「号泣会見」で注目の野々村元県議、初公判欠席の影響は?
「号泣」会見で話題の議員の初公判が延期に
政務活動費の不透明な支出をめぐる釈明会見での「号泣」が世界中の耳目を集め、その後、詐欺罪で公判請求を受けた野々村竜太郎元兵庫県会議員の初公判が延期になりました。 この11月24日は午後3時より神戸地方裁判所において2時間にわたる公判手続が予定されていましたが、弁護人が野々村元県議から「精神的に不安定で出廷できない」との連絡を受けた旨を法廷で説明し、裁判所は早々に公判の延期を決定しました。公判期日は今後、あらためて指定されることになります。
そもそも、被告人が出廷しない場合は原則として刑事裁判の公判を開くことができません。民事裁判とは異なり、刑事裁判では被告人の出廷が公判期日を開始するための要件とされるとともに、被告人の在廷が公判期日を続けるための要件とされているからです。
これは、被告人の出廷抜きに開廷して刑事裁判手続を進めることができるとするならば、被告人の知らないところで裁判が進んだ結果、被告人の防御権を奪うことにもなりかねないからです。被告人は刑事裁判の当事者であり、有罪判決を受けた場合は処罰の対象になる立場にあるため、その防御権は十分に保障される必要があります。
在宅起訴のため目立ったペナルティーはない
また、今回の野々村元県議のように公判期日を「ドタキャン」して出廷しなかったとしても、それだけで罪に問われることはありません。被告人が公判期日に出廷しなければ、原則として公判を開廷できないことは上記の通りですが、勾留中の被告人が正当な理由なく出廷を拒否したような場合には、例外的に被告人が出廷しなくとも公判手続を実施できる場合があります。しかし、それはあくまで勾留中の被告人に対する例外的な措置であって、本件のように身柄不拘束(在宅起訴)の被告人には適用がありません。
仮に起訴前から逮捕・勾留されていた被告人が起訴後に保釈保証金を積んで保釈された場合であったならば、正当な理由のない不出廷は保釈取消事由となりますから、あらためて身柄拘束(勾留)の状態に戻されてしまいますし、保釈保証金も没収されてしまうことになるでしょう。しかし、野々村元県議は在宅起訴のため、このようなペナルティーもありません。
実刑判決はあまりに過酷な量刑判断
ただ、在宅起訴された被告人が正当な理由なく出廷しない状況を続けた場合には、勾引(こういん)状と呼ばれる令状によって身柄を拘束したうえ、無理やりにでも出廷させることが可能です。勾引状の有効期間は24時間とそう長くはありませんが、1回の公判期日のためならそれで十分だと考えられます。そのうえ、さらに公判期日における不出廷を重ねるようならば、それまでの不出廷の実績などを勘案して「逃亡を疑う相当の理由あり」として勾留することも可能です。
なお、今回の「ドタキャン騒動」を受けて、野々村元県議に対する「実刑判決」を声高に叫ぶ「専門家」もいらっしゃるようです。しかし、野々村元県議の起訴罪名は詐欺罪ですが、被害額1800万円余りについては全額、既に弁償されています。前科前歴がなく被害の全額を弁償した詐欺事件の被告人に対する「実刑判決」は、余りに過酷な量刑判断ではないかと私には思われます。
ただし、裁判官も人の子ですから、野々村元県議が今後も正当な理由なく公判期日における不出廷を繰り返した場合には、「反省の色がない」との判断から、ある程度は量刑判断も厳しくなってしまうのではないでしょうか。野々村元県議にとっては「前門の虎、後門の狼」状態ですが、今後も裁判の動向が注目され続けることには変わりがないと思います。
(藤本 尚道/弁護士)
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