第5回:TOKYO ARTBOOK FAIR ディレクター 中島佑介氏(前編)

第5回:TOKYO ARTBOOK FAIR ディレクター 中島佑介氏(前編)

今年で第7回を迎えるTOKYO ART BOOK FAIR。会場の京都造形芸術大学は澄み渡る快晴の中、多くの本好き、アート好きで溢れかえり、幸福な空気に包まれていました。今年から共同ディレクターに就任された中島佑介さんにお話を伺いました。

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アジア最大のアートブック

―もの凄い人数ですね。

お天気がよいこともあり、今年は今まで以上に多いですね。カタログを8千部用意していたのですが、2日目の昨日時点で全部はけそうになり、慌ててストップして、今日の分を確保したほどです。恐らく3日間で1万5千人になると思います。出展者数は今年は300組になります。お陰さまでアジア最大のアートブッックフェアにまで成長しました。

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―今年から中島さんがディレクターに就任されて、大きく変わった点は。

今まではビジネスとして出版をしているブックメーカーと個人の活動と区別無く全て平等に扱ってきました。でも、やはりそれぞれ目指している方向、アートフェスに期待するものが違いますよね。
ですので、混在させるよりも分けたほうが良いのではないかと考えました。

その考え方で今年から一つ増やしたのがインターナショナルセクションです。そこは国際的にビジネスを展開しようとしている出版社を集め、彼らがプレゼンテーションができる部屋を用意しました。

GUEST COUNTRY

もうひとつはGUEST COUNTRY。毎年一つの国を決めて、その国特有の出版文化を紹介していきます。今年はスイスです。スイスに”Most Beautiful Swiss Book”という本のデザイン賞があるのですが、その受賞作を持ってきて展示しています。

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それとスイスの本のデザインについて歴史的なところから現在まで包括できる冊子を作ろう、ということでこのタブロイド版を作成しました。
内容としては、86年に書かれた「スイスの本のデザインについて」という評論の転載やMost beautiful Swiss Bookの選考委員の寄稿、それと今のスイス出版界を牽引しているデザイナー、出版社の方々に「スイスの本の特徴とは何か」「あなたが考える美しい本の具体的な例」をそれぞれ質問して回答を寄せていただいたものなど、スイスのデザインの現場がよく理解できる作りになっていてとても面白いです。英語版タブロイドと日本語訳と2冊です。

更に「Rollo Press」というスイスの出版社によるZINE。これはヤン・チヒョルト賞といって、日本でいう亀倉雄策賞のようなデザイン賞を受賞したRollo Pressを主宰するウルス・レーニーというデザイナーにお願いして作ってもらいました。

―凄いですね。この3冊を制作するだけでも大変だったでしょう。

出来上がったのが前日でしたね(笑)。
更に今年からは本の面白さを体感してもらえるような企画展も試みていて、オランダのイルマ・ボームという女性のデザイナーが手がけた本を展示しています。

―かなり忙しいですね。

スタッフからは「ディレクターが変わって今年はなんだかすっごく大変だった。」とぼやかれています(笑)

ON SUNDAYSでの経験

―中島さん自身のことと、お店”POST”のことを聞かせてください。
まず、最初に書店に興味を持ったきっかけを教えてください。

元々アートや建築など文化的なものに興味がありました。学生時代から、将来お店をやろうと思っていたのですが、書店ならそういった文化的なもの全てを扱うことができるし、自分が飽きることがないなと思ったのがきっかけです。

それで最初は街の普通の本屋さんでアルバイトしていたのですが、やはり美術書を扱っているお店で勉強したいと思い、大学2年の秋から神宮前のON SUNDAYSさんで働き始めました。本当はその近くにあるSHELFさんでアルバイトさせてもらえないかと思って訪れたのですが、あんまり「アルバイトさせてください。」と気軽に言える雰囲気ではなく、結局言えずに(笑)。その帰り道にたまたまON SUNDAYSさんを見つけて「スタッフ募集」の張り紙があったので、ほんと偶然ですね。

自分としてはここで働かせてもらったことが、その後自分でお店を開く上でもの凄く勉強になりました。セレクトが良い意味で偏っているというか、元々ギャラリーがオーナーであることもあり、現代美術でも前衛的なものが多かったり、他で扱っていないアーティストブックなどもあったりしたので、美術に関してしっかりと学ぶことができました。

―それは良い経験を積むことができましたね。

アルバイトを始めたときから、いまのオーナーである和多利恵津子さんには「大学卒業したら本屋をやろうと思っているんです。」と言ったら「今どき本屋をやりたいなんて、珍しいわね。」と返されて(笑)。でも、ずっとやりたいことだったので。大学卒業とともに活動を開始しました。

less is More=limArt

―最初からお店は開けたのですか。

最初はヨーロッパに行きました。現地にはまだまだ自分が知らないアーティストの作品が沢山あるだろうと思ったので。一ヶ月程滞在して、いろいろ買って帰ってきてウェブサイトを作って売り始めたんです。その後恩人で感覚的にも影響を受けている澄敬一さん、池尻で「push me pull you」を経営していた方なのですが、その方が内装の仕事をした早稲田のラ・ガルリ・デ・ナカムラというギャラリーを紹介してくれて、そこでテンポラリーショップということでお店をはじめることになりました。大学を卒業した年の秋です。

―お店の名前limArtの由来を教えてください。

limArtは廣田という大学の先輩にあたる女性と二人で始めたのですが、彼女と自分は建築家のミースファンデルローエのシンプルなデザインのものが好きで、そういう価値観を名前にしたいと思いました。ミースの言葉で”Less is More. 削ぎ落とされた物こそ豊かだ”から頭文字L・I・Mをとり、それにArtをつけてlimArtという造語を作りました。

通常の書店ですと本が多く積み重なっていたりするのですが、本を手に取って開くという体験そのもの、環境も含めて体感してもらいたかったので、インテリア込みで見せていき、家具も販売するお店にしました。

―どんな方々がお客さんとして来てましたか。

一番良く覚えてるのはアートディレクターの有山達也さんです。オープンしたその日、一番最初来てくれて、「わっ、こんなに買ってくれる人がいるんだ!」という位、たくさん購入されたのです。他にもデザイナーの方やコレクターの方が結構口コミできてくださいました。場所も早稲田ということで、ひっきりなしにお客さんが来られるということではなく、わざわざ目指して来てくれる方が多かったです。

<プロフィール>

中島佑介

1981年生まれ、長野県出身。株式会社リムアート代表取締役

学生時代にワタリウム美術館の『onSundays』にて古書について学ぶ。
卒業後の2002年、共同経営者の廣田佐知子とともに早稲田の『ラ・ガルリ・デ・ナカムラ』内に古書&インテリアショップ『limArt』をオープン、のちに恵比寿に移転。
2010年12月には代々木VILLAGE内に『limArt』の姉妹店にあたる『POST』をオープン。
『limArt』では現代美術の企画展示と古書の取扱いに特化し、
『POST』では、海外の出版社にフォーカスを当てた書籍を取扱い、定期的に出版社ごと商品を入れ替えるという独自のラインナップを展開。
2013年より恵比寿の『limArt』に『POST』を統合。
2015年よりTHE TOKYO ART BOOK FAIRの共同ディレクターに就任。

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