映画『さようなら』石黒浩博士インタビュー「アンドロイドがいる将来はこんな感じだろう」

石黒浩

世界初となる、人間とアンドロイドが共演をする映画『さようなら』が現在公開中。劇団・青年団を主宰し、日本を代表する劇作家・平田オリザとロボット研究の世界的な第一人者である石黒浩(大阪大学大学院教授・ATR石黒浩特別研究室室長)が共同で進める、人間とアンドロイドが舞台上で共演した画期的な演劇プロジェクトを映画化した作品です。

本作でアンドロイドを監修したのが、大阪大学教授・ATR石黒浩特別研究室室長の石黒浩さん。『ロボットとは何か』など多数の著書を発表し、マツコデラックスさんそっくりのアンドロイドを作り話題となった、テレビ番組『マツコとマツコ』にも出演しました。

今回ガジェット通信では石黒浩先生にインタビューを敢行。映画について、アンドロイドについて、色々とお話を伺ってきました。

石黒浩

―映画を拝見して、これが元々15分の舞台だったという事がまず驚きなのですが、そもそもの平田オリザさんとの出会いはどんなきっかけだったのでしょうか。

石黒博士:僕の研究っていうのは元々、アンドロイドをどこまで人間に近づけることができるのかというのがテーマです。人を見て“人間らしい”と思うのはなぜなのか。それを一番知っているのは劇作家であると考え、平田オリザさんにお話を伺おうと思ったんです。

平田オリザ先生の舞台って面白くて、精神論とか一切無くて、人をロボットの様に扱うんですね。何cm前に来いとか、動けとか。役者も「ロボットと同じ様に使われている!」と気付くわけですよ。それが面白かったですけどね。

―ロボットと俳優を同じ様に扱う、すごいですね。

石黒博士:僕達が、平田先生が自分でロボットを操作することができるプログラムを作ったんですね。人間に指示を出すと、その指示を聞き、理解するまでに少しだけ時間があるわけですが、アンドロイドはミスをしないんですよ。だから、稽古も最初はアンドロイドに指示を打ち込む分、役者さんの待ち時間がありますけど、それが逆転してくるんです。アンドロイドはミスしないですから。

―私は勝手に、「舞台や演劇は文系」という印象があったので、意外です。

石黒博士:文系・理系っていうのは、自分が決めつけているのであって、全く分ける必要が無いと思うんですよね。僕だって研究の発表をする際に論文を書くわけですから、それって言わば文系の力じゃないですか。理系・文系って決めつけるのは、「私は文系なんでこれ出来ません」って自らに限界を設けている様なものですよね。だから、うちの学生には絶対言うなと言ってるんです。自分の可能性を半分にするなと。

―おっしゃるとおりですね……肝に銘じます。今回の映画化に至って、演劇と差別化した事はありますか?

石黒博士:特に無いと思います・私がしたことはアンドロイドを提供しただけです。ただ、演劇では、もっと瞬きや相槌などの人間らしい動きを多くし、もっと人間に近づけようとしますが、平田先生に「そこまで人間っぽくなくて良い」と言われました。演劇の「さようなら」は少し遠くで見ると本物の人間の様に見えます.その点、映画の場合はカメラが寄ることでかなり接近してレオナを見ることができるので、なるべく人間らしくした方がいいのだと思います.

―なるほど。そもそもなのですが、映画化するという事には驚きはありませんでしたか?

石黒博士:もともとが素晴らしい作品だったので、当然あり得ると思っていました.ただ映画版を見て,これはCGで描いたアンドロイドが出てくる映画などとは全く違うなと思ったんですよね。CGでアンドロイドを描くと、綺麗なのですが同時に非現実的な感じがします.リアリティが無いんですよ。『さようなら』が描くのは、本当にアンドロイドが将来いたらこんな感じだろうという事なんです。ハリウッドのCGだらけの映画よりも遥かに臨場感のある映像になっていたなと思いますね。

―石黒先生は映画を結構ご覧になるのですね。

石黒博士:好きですよ。僕は飛行機に乗る回数が多いので、機内で時々映画は観ます。でもちゃんと観ているわけじゃなくて、“ながら”が好きなので、仕事しながら映像技術だけ観るという感じですね。

―最近映像技術ですごいなと感じた作品はありましたでしょうか?

石黒博士:ハリウッドの映像技術はもう似たりよったりですよね。だからこそ『さようなら』が良かったのは、CGに頼らず本物のアンドロイドが演じてみせたという事ですよ。今の映画って、CGを使い過ぎていて、全然リアリティが無い。ストーリーなんてすごく単純で,もうドンパチやっていればそれで良いのだという感じですよね。でも、そんな映画だけ観てるとバカになるぞと(笑)。だから、こういう『さようなら』の様な映画も観なさいと、伝えたいですね。

―『さようなら』は個人的にもとても感銘を受けた作品ですので、先生のおっしゃる事に共感します。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

【動画】アンドロイド“ジェミノイドF”が映画を語る!/Talks about the movie Japanese Android“Geminoid F”
https://www.youtube.com/watch?v=NSpozPSsqrY

石黒浩

『さようなら』ストーリー

原子力発電施設の爆発によって国土の大半が放射性物質に汚染され、政府が「棄国」を宣言した近未来の日本。国民が次々と国外へ避難していく中、外国人の難民ターニャと、幼いころから病弱なターニャをサポートするアンドロイドのレオナは、避難優先順位下位のために取り残される。多くの人が消えていくなか、やがてターニャとレオナは最期の時を迎える。

【関連記事】『さようなら』深田晃司監督&新井浩文インタビュー「人間の“人間らしさ”とは何なのか」
https://getnews.jp/archives/1263793 [リンク]

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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