される「100ミリ未満はOKだ」という立派なご説だと。でも、僕はそうでないという説の人もいるので、そうでないという説の人に対してもやはり配慮をすべきだと。もしかして、そうでないという説の人の方が、結果20年後に正しかったといった時に、20年後に「我が子の命を取り戻してくれ」、「返してくれ」と言われたって、それはお金に換算できない。それは、一家庭当たり1カ月当たり200円とか400円とかいう議論ではない。コーヒー1杯分、2杯分かと、200円か400円か、もうその議論はどっちでも良い程度だろう。コーヒー1杯分か2杯分のために、我が子の命を汚して良いのかと。我が国の土地を汚して良いのかと、我が国の土地を汚して鉄を安く売りたい。それを「売国奴」と言わずして何と言うのだ。国の安全を売っているのではないか、大概にせいと。私はどこかのじい様方に申し上げたい。

: 分かりました。ありがとうございます。

会場: (拍手が起こる)

「素人だけど私は私で信じることを一生懸命言う」 孫正義×堀義人 対談全文書き起こし(6)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw97484

(協力・書き起こし.com

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 孫氏の「国内に(電力の)関所があることがおかしい」から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv58739430?po=news&ref=news#2:00:29
・孫正義氏プレゼン資料(PDF)
http://webcast.softbank.co.jp/ja/pdf/tokotong/20110805_01.pdf

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