【お笑い芸人 ゴルゴ松本さんの仕事論】何でも全力でやる。そうすれば“命”を“使”うための“使命”に気づく

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お笑いデビューは27歳。
同期の中でも遅いスタートだ。
全くウケなかった最初のライブから、
お笑いコンビ「TIM」は
どうやって人気者になっていったのか

家賃3万円のアパート暮らしでも、好きなことなら苦しくない

お笑いでデビューしたのは27歳の時です。それまでは5年間、役者をやっていました。小さいころから人を笑わすのが大好きだったので、人前に立つ仕事がしたくて。今みたいに「お笑い芸人」への道が確立されていたわけじゃなかったですから、とりあえず役者をしようと。

でも役者だけでは食べていけなくて、かけもちでいろんなアルバイトをしていました。トラックの運転手とか、配送の手伝いとか、お弁当屋さんの販売員とか。家賃3万円のアパートに住んでね。生活は楽じゃなかったですけど、将来への不安は全くありませんでした。やっぱり好きだったからでしょうね。人って好きなことをするためならどんな生活でも苦しくないんですよ。

そのアパートの隣に住んでいたのが、相方のレッドです。ある日、レッドから「プロダクションがコンビでのネタ見せを募集しているから行ってみようぜ」と誘われて。ちょうど役者じゃ食えねえなと考えていたところだったので、一緒に行くことにしたんです。5年間やってきた役者の経験が活きたのか、ネタ見せに一発合格してライブに出られることになりました。

最初のライブでは全くウケませんでしたよ。間が悪くってね。隣見たらレッドがガチガチに上がってた。レッドだけに真っ赤になって(笑)。その後もネタをいろいろと考えたんだけど、2年間いいネタができなかった。

そんなある日、横山やすしさんが亡くなったんです。大好きな人だったんで、追悼番組を全部録画してレッドと2人で「やすきよ」(横山やすし・西川きよし)さんのネタを片っ端から書きおこしたんです。どれもむちゃくちゃ面白かった。子どものころに見ていたものなのに、時間が経っても面白い。なぜだろうと何度も見て考えた。結局、やすしさんもきよしさんも“人そのもの”が面白いんですよ。動きやリズムが面白い。それで自分たちも同じ動きでやってみようと漫才のスタイルを変えたんです。そしたら笑いが取れた。嬉しくってね。2年間で消えそうになっていた笑いの火種がまた燃え上がって。「よし、もっと笑いをとってやろう」とどんどんネタが浮かんできたんです。やっぱり、前向きになるとうまく回っていくんですよ。

その後、無名の若手がたくさん出る正月番組に出演することができて、その番組を見てくれていたとんねるずのお二人が「一番面白かった」と僕たちに声をかけてくれたんです。小さいころから憧れていた人たちでしたから、もうむちゃくちゃ嬉しくて。その言葉でますます火がついた。「もっともっと笑いを取ってやるぞ」と。言葉に勇気をもらったんです。その言葉があったから、その後もずっと自信を持ってやることができた。やっぱり言葉っていうのはすごいものなんですよ。

人は死んでも言葉は死なない。ずっと心に残って人を支え続けることができる。言葉の力はすごいなと。それで言葉の研究を始めたんです。もともと大の歴史好きだったから、文献を調べるのも好きで。それで、「命」っていう字はどうしてできてるんだろう、とか、漢字の意味を調べて自分なりに解釈を加えていった。調べれば調べるほど、言葉ってすげえなと。そうやって解釈したことを書き留めていたら、たまたま落ち込んでいる後輩芸人がいて、そいつらを励ますために漢字を使って話をしたんです。それが「命の授業」のもととなりました。

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2011年からは少年院でも
ボランティアで授業をするようになり、
いつしか「命の授業」と
呼ばれるようになった。
その様子を収録した番組は話題となり、
内容をつづった本はベストセラーとなった

心にビビっときたら、未来の自分が“すべきこと”を教えてくれている

ボランティアを始めたのは、知人の知人で少年院で話をしているという人とたまたま知り合ったのがきっかけです。「松本さんもやってみませんか」と声をかけられて。その人と何度も話をするうちに「じゃあ、1回だけやってみようか」と。でも実際に少年院に行って話してみたら、これは一回で終わらせてはいけないなと、天命のようなものを感じたんです。

僕は何かを感じたら素直に従うようにしているんです。直感は大事ですよ。直感は“突然の閃き”です。でもこれは自分で気づこうと思って気づけるものじゃない。誰かに“気づかされる”ものなんです。

「命」という人文字ギャグもそう。あのギャグはたまたま東武東上線の駅のホームで故郷の秩父の山を見ていて思いついたものなんです。ちょうど「何か体で表現できる新ギャグはないかな」と考えていたときでした。電車を待ちながら「何かないかな、何かないかな」と山を見ていたら、突然、「命」という文字が浮かんできたんです。「あ!できた」と。その直感を信じたら「命」で有名になれて、今の「命の授業」につながっていった。やっぱり気づかされたんだとしか思えない。心にビビっときたら、その思いを大事にしたほうがいい。それは未来の自分がすべきことを教えてくれているんですよ。

人にはやらなきゃならない役割のようなものがあります。人は与えられた何かのために、“命”を“使”い果たす。それが使命です。そのために人は生きているんです。そうやって一生懸命生きたらいつか寿命がくる。命ってそうなっているんです。

全力でも壁を乗り越えられないのは、「方向転換」のサイン

仕事がつまらないという人、多いでしょう? 生活のために仕事をしていたらつまらないですよ。働くっていうのは、自分が楽になるためにやるんじゃない。はた(傍)が楽になるから「働く(はたらく)」なんです。周りの人を喜ばせることが仕事なんですよ。仕事を楽しくしたいなら、周りの人を喜ばせなきゃ。まずは、そこからです。

僕がこれまで仕事をする上で、一つだけ守ってきたことがあります。それは「全力でやること」。小さな力でもいい。今持ってる力、全部で向かうことが大事。全力で当たるから壁にぶつかることができるんです。全力じゃないからいつまでも壁がこないし、同じところで何度もつまずく。仕事がつまらないなんてことになる。全力で当たって、壁にぶつかって、それをまた全力で乗り越えるから人は成長するし、嬉しくなる。もっといいものを出してやろうと思う。その繰り返しなんですよ。

壁にぶち当たって、全力で取り組んでも乗り越えられないこともあります。それでもいいんです。それは「方向転換」しろというサインなんですよ。ちゃんとした道に向かわせる力が働いているってことなんです。そしたら別の道を探せばいい。僕も小さいころから甲子園に憧れてずっと野球をやっていて、結局甲子園に出られたんだけど、野球の道はそこまでだった。ほかにすごい人たちがたくさんいましたから。それも全力でやってたから、そう思えたんですよ。

高校の野球部を引退したとき、つき物が落ちたように興味がなくなって。自分には別の道があるんじゃないかと思ったんです。そしたら「小さいころから人を笑わすのが好きだった」ことを思い出して。それで上京しようと決めたんです。やっぱり全力で壁にぶつかってなきゃ、本当に進むべき道なんてわからないんですよ。

「信じる」とは「人」へんに「言う」。人というのは「自分」のこと

全力で仕事をするときに、必ずしなきゃならないことがあります。それは「覚悟」を持つことです。持ってない人、多いでしょう? すべての力を出し切るには覚悟が必要なんです。覚悟とは責任です。自分でやったことにはすべて責任を持つということ。大変だけど、自分を信じろ。そしたら自信が湧いてくる。自信と言うのは自分を信じることから生まれるんです。信じるとは「人」へんに「言う」と書くでしょう。人というのは、他人のことじゃない。「自分」のことです。自分の言うことを信じるから、自信というんです。やればできる。自分を信じて覚悟を決めれば、何でもできるんですよ。

information
『あっ!命の授業』 ゴルゴ松本著

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テレビで放映されるやインターネットで大反響となった「命の授業」。「傷つくときが気づくとき」「心を亡くすと書いて忘れる」「感じたら謝ると書いて感謝」「昔の人は、明日を明るい日と決めた」「奇跡を起こす心を好奇心と言う」などたくさんの言葉や漢字のゴルゴ流解釈で、自分は生かされていることを知り、生きる勇気を与えてくれる本。何のために生きているのかわからなくなった時、目標を見失った時、自分を変えたいと思った時、しんどいときに前向きに生きるヒントを与えてくれる。
廣済堂出版刊

 EDIT/WRITING高嶋ちほ子 PHOTO栗原克己

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