ハウステンボスに分譲住宅が!? 中古でも高く売れるワケ
オランダの街並みを再現した長崎県佐世保市のハウステンボス。大村湾に面したこの施設の敷地内に、住宅街が併設されているのをご存じだろうか。築23年の中古住宅にもかかわらず、価格も上昇し、コンスタントに買主がつくその魅力を取材した。
オランダ人が一生に一度は住んでみたいと夢見る街! 庭先にボートをとめられる家
ハウステンボスの東側に位置する住宅街「ワッセナー」。オランダ・アムステルダム郊外の住宅地「WASSENAAR」をイメージして、1992年のハウステンボス開業当時から運営されている。建物の外観は、伝統的なオランダ家屋をモデルにしており、戸建住宅は130区画、低層タイプのマンションは120世帯。別荘として利用している人が7割、定住者が3割で、会社の保養施設として活用しているオーナーも多い。ハウステンボスと調和のとれた景観で、ヨーロッパの住宅街に迷い込んだような美しい街並みだ。
【画像1】6割の戸建住宅には桟橋も設置。家の前に広がる運河にクルーザーを横付けし、クルージングや海釣りを楽しむ住民も多い(写真撮影:岸本みなこ)
ワッセナーが完成したのは1992年のこと。一般的に、築20年を過ぎた戸建住宅は資産価値がほぼゼロになるといわれているが、築23年のワッセナーは、下がるどころか近年では価格が上昇している。例えば一戸建て。販売当初は7000万円だったが2002年には2000万円にダウン。しかし、2015年には1000万円アップし、3000万円で販売されている。都心の一等地ならありうる話だが、特殊な環境にもかかわらず、なぜアップしているのだろう。
【表1】2002年以降、土地の価値が上がったことにより物件全体の価格も上がっている。価格の推移はハウステンボスの経営状況も影響しているそうだ(出典:ハウステンボス・技術センター株式会社)一戸建てにも共益費!? 資産価値アップの鍵は「住宅環境の管理」
「運河と緑に囲まれた美しい住宅環境が一番の魅力ではないでしょうか」。そう話すのはハウステンボス・技術センター株式会社の岳本忠晴さんだ。「国内の海際の土地は、家を建てようとしても台風や高潮対策として防波堤などがあり、国の管理地となっているのが一般的です。しかしワッセナーの場合、外海は湖のように穏やかな大村湾。住宅前の運河は、水門の開閉によって運河の水位を一定に保つだけでなく、水質も管理しています。護岸はコンクリートではなく、自然石を積み上げ、自然と調和した美しい住環境をつくり出しています。このような恵まれた環境は、日本中探してもそうそうありません」
それに加え、建築協定による家屋のデザインの統一や緑化協定による植栽の管理規約が設けられていることにより、開発当初から景観が維持され、23年たった今でも魅力的な街並みが広がっている。
【画像2】港町の漁師の家をモデルに設計した家屋。「窓は縦長」「外壁の色調は白系かグリーン系」など、すべての戸建住宅のデザインは建築協定をもとに設計されている。電柱は地下に埋め込まれているため、映画のセットのような風景が広がる(写真撮影:岸本みなこ)
ワッセナーの住環境を維持するために必要なのが、各住戸からの共益費。一般的にマンションでは共益費があるが、一戸建てで共益費がある場合はほとんどない。ワッセナーではマンションだけでなく、一戸建てを含めて各住居に共益費があり、家屋の大きさによって月2万〜5万円ほどの負担がある。「海や樹々に囲まれたこれだけの環境を維持するためには、決して高いとは言い切れないと思います。入居しているみなさんにもご納得いただいており、共益費によって管理することで資産価値が高まり、結果的に物件価格の上昇につながっているのではないでしょうか」と岳本さん。
確かに、金額だけ聞いたら高いと感じる。しかし、街の中は電柱もなく道端にはゴミもなく、まるで公園のなかに住んでいるような日常風景。運河の水質も良好に保たれており、不快なものが何一つ見当たらない環境に住めるのなら、この費用は思わず納得してしまう。
【画像3】共益費によって管理されている運河は全長約6km。4日間で水が循環するようにつくられているため磯臭さがほとんどなく水が透けて魚が見えるほど。護岸もコンクリートではなく石積みにして微生物の住処をつくるなど、できるだけ自然な形でつくられている(写真撮影:岸本みなこ)
管理センターによる24時間体制での警備、防犯・防火のセキュリティシステムなど、安心して暮らすことのできる環境が整っているのもワッセナーの人気が衰えない大きな魅力となっている。
【画像4】私道のゴミや落ち葉なども共益費によって管理されている。管理センターのスタッフが定期的に清掃し、常に気持ち良く暮らすことができる(画像提供:ハウステンボス・技術センター株式会社)住民主体の自治運営をめざして意見交換
日本の住宅の管理は管理会社が主体となることが多い。ワッセナーでも管理会社による管理体制が基本となっていたが、近年では米国で行われているホームオーナーズアソシエーション(HOA※)という住民参加型の運営に近い動きも見られるようになったという。
「最近では、街づくりの規制を緩和してより住みやすくしたいと住民の方から意見が出ています。ただ、要望をすべてカタチにしてしまうと街並みの調和が乱れることもあるので、管理会社で調整しながらみんなでルールをつくって、より魅力ある街をつくりたいと思っています」
※HOAとは、街を所有・管理する住宅所有者の組合のことで、住民が主体となって街並みや景観づくりを行うというもの。HOAを日本の住環境に応用していこうとする動きが明海大学不動産学部の齊藤広子教授を中心に広がっている。
数十年たっても資産価値のある家を残すこと。それは、一人ひとりの家主が日ごろから家や庭のメンテナンスを行って、街全体を美しい状態に保つことが大切だ。そのためには一戸建てにも管理の仕組みを設け、いつか売却することを視野に入れながら住むことが日本の住宅の資産価値を上げる近道のように感じる。また、HOAは、仕組みとしては素晴らしいが、まだ一般化していないこともあり、自分が行うとなると腰が重く、管理会社に任せるほうが楽だと感じてしまう。「面倒くさい。でもHOAが当たり前になるとこんないいことがある」という情報を住宅の専門家が広めることで、社会の意識が変革することを期待したい。
●ハウステンボス・技術センター株式会社
元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/12/03/101746/
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