『さようなら』深田晃司監督&新井浩文インタビュー「人間の“人間らしさ”とは何なのか」

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世界初となる、人間とアンドロイドが共演をする映画『さようなら』が、20日より公開中。劇団・青年団を主宰し、日本を代表する劇作家・平田オリザとロボット研究の世界的な第一人者である石黒浩(大阪大学大学院教授・ATR石黒浩特別研究室室長)が共同で進める、人間とアンドロイドが舞台上で共演した画期的な演劇プロジェクトを映画化した作品です。

監督と脚本を手掛けたのは『歓待』『ほとりの朔子』の新鋭・深田晃司さん。様々な映画や作品で活躍する俳優の新井浩文さんも重要なキャラクターを演じています。

今回は深田晃司監督、新井浩文さんにインタビュー。映画について、アンドロイドについて、色々とお話を伺ってきました。

(撮影:オサダコウジ)

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―本作、非常に楽しく興味深く拝見させていただきました。この『さようなら』という物語を映画化しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

深田監督:元々は15分の短い舞台ですが、その舞台を2010年に初めて観た時から映画にしたいと思っていました。一番惹かれたのは、あの演劇が持つ強烈な“死のにおい”ですね。僕自身がもともと「メメント・モリ」と言われる、死のテーマに惹かれているというのもあるのですが、『さようなら』の、死んで行く女性とそれを見つめるアンドロイドの姿は、「メメント・モリ」の最先端にいるなと思ったんですね。「死んで行く姿を撮りたい」と思ったのがきっかけで、平田さんにお話に行ったら快諾いただいて、クラウドファウンディングで資金集めをスタートして。

―15分の演劇を2時間弱の映画作品にする事に苦労はありませんでしたか?

深田監督:アートフィルムにまで視野を広げれば、アレクサンドル・ソクーロフ監督の『マザー、サン』(1997)といった、ほとんど2人の会話で展開していくという事も可能ですけど、自分の立場では、それでは資金は集まらないだろうと。なので、今回は最初は主人公の周りに色々な人がいるのだけど、だんだん減っていく事で孤独を描くという構造にして、15分の演劇を無理矢理ふくらませた、という事も無く描くことが出来ました。

―新井さんを起用した理由についても教えてください。

深田監督:新井さんは色々な作品に出演されていて、もちろん素晴らしい役者さんだと思っていたのですが、特に『BOX 袴田事件 命とは』(2010)が印象に残っていて、大好きな作品なんです。これは僕の勝手な新井さんのイメージですが「何考えているか分からない」所が非常に良くて、これは役者さんにとって非常に重要な事なんですね。何を考えてるか手に取る様に分かる役者さんのお芝居ってどうしても浅いというか。本人が嘘をついているつもりなくても、観る側からすると「嘘をついているな」と分かってしまう。そうじゃない役者さん、次に何をするのか分からない方に出て欲しいなと思いお願いしました。

―新井さんはオファーを受けていかがでしたか?

新井浩文:深田監督の作品はこれまでも観ていて、オファーをいただいてからすぐに出させていただきたいとお返事して。脚本を読んで「このアンドロイド役って誰がやるんだろう」と思っていたら、本物のアンドロイドが出ると聞いて驚きました。

これは、うちの印象ですけど、深田監督の作品って色だったり光が作る“絵”にこだわっていると思っていて、それがハマればとても良い作品になるんじゃないかなと思いました。

後、今監督がおっしゃっていましたけど、これは「死にむかっていく映画」なので、その描写がちゃちくなるとまずいですよねって、そんな話は監督としました。でも完成したそのシーンを観た時に、そのシーンがすごく素敵で、グッとくる物になっていたので、嬉しかったです。

―アンドロイドと共演する、というのもなかなか無い経験だと思います。

新井浩文:撮影に入る前に、アンドロイドの性能の凄さを聞いていて、「未来ってどんどんそうなっていくのかな」なんて思っていたんですが、実際に撮影で見て、人間みたいな無駄な動きが出来るんですよね。まばたきとか、首動いたりとか、動き過ぎだなってちょっと思いましたけど(笑)。

当り前ですけど、アンドロイドってアドリブは出来ないじゃないですか。深田さん監督はアドリブしないでねって方だし、うちもしないので、それは良いんですけど、元々入れていたセリフを違う所で言っちゃうというミスはありましたね。「それ本当?」って聞いたら「分かりません」って言われてNGに。

深田監督:新井さんがおっしゃる通り、このアンドロイドが人間らしく見えるのは、まばたきとか首の動きといった“ノイズ”があるからなんですね。でも、そのノイズのバランスが難しい。前半の方は割とノイズ多めにしていたんですけど、僕が見ていても少しうるさいなと感じてきて、後半は減らしています。でも減らしたからって、人間らしく見えるという。「何が人間らしいのか」という事を改めて考える面白いきっかけになりましたね。

新井浩文:この先もアンドロイドが出て来る作品があるかもしれないですけど、人間らしく演じる事で、人間には勝てないですよね。人間なんですから。

深田監督:逆に人間がどれだけ凄いのかが分かるんですよね。

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―人間とアンドロイドの会話、人間と人間の会話など、独特の間と空気感を感じました。映画全体の演出についてこだわった事を教えてください。

深田監督:この作品に限らずなのですが、最初から「この役はこう演じる」と決めないで、役者さんとコミュニケーションを取りながら、生きた演出をしたいなと思っています。僕の場合、それさえちゃんとやってもらえれば、後は役者さんの個性でキャラクターが出来上がってくると。

新井浩文:本当、そうでしたね。後は台本の句読点とか「……」をそのままやれば、自然に見える様に監督が本を書いてくださっている。ヴィジョンが何も無い監督よりも、そうやってしっかり決めてくれる方がうちもやりやすいし、良い物が出来上がると思うので。

深田監督:僕は「え」とか「ああ……」と言ったさりげない相づちなども、全て台本に書き込んでいるので、それがやりやすい役者さん、やりづらい役者さんがいるのかなと思いますけどね。

新井浩文:台本はカチっとしているんですけど、コミュニケーションはちゃんとしているので、やりやすいんですよね。うちは演じながら相手の反応を見ちゃうので、あまりにもガチガチに決めてこられるとやりづらい。

深田監督:ガチガチに決めて来るのって、結構ベテランの俳優さんに多いんですよね(笑)。実際に生きている人間って、自分の性格とか、その時の気持ちから逆算して動いたりしないじゃないですか。なのに、脚本を読み込んでキャラクターを決めてきちゃう人がいると、困っちゃうなってなりますね。今回はそんな事無かったですし、新井さんももちろん。

新井浩文:うちは“無”ですから。

深田監督:台本も前日まで読まないというね、そこまでされる方というのに驚きました。

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―台本は前日まで読まれないのですか?

新井浩文:いえ、読むんですよ。全体の流れを見て、それで忘れるって作業をするんです。それで、また前日に自分のセリフだけカッチリ入れて、相手のセリフの言葉尻とかが少し変わっていたら、それに合わせる感じで「日常会話」になる様にしています。お芝居だから、全部嘘ではあるんですけど、出来る限りその場の雰囲気とか空気に合わせた自然な流れにしたい。

―そういえば、監督はアンドロイドには元々興味が無かったそうですね。

深田監督:そうなんです、と言ったら石黒先生に怒られちゃいそうですけど(笑)。興味がなかったわけではないんですが、これまでも「アニマトロニクス」と言われる、『ジョーズ』や、最近だと『ジュラシック・ワールド』で、ロボットが生き物を演じるという映画撮影用の技術はありましたし、映画として撮っても珍しくは無いと思ったんです。

今回、僕がアンドロイドにを興味を持ったのは、現代の科学技術の粋と問題点を全部ひっくるめて、人間と共演させたら面白いなと思ったからなんです。最初は「アンドロイドをそのまま映画に出演させてみよう」くらいの気持ちだったのですが、実際に撮影に入ると、アンドロイドの不自由さを感じるんですね。一方で、人間はこんなになめらかに動けるのかと。ひいては、人間の中にアンドロイド性を見出す事も出来て。アンドロイドよりも人間の方がなめらかに細かく動きますけど、それは性能の差だけであって、アンドロイドがもっと細かくに動ける様になったら、人間は結局精巧なアンドロイドに過ぎなかったということになるかもしれない、と。心のありかなんてどこにあるか分からない、

この映画のラストは人によって捉え方が異なると思うのですが、人間とは何なのか、アンドロイドとは何なのか、人間とアンドロイドとの違いは何なのか、という大きなテーマまで考える事の出来る、非常に良い体験でしたね。

新井浩文:アンドロイドは文句言わないし、生きている女優さんと違って色々と面倒な事は無いですよね(笑)。うちは人との距離感とかをすごく考えてしまうので、そこへんは楽でしたね。

深田監督:確かにそうですね。アンドロイドを動かしているのは人間の技術者だけど、アンドロイドから見て人間が「神」のような存在ならば、人間だって神の見えざる手によって動かされているだけなわけで。本質的には違いはない。そんな事を考えながら楽しんでいただければと思います。

―今日は貴重なお話どうもありがとうございました。

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

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